〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<23>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「ゴールドソーサーへ!?」

 めずらしくも驚いたように声を上げたのは、無口なヴィンセントであった。

「おうよ、この状況じゃ仕方ねーだろ。タイニーブロンコはこのザマだ。なんとか修理するにしても、数時間でできるってもんじゃねェ」

 シドが言った。

 それはそうだろう。奇跡的に爆発炎上は免れたが、プロペラは根元から外れてしまっているし、操縦系の機器も破損しているだろう。

 いかにシドが頑張ろうと、そう簡単に直るものでもない。 

「……仕方がないな。ユフィの足も気になるし、みんなも多かれ少なかれ怪我をしている。野宿なんかじゃなく、きちんとした場所で、手当を受けたほうがいい」

 俺は同意した。この気候じゃ傷を洗うために湖を利用することもできなかろう。凍えて風邪でもひきこむのが関の山だ。

 出来るだけ早く古代種の寝殿に行きたい気持ちは皆同じだが、満身創痍で辿り着いても意味がない。むしろ、これまで以上に完全な体勢で赴くべきであった。

「そうね。ゴールドソーサーなら麓からロープウェイが運んでくれるわ」

「おっ! いいねッ! 闘い前の息抜きだね。うんうん、急がば回れっていうものね」

 俺とティファの言葉に、ちゃっかりとユフィが手拍子を打った。

 ゴールドソーサーとは、神羅カンパニーが建設したアミューズメントパークだ。ホテルも併設されていて、宿泊が可能である。

 じろりとお調子者の忍者娘をにらみつけ、俺はヴィンセントを振り返った。

 彼に同行を願ってから、あまりに回り道をさせてしまっている。徒歩でニブル山を越え、ロケット村に滞在し、今度はゴールドソーサーへの寄り道だ。

 うんざりした様子ではないが、不快をあからさまに表に出す人ではないから、よけいに不安になる。

「ええと……その、ヴィンセントもいいかな? 怪我はないって言ってたけど、すごく疲れただろうし…… ゴールドソーサーにはちゃんとしたホテルがあるから、ゆっくり休めると思うんだ。だからその……」

「……気を遣う必要はない。私も皆と同意見だ」

 ヴィンセントがぼそりとつぶやいた。目線を合わせてくれず、さりげなくそっぽを向いたままなのが、どうしても気になってしまう。

「悪いな。なんかアンタに同行してもらってから、寄り道ばかりになってる」

「……旅とは……本来、そういったものなのではないか。ましてや我々の旅が安楽な一本道でないのは、皆わかっていることだ。おまえが謝る必要はない」

「そうだけど……でも……」

「クラウド、そうじゃないでしょ?」

 尚も続けようとしたした言葉を、ニコニコと笑いながら遮ったのはエアリスだった。

「ヴィンセントは『我々の旅』って言ったのよ?」

「え…… あ……」

「ねぇ、ヴィンセント。ヴィンセントはもう私たちの仲間ね? この旅の道連れよね?」

 エアリスに微笑みかけられたヴィンセントは、それでも相好を崩すことはなかった。それでも、

「……そのとおりだ。認識をあらためたまえ、クラウド・ストライフ」

 と、穏やかに頷き返したのであった……

 

 

 

 

 

 

「ゴンドラ、キター!」

 元気よく声を上げたのは、バレットに負ぶさったままのユフィであった。

 足が痛いと文句を言っているわりには元気である。

 コレル平原は、大陸の中央に位置するだだっぴろい平野部分だが、タイニーブロンコの墜落場所は湖のある場所……つまり中腹付近であったのだ。

 ものの一時間ほど歩くと、ロープウェイの発着案内のプレートがターミナルを指し示していた。

「思いの外、時間がかからなかったな。よかった間に合いそうだ!」

 俺たちは、やや小走りになりながら、北コレル寄りの搭乗口をくぐった。

 ロープウェイにも華やかな装飾がなされており、まさに夢の世界への誘いといった雰囲気だ。さきほどまでのサバイバルとのギャップに、俺は軽い眩暈を感じた。

 

「……シドは……本当に良かったのだろうか?」

 ロープウェイに乗り込み、発着時間を待つ間、ヴィンセントが落ち着かぬ風にそうつぶやいた。

「まぁ、あれだけ説得したのに、来ないって言うんだから仕方ないだろ。幸い、ヤツに怪我はないし、ナナキもいるしな」

 俺はそう言った。

 当初の予定では、全員揃って、ゴールドソーサーで傷の手当てと休息をとり、これからのことを話合うつもりだったのだ。

 ニブル山を越え、コレル平原まで来ているのだから、いざとなったら海路が取れるはずだ。もちろん、船の出ている街まで移動しなければならないから、タイムロスは否めないがこの際致し方がないと思う。

 だが、シドはあきらめがつかないらしい。

 負傷していないことを幸いに、今夜はタイニーブロンコの側で一夜を明かし、後に合流ということになった。コクピットは奇跡的に無事であったため、暖をとることもできる。

 PHSも持っているし、状況を連絡し合うことは可能と説得され、とりあえず彼の希望に添うことにしたのだ。

「……あの飛行機……治るかな……。あんなに頑張ってくれたのに……」

 エアリスが、まるで怪我人を労るような物言いをした。

「まぁ、治ってくれりゃ助かるがなァ。プロペラも取れちまったし……」

 バレットは難しそうだと考えているようだ。

 確かに爆発炎上で木っ端みじんではないが、簡単に乗せる程度の損傷でもない。

「タイニーブロンコのことはシドに任せようぜ。俺たちにはどうしようもないし、いずれにせよ、ゴールドソーサーで宿を取って、一息吐いてからだ」

 皆一様に頷く。

 さすがに陽が暮れてきて空腹だし、体力も落ちてきている。

 

 ガコン

 と軽い衝撃が、足下につたわり、俺たちを乗せたロープウェイはゆっくりと動き始めた。

 徐々に高度を増して行く車窓から、地上の風景が遠ざかって行く。

 乗り物の中に、俺たちの他に客はいない。陽の暮れかかったこの時間帯に、アミューズメントパークへ赴く物好きもいないということだろう。

 

 ゴールドソーサー……

 まだ修習生だったころ、セフィロスが連れてきてくれた。

 ふたりきりの旅行じゃなかったけど、すごく楽しかった……

 お約束のようにハプニングにも見舞われたけど、今となっちゃ良い思い出だ。

 

 ぼんやりとそんなことを考えつつ、ため息を吐く。

 ニブルヘイムを旅立ってからは、あまり思い出をほじくり返したりはしなかったのに、やはり縁のある場所に足を運ぶのはつらい。

 

「女々しいなァ、俺は……」

 そうつぶやいてから、慌てて周囲を見回す。

 独り言を、誰かに聞かれたくはなかったからだ。