〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<31>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 ホラーハウスを模したこのホテルは、いわゆるホテルエリアの中で、もっとも中心部にあるのだということは以前にも説明した。

 そこからでて、モールをくぐれば、すぐさま連絡通路のセンターホールへ出られる。

 センターホールは、その名の通り各エリアへの入り口が設けられており、すぐに行きたい場所へ出られるようになっているのだ。

 心許ない不安感が現実のものとなるのに、そう時間はかからなかった。

 俺たちはさっそくホテルエリアを出て、センターホールへ赴いたのだ。

 ゴールドソーサーにおこった、あからさまな異変をつきつけられたのは、まさしくそのセンターホールであった。

 ホラーハウスを模したホテルは、薄暗く、他の来館者に遭遇することはなかったからだ。

 

「これ……血……だよね?」

 ユフィに言われるまでもなかった。

 ワンダースクェア、ゴーストスクェア 、スピードスクェア 、バトルスクェアとエリアが別れているが、それぞれの通路へ向かって、何かを引き摺ったような赤黒い血痕が残っている。

 黒く変色して乾きかけている物、まだ生々しい真紅をしているものとあるが、人命に関わる事件が発生したのは明らかだった。

「私たち、ゴーストスクェアから来たけど……」

 

「暗かったからな。以前に気づかなかっただけかもしれない」

 エアリスの言葉に覆い被せるように、俺はそう応えた。

「モンスター……かな? でも、神羅の施設だし、対モンスター設備は搭載していそうなもんだよね」

「想定外のモンスターとも考えられる」

 そう言いながら、俺は心のどこかで何らかの応えを導き出そうとしていた。

「『セフィロス・コピー』か……?」

 バレットのつぶやきは、その場に居合わせたメンバーから、言葉を奪うくらいの衝撃であった。

 俺だけは、何故か心のどこかで、『ああ、やっぱり』と思っていた。

「ク、クラウド…… 本当にセフィロスのコピーがまだ居るの?」

 ティファが、恐ろしい童話の一ページをつまむように低く訊ねた。

「……わからない。今は何とも言えない」

「みんな、助けなきゃ。きっと怪我して動けない人もいるはずよ」

 常に前向きの意見は、なぜかもっとも戦闘に不向きなエアリスの口から出るのだ。

「ああ、そうだな。だが、敵が全くわからない状態だ。決して無理はするな」

「クラウド、落ち合う場所を決めて二手に分かれようぜ。園内に怪我人も多いだろうし、本当は三グループくらいで、探索したいところだが、リスクでかすぎだろ」

 バレットが言った。

 俺にも反論はなかった。もし、万一セフィロスコピーであった場合、二対一では不利だと認めざるを得なかったからだ。

 俺とヴィンセント、ティファ。

 バレット、ユフィのチームには、回復のできるエアリスに入ってもらうことにした。

 

 互いにPHSを確認し合い、万一の場合には、早急に駆けつけるというルールを取り交わした。

 

 

 

 

 

 

「……回復薬はいくつかあるけど、大半はタイニーブロンコの中に置きっぱなしだからな。ふたりとも無理はするなよ」

 俺はヴィンセントとティファに言った。

 回復魔法を使えるエアリスがいないとなると、戦闘は慎重にならざるを得ない。数少ない回復薬も、怪我人に分け与える必要があるかもしれない。

 特に、ヴィンセントなどは、負傷した民間人を見捨てるような真似はできないだろう。

 事実、バトルスクェアの出入り口で倒れていた人々に手当をしたとき、一瓶使い切ってしまっている。

「……クラウド。こっち」

 ティファに手招きされ、足を進める。

「血痕、闘技場の中のほうまで続いているみたいだね。ヴィンセント、そっちのほうはどう?」

「ああ、チケット売り場を通り過ぎている。やはりバトルフィールドの中に……」

 ヴィンセントの指摘に、俺は頷き返した。

「……ヴィンセント、中に入るぞ。ティファは入り口付近の警戒を頼む」

「二人で大丈夫?」

 やや不満げに訊ねてきた彼女に、軽く手を上げただけでいなした。

 ヴィンセントと俺は斜めに並ぶようにして、薄暗い闘技場を進んだ。やはり血痕はここまで続いている。

「クラウド、あそこ……!」

 黒い固まりが蠢いているのを見つけ、ヴィンセントがすぐにそちらに向かう。

 俺は慌ててそれを制した。

「待てよ、ヴィンセント。暗くてよく見えない。危ないぞ!」

「違う、敵じゃない。手を貸してくれ」

 俺よりも夜目が利くのだろうか。

 薄暗い室内を素早く移動し、ヴィンセントは年若い女を背追い上げた。

「気を失っている女性がもう一人いる。そっちの奥だ。……気の毒に、友人と共に、余暇を楽しみにでも来たのだろうに……」

「……ふぅ、わかった。もうひとりは俺が運ぶ。後のことは外に居るティファに任せよう」

 ヴィンセントが指し示した暗がりの奧に、確かに髪の長い女性がうずくまっている。俺はやれやれと彼女を抱き上げ、ヴィンセントの後について、入り口へ戻ろうとした。

 

 尋常ならざる気配を感じたのは、踵を返したその一瞬のことであった。

 

 チッと、金属を擦り合わせたような音がした。

 それも、はっきりと聞き取れたわけではない。

 

 だが、俺の本能とでもいうべきものが、その微細な音に反応した。