〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<32>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「ヴィンセント……ッ! あぶな……」

 

 ガゥンガゥン!

 

 俺が叫ぶと同時に、彼の銃口が火を放った。

 

 グゥオォォォ!

 

 いったい、どこに身を潜めていたのか。

 熊ほどもあるような、モンスターが、眉間に赤い花を咲かせて、ドォッ!とばかりに仰向けに倒れた。

 撃ち抜かれた額から血が噴き出すが、それはヤツの長い体毛に吸い込まれ、こちらまで流れてくることはなかった。以前寒冷地での任務で見たことがあるような化け物だ。

 モンスターの生態も、神羅のせいで狂ってきているのかもしれない。

 

「ふぅ……焦った。ありがと、ヴィンセント。さすがだな」

 俺は素直に礼を言った。

「いや……私は両手が空いていたから」

 負傷した女は背負っていたので、有利だったと言いたいのだろう。まったくもってご謙遜だ。俺が注意を促そうとしたときには、もう彼は引き金を引いていたのだから。

「行こう、ヴィンセント。今の銃声でティファが来るかも……」

「…………」

「ヴィンセント? どうした?」

 突っ立ったまま、その場から動かないヴィンセントを振り向く。彼は無言のまま、背負った女性を、物陰に横たわらせた。

「……クラウド、まだだ」

 銃をホルダーに戻さず、ゆっくりと歩き出す。彼に習って腕の中の女性を同じ場所に落ち着かせ、背から大剣をとりだした。

 ヴィンセントに並ぶと、彼が微動だにせずに凝視している暗闇を見つめた。

 

『……クラウド……』

 その声は、直接、頭の中に響いた。

 俺にとっては聞き慣れた……なつかしささえ感じる低い声だった。

『……クラウド…… まだ、こんな場所にいるのか……?』

「……セフィロス?」

 掠れたつぶやきはヴィンセントのものだった。その声が聞こえているのは、俺だけではないと知った。

『クラウド……早く来い』

 ゆらりと暗闇で、長い影が動いた。

 ゆるりゆるりと、まるでそこだけ蝋燭の炎にでも照らし出されているかのように。

 黒い影は短く縮んだり、妖怪のように長細くなったりしながら、ずるりずるりと暗闇から這いずり出てきた。

 さきほどヴィンセントが倒したモンスターの残骸を、容赦なく踏みつぶす。

「な……何なんだよ……おまえは……?」

 自分の声がどこか他人のもののように聞こえる。

『……私の声がわからないのか? 寂しいことだな、クラウド』

 「セフィロス」とつぶやいたヴィンセントのことは無視して、黒い影は俺に語りかけた。

 ずりずりと這いずってきた『ソレ』は、俺たちの目の前で、徐々に形を作り出す。

 地面に泥のようにこびついていたものが、いつしか俺の身長を超え、長身のヴィンセントを凌駕するほどに大きく形づくられていった。

 

 

 

 

 

 

 グズグズと土塊が小山ほどの大きさになり、その中に俺は信じがたいものを見た。

 汚泥の一部が、徐々に人間の顔を成し、銀色の前髪を作り出す。

 人の顔の形に見えたその部分が、雪のように白い肌に変わる。長い銀の睫毛、絹糸のような長い髪……色味の薄い唇が、今は妙に紅く見える。

 他の部分はどろどろの土のかたまりなのが、より一層不気味な感じだ。

『クラウド……』

 綺麗な形の唇が、きちんと『人間らしく』動いて、俺の名を綴った。

 瞬間、猛烈な吐き気を感じて、俺は片手で口を強く押さえた。

 空えずきを繰り返す俺を庇うように、ヴィンセントが前に立つ。

 

 ……バカ……!

 セフィロス・コピーには、以前にも船の中でも遭遇したではないか!

 いちいち、こんなことでビビッていてどうする。

 

「……ほ、本物のセフィロスは……」

 咳払いで吐き気をごまかして、俺は何とか口を開いた。

「セフィロスは……古代種の寝殿……だろう。それ以外には用はない」

『…………』

 セフィロスの顔だけを真似た土塊が、無言のまま俺を見る。昔と同じ、氷のような蒼い瞳で。

「……だが、コピーとはいえ、この惨状がアンタの仕業なら、ここで斬るまでだ」

『フ……フフフ…… おまえも仲間のくせに……』

 ずるずると土塊が動いた。セフィロスの顔がぐずりと崩れ、今度は別の人間の顔が浮かび上がってくる。

『おまえも…… 我らと同じくせに……』

 金の髪に碧眼……何度も何度も鏡で見た顔……

 ……そう、それは、俺自身。

 クラウド・ストライフの顔になっていたのだ。