〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<30>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 その日の夜は、泥のように眠った。

 たぶん、俺だけでなく、他の連中もそうであったに違いない。

 なんせ、ロケット村から飛び立ち、乱気流で墜落。ゴールドソーサーくんだりまでやってくることになったのだから。

 ヴィンセントと一緒にホテルのフロアに戻ったときも、すでに廊下はシンと静まりかえっていて、どの部屋の住人も、皆寝入っていたのだと思う。

 

 翌日は、情けないことに、昼近くに目覚めた。しかも、シドのモーニングコールでだ。

 タイニーブロンコの修理に早速着手してはいるが、元の飛行機としての使用は難しく、なんらかの手を打つという報告であった。

 もう一日の猶予が欲しいとのことだが、それについて俺に異論のあろうはずはない。

 ここは専門家に任せるしかないのだから。

 

 他の皆にもその旨を説明し、今日は予定通り身体を休めるようにと伝えた。

 もっとも、昨夜一晩の深い眠りの効用もあったのだろう。

 足の具合が大分良くなったユフィや、女性陣は、せっかくのゴールドソーサーとばかりに、フリーパスを十分効果的に利用するつもりらしかった。

 

 俺は我ながらしつこいと自覚しつつも、共に時間を過ごしたくてヴィンセントの部屋を訊ねた。

 昨夜はゴンドラでめずらしい一面を見せてくれた彼であったが、今日はいつもどおりの落ち着いた雰囲気に戻っていた。

 ふたりで、ゆっくりと朝食兼昼食をとり、その後は園内の散歩をした。

 ユフィではないが、何か乗りたいものやしてみたいことがあればと勧めたのだが、ヴィンセントは、昨夜ゴンドラに乗れたのが嬉しかったと繰り返した。

 絶叫系だの、ゲーセンに興味を示すこともなく、時間があるなら園内を歩きたいというリクエストに応えることにしたのだ。

 僻地に立てられたゴールドソーサーは、とにかくだだっ広い。

 ミッドガルのような都会では、到底こんな規模のアミューズメント施設は作れないだろう。

 テーマパークの中心地に、各エリアの目玉が集結し、その周辺にメインの宿泊施設や庭園があるのだが、そこを一回りするだけでも、のんびり歩けば二時間以上もかかるのだ。

 その間、ヴィンセントのほうから、積極的に自身のことについて話してくれることはなかったが、まったく退屈することはなかった。

 彼はとても聞き上手で、俺のつたない話を何度も頷きながら聞いてくれたから。

 

 ……そう、あまりにも平和すぎる時間だったのだ。

 セフィロスを追う旅に出てから、こんな穏やかな時間など過ごしたことがなかった。

 

 いや、むしろそれが当然なのだ。

 相手はあのセフィロスであり、俺たちは、神羅カンパニーさえ敵に回しているのだから。

 いかに、アミューズメントパークに滞在しているとはいえ、油断してはならなかった。

 束の間の憩いの時は、この穏やかな日の夜半……破られたのだ。

 

 

 

 

 

 

「クラウド! クラウドってばッ!」

 繰り返し扉を叩かれて、俺は寝入りばなを起こされた不機嫌さで、ドアを開けた。

 顔を見ずとも、誰が来たのかはわかっている。

 聞き慣れたこの声はティファだ。

 

 だが、予想と外れたのは、ティファだけではなく、他のメンバーも揃っているということだった。

 

「……なんだよ、どうしたみんなで……こんな時間に?」

「こんな時間って、まだ10時過ぎじゃん。クラウドお子様過ぎ」

 すっかり足の具合もよくなったらしいユフィに言われて、思わずムッとしかめつらをした。

「……クラウド、園内の様子がおかしいんだ。つい半時前まではライトアップもそのままに、昨夜と変わらなかったのだが、今は物音ひとつしない」

 ヴィンセントが慎重にそう言った。

「なんかね、このホテルエリアだけみたいなの、電気ついてるの」

 とエアリスが言葉を添える。

 言われてみれば確かにおかしいことではあった。

 このアミューズメントパークは、深夜0時まで開園している。だからこそ、ホテルエリアの各室は、完全防音室になっており、光も音も遮断されるのだ。

 それゆえ、カーテンを開ければ、夢にも目映い人工光が漏れ出すはずなのに、廊下からの眺めも漆黒の墨を流し込んだようであった。

 俺は窓に近寄って、そのひとつを開けてみたが、なるほどアトラクションの音どころか、絶えず流れているあの陽気な音楽も聞こえてくることはなかった。

 ところどころ弱々しい光が点っている部分もなきにしもあらずであったが、それはあきらかに『業務用』の非常灯といったレベルのものだ。

「本当だ…… なにか、あったのかな」

「何か特別な事情があれば、館内放送が入るんじゃねーのか?」

 とバレット。

「……私もそう思うのだが……嫌な予感がするのだ」

 ヴィンセントがつぶやいた。

 彼の言葉だからそのまま同意するというつもりではなかったが、ヴィンセントは慎重な人だ。

 バレットがいうように、何らかの不手際があれば、きちんと告知して来館者に伝えるだろう。それさえもなく、停電に近い状況というのが解せない。

 

「……そうだな、ここが神羅の施設だってこと、忘れてた」

 俺は油断していた自らを戒めるようにそう言った。

「念のため、外を確認しよう。なんでもないならそれでよし。……武器を忘れるな」

 わざわざ言うまでもなかった。

 皆、それぞれの手に、得物を持っていた。