〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<29>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

「いや、もうレースのコースは急カーブが多いからね! もう、こう、ぎりぎりのインナーで手綱を捌くんだよ」

 俺は実際にそのときの身のこなしを実演した。

「そして何より大切なポイントがある」

 指を立てて、俺はそう言った。

「ほぅ」

「正式なチョコボレースは長距離なんだ。だから、短距離みたいに、走行テクニックだけじゃダメだ。いくらスタートダッシュがよくても、チョコボのスタミナが尽きたら終わり。コース半ばでへたばっちゃって、動かなくなっちゃう」

「ああ、なるほど。急いてばかりではいけないのだな」

「そう。気性の荒いチョコボは、どうしても前に出ようとするからね。最初から飛ばしすぎるんだよ。そこを上手くコントロールして、最後にゴールダッシュ。これで優勝! もちろん、スタミナを気にして、大差がついてからじゃ取り返しが付かなくなるだろ? その辺の調整が難しいかな」

 博識で大人なヴィンセントが、真剣に相づちを打ちながら話を聞いてくれるのが嬉しくて、俺は調子に乗ってしゃべりまくった。

「ますます見たくなった。……おまえはとても運動神経がいいんだな」

「えー、うん、まぁね。チョコボとの相性はいいみたい」 

 そういうと、ヴィンセントが声を立てて笑った。

 もちろん、大声を上げてゲラゲラ笑ったわけではない。だが、どんな小声であっても、たいそう面白げに笑ってくれたのは、俺にとって快哉を叫びたいほどに嬉しい出来事であったのだ。

 

「あ、じゃあさ、ヴィンセント。チョコボレースは一日おきに飛び入りレースがあるからさ。明後日、俺、エントリーしてみようか?」

「本当か!?」

 そんなに興味があるのなら……と、さりげなく申し出てみたのだが、彼は切れ長の双眸を驚きの形に広げて、声を上げた。さっき笑ってくれたときよりも、十分『大声』だったと思う。

「ヴィンセントが観たいって言ったんだろ? ま、勝てるかどうかはわからないけど、俺の勇姿を見せてやるぜ!」

「ああ、そうか! だったら、観覧席から精一杯応援するから! 他の皆も連れて、声が枯れるまで……」

「いや、別に他の連中はどうでもいいんだよ。ヴィンセントが観たいんなら、そうしてやろうかなって……」

「クラウド……」

 しみじみと名前をつぶやかれ、まずい!と顔を上げた。

 目線が合って、自分の頬が紅くなるのを自覚する。

 

 

 

 

 

 

「ごめん、なんか、変な言い方になっちゃって! これじゃまるで特別な関係みたいだよな! 気持ちワルイよね?」

「い、いや……そんなふうには全然……」

 そう否定してくれてから、彼はさらに言葉を続けた。

「むしろ、おまえの好意が不思議で……まだ出逢ってから間もないし、私は……その、自分のことはほとんど話していない。気味が悪いのは、こちらのほうかと考えるのだが」

「ヴィンセントがキモチワルイ? ハッハッハッ、やっだなァ、なに言ってんだ、アンタ!」

 ふたりきりのゴンドラだから、周囲にはばかる必要もない。後からちょっと下品だったかもと思われるほど、大声を上げ膝を叩いて笑った。

「確かにあんまり自分のことは話してくれないけど、だからって気持ち悪い……なんて、短絡的すぎだろ? ヴィンセントは頭も良くて、やさしいし、上品で、きっと育ちがいいんだろうなって思うよ」

「そ、そんなことは…… 私はそんな人間では……」

「何で、わざわざ神羅に入社したのかは知らないけど、少なくともヴィンセントに対してそんなふうに感じるヤツなんていないって。ウチの連中だって、根掘り葉掘り過去の話を聞いたりはしないだろう? みんな、俺と同じように思ってるんだよ」

「…………」

「あぁ、でも奴らの中でも、俺が一番だからね」

「い、一番?」

「そう! 俺が一番、ヴィンセントと話したいと思っているし、こうして一緒に居たいって感じる!」

 彼を困惑させないよう、最後に言葉を付け加えるのを忘れない。

「な、なんか、告白っぽくて、迷惑になるといけないから言っておくけど……正直、どうして自分自身、こんなにアンタに対して強く惹き付けられるのか、よくわからない。でも、今は、自分の感情に名前を付けないで、人として……そう、人間として、すごく好きなんだ」

「え……」

「アンタのやわらかで静謐な雰囲気も、別の世界から来たみたいな不可思議な空気も、もっと近くに行って、知りたい、感じたいって思う」

「誉められているようで……なんて返せばよいのか……困る」

 声のトーンは変わらなかったが、夜闇の中でも、白い頬にうっすらと赤味が指したことに気づいた。

「困らせないように、俺の気持ちを説明したのに。やっぱ、ヴィンセント、好きだなァ」

「そう……あからさまに言われると……」

「へへ、じゃあ、明後日はチョコボレースね! 約束!」

「ああ、楽しみにしている……!」

 そう言って頷いてくれた彼に、窓の外を見てくれるよう促した。

「ほら、また花火が始まった。……せっかくだから、景色観よう」

「そうだな。やはり何度眺めても、光の洪水は艶やかで美しく飽くことがない……」

 ヴィンセントの表現は、非常に詩的なのだ。

「俺、ヴィンセントがもっとずっと観ていたいなら、何周したってかまわないよ。付き合うよ」

 彼と同じように、夜闇に花開く万華鏡を眺めつつ、夢見心地でささやいた。