〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<24>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 コレル北口から乗車したときは、徐々に遠ざかる寂れた風景に情緒を感じたものだが、ものの二十分足らずで俺たちを取り巻く風景は一転した。

 にぎやかに天を飾る、色とりどりの花火。場違いなほど明るい音楽が、窓を閉じていてもロープウェイの座席に飛び込んでくる。

 ときおりワーッと大きな歓声が響くのは、多分チョコボレースが催されているせいだろう。

「キャーッ! あこがれのゴールドソーサー! ウータイにいたころから、一度は来てみたかったんだ!」

 ユフィが歓声を上げる。

「んだよ、オメェ、神羅は嫌いじゃなかったのかよ」

 バレットが呆れたようにそう言った。

「神羅は嫌いだけど、遊園地は好き! あー、ワクワクする!」

「はしゃぐのはいいけど、足に気をつけてね、ユフィ。……そうねぇ、私も初めてだけど、せっかく来たんだから、楽しんでもいいじゃない?」

 エアリスが建設的な発言をした。彼女はいつでもマイペースだ。

 

 そうこうしているウチに、疑似キャラを模したロープウェイが光のドームに包まれた。

 ガクンと小さく揺れたかと思うと、ご丁寧に『お迎えの放送』が流れ、俺たちは当初の目的地に着いたことに気づいた。

「ようこそ、光の夢の世界、ゴールドソーサーへ!」

 バニーガールのコスチュームを身につけた案内嬢が、こぞってチケット売り場へ誘導してくれる。

 ただでさえ乏しい軍資金からの出費は痛いが、背に腹は代えられない。今は傷の手当てと身体を休めることだ。

「いらっしゃいませ! 入場チケットには、ゴンドラ、チョコボレースの観覧席、およびゲームプレイスへの入場がついております。その他、フリーパスのご用意もございます。こちら一枚で、三名様ほど、ご自由にアミューズメントプレイスにて……」 

「あ、いや、 ……入場チケット六枚」

「ちょっと、クラウド! けちぃ! 遊園地にも行きたいー!」

「バカ言ってんな! 遊びに来たんじゃないんだぞ!」

 俺はユフィを叱りつけた。

 アミューズメントパークに来ておいて、『遊びに来たのではない』という言いぐさもどうかと思ったが事実なのである。シドたちの状況次第では、しばらく居ることになるかもしれないが、だからといって何も遊園地で延々遊び呆けるつもりはない。

 なにより、入場チケットだけならまだしも、フリーパスは非常に高価いのだ。

「いいじゃん! リフレッシュした〜い!」

「おまえはいつもリフレッシュしてるだろうが! ユフィ!」

「待ちたまえ、クラウド。……失礼、フリーパスを……ああ、ひとつだけでいい」

「え、ちょっと……ヴィンセント!?」

 驚いている間に、彼は入場チケット六枚分とフリーパスの代金をさっさと支払ってしまった。

「ヴィンセントってば、そんな大金……」

「ありがとうございました〜! それでは楽しい夢の時間を……」

 マニュアル通りの受付嬢は、俺の抗議を黙殺して売りつける物を売りつけると、オープンゲートを開いてくれた。

 

 

 

 

 

 

「ヴィンセント! ヴィンセントってば! まさか、ヴィンセントにお金払ってもらうわけにはいかないよ! それも全員分なんて……」

 前を歩くヴィンセントに追いつき、俺は慌ててそう言った。今ならまだ払い戻しが利くかも知れない。

「おまけにフリーパスまで……もったいないよ!」

「……別にかまわない」

「ユフィのわがままなんて聞く必要ないんだから!」

「……クラウド」

 俺の名を呼ぶと、少し皆から離れた場所に足を運んだ。

「クラウド…… ニブルヘイムの神羅屋敷……そして、モンスター相手のニブル山越え。ロケット村でわずかな休息はとれたものの、先ほどの事故…… 皆、思っている以上に疲労が溜まっているはずだ。肉体は休めば回復するが、精神的な疲れのほうが癒やしにくい」

「ヴィンセント……」

「あの少女はまだ十代だし、おまえたちとて、たいしてかわらぬ。今は心と身体を休めるべきだ」

 ヴィンセントは、低くやさしい声音で俺を諭した。

「でも……」

「よいのだ。気にする必要はない」

 淡い微笑を浮かべ、小さくつぶやいた。

 ……本当は、彼のような人こそリーダーにふさわしいのだろう。年少の者らの体調だけでなく、心の安寧を慮りつつ、慎重に……だが、確実に目的を果たすべく算段ができる人。

 それだけではない。

 ヴィンセントの銃の腕は知っての通り、神技の域に達しており、戦士としても十分過ぎるほどの能力を有しているのだ。

「……そう……かもな。ヴィンセントのいうとおりだ。本当なら俺が気を配らなきゃならないことなのに……」

「おまえは十分よくやっている。とても頑張っているではないか。何もひとりですべてを背負い込むことはない。少ないとはいえ、これだけの人が集っているのだ。皆が気づいたことを為せばよかろう?」

「うん…… そうかな。ヴィンセントに言われると、そう思える。俺も俺のできることをする」

「おまえは皆の心の支え……立派なリーダーだ、クラウド」

 ドクンドクンと胸が高鳴る。

 ヴィンセントに誉められるのがすごく嬉しい。

 ヴィンセントが俺を認めてくれるのが、とても心地良い。

 

「どうした……?」

 と、静かに訊ねられて、俺は大急ぎで現実世界へ意識を戻した。ここのところ、ヴィンセントのことを考えると、そのまま思いの淵へ沈みこんでしまうのだ。

 ……まるで、セフィロスの側にいたころのように……

「え、あ、ううん、なんでもない! あ、でも、お金は俺が払うって! 旅費は俺が預かっているから」

「……ああ、そうなのか。ならば、これも預けておこう」 

 そういうと、ヴィンセントは手触りの良い革袋を寄越した。

「こういうこともあろうかと、途中の街で引き出しておいて良かった」

「え? なに、これ…… ちょっ……!」

 大声を上げそうになって、俺は口元を勢いよく押さえた。あまりにも慌ててしまったため、力の加減が出来ず、バチンと小気味のよい音がする。

「こ、これ! 金貨と札束!? いくらあるんだよッ!」

「さぁ…… もはや、私には必要のないものだ。それに当座の金は、自分でも持っている」

「そんな! こんなもの受け取れないって! 帯付きとか……俺、初めて見る……」

「旅費を削って無理な旅をするよりも、体力の温存のためには、ある程度の余裕は必要だ」

「でも……」

「今は車での移動が出来ない状況だろう。尚のこと、無理をすべきではない。持っておいてくれ」

 押しつけられた革袋には、帯のついた札束がふたつほどと金貨のスティックが、無造作に放り込まれていた。

 神羅にいた頃の、俺の数年分の年収以上はゆうにある。

 これ以外にも持ち合わせがあると言っているし……もしかしたら、ヴィンセントはものすごい金持ちの御曹司なのかもしれない。

 立ち居振る舞いにも品があるし、物言いの穏やかさ、視野の広さからもそう感じさせる。

 

「クラウド……?」

「あ、な、なんでもない。じゃ、これ、預かるだけ! 預かるだけはするから! もし、どうしても使った方がいい状況になったら、遠慮無くそうさせてもらう」

「ああ、そうしてくれ」

 ひとつ頷くと、すでに金のことには興味を無くした様子で、彼はさっさと踵を返した。