〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<21>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 タイニーブロンコの搭乗席は、まさしくギリギリのギチギチであった。

 シドは運転席に陣取っているので、それなりの余裕はあるが、後の席はまさしくギッシリである。

 安全ベルトを締めれば、まさしく身動きひとつできなくなる。これから数時間はこの窮屈ば状況に耐えねばならない。

 

「ナナキは私が抱き上げていよう。シートベルトに余裕があるし、女性にはやはり重かろうから」

 ごく自然にフェミニストっぷりを発揮するヴィンセントである。

 確かにバレットに頼むわけにはいかないし、俺も少々キツイ。ヴィンセントは長身なのに、細身で華奢なのだ。

 さすがにヌードを拝んだわけではなかったが、ニブルヘイムからこれまで、同室に泊まったこともあるし、野宿でだって側近くにいた。

 マントを引っかけているせいで体型がわかりにくいのだ。

「おい、おまえら、しっかりシートベルト締めろよ! 安全運転でいくつもりだが、空の旅は何があるかわからねェ!」

 恐ろしいことを平気で言ってのけるシドである。パイロットという連中は皆、こんな気性なのだろうか。

 女性陣も、口々に、『シートベルト、オッケー』等と言っている。

 俺は臆病者でけっこう。乗り物酔いしやすい、この情けない体質が恨めしい。

「……クラウド? 大丈夫か?」

 小声で背後からヴィンセントに声を掛けられる。

「え、な、なにがだ? 別になんとも……」

「顔色が良くない…… もし、体調が悪いのなら……」

「平気。問題なしッ!」

 勢いよく俺は言った。声がややうわずってしまったのはご愛敬ということで。

 乗り物酔いのことまで、ヴィンセントには言いたくない。これ以上、頼りないヤツだと思われたら、さすがにリーダーの沽券に関わる。

「よーし、それじゃあ。出発! 安定するまではしゃべるなよ、舌噛むぞ!」

 シドの号令で、グゥンと機体が急上昇した。

 俺はグッと息を詰める。

 大丈夫だ。こっそり酔い止めだって飲んできたんだから。

 大飛空挺での旅ではない。快適でないのは最初からわかっている。ほんの数時間の辛抱ではないか。

 そうだ。

 常備してきた薬のことを考えよう。

 何より心強いし、少しでもそういった知識を身につけることは、ヴィンセントに喜ばれるであろうから。

 

 

 

 

 

 

 ガクンと機体が揺れたのは、まさに北コレルを越え、南下しつつあったときであった。 シドが心配していた乱気流なのだろうか。ガクガクとシートが揺れ、俺は慌てて上体を低くした。

「クソッ…… やっぱり当たっちまったか。この時期はどうにもしようがねェ」

「う、うおぉぉい、シドッ! こいつはどういうこった」

 口元を押さえつつ、バレットが問うた。

 たいしたものだ。俺なんて口を開けたら、体内のありとあらゆるモノがこぼれ落ちそうだ。

「チッ……昨日、説明しただろ! このあたりは風の対流が激しいんだ。なんとかやり過ごすか……」

「おえぇぇぇ〜、死ぬぅぅ〜」

 断末魔じみた叫びはユフィだ。断じて俺ではない。

「機体を損傷する前に不時着したほうがよいのではないか」

 冷静なセリフはヴィンセントであった。ナナキを抱いた不安定な体勢であるのに、ひどく落ち着いた物言いだ。

「そうだな……ミディールまでは距離があるし…… あっちに墜落するようなハメになったら修理のしようもねェからな」

 ミディールエリアは、語弊を恐れずに言うのなら、未開の地である。文明の利器を直すための機器は手に入らないと考えられる。

「チッ…… くそ…… おぅい、リーダー! どうするよ!」

 シドが俺を見て怒鳴った。

 俺に振るな……! 猛烈な吐き気をこらえているのに……!

 それでも、あえぐように返答しようとした……その瞬間であった。

 

 どう形容すればよいのか……バシュッという、まるで真空の鞭を当てたような嫌な音が、片翼から響いた。つられて機体が斜めに揺れる。

「きゃあッ、エアリス!」

「ティファ。大丈夫、落ち着いて!」

 女性同士が、青ざめた面持ちで手をつなぎあう。

「……シド。かまいたち現象だ。真空波が起きている」

「クソッ…… ったく、セフィロスがらみのことは何から何まで上手くいかねェや!」

「左の片翼だ。火は出ていない」

 シドとヴィンセントが言葉を交わす。俺はほとんど人ごとのように、それを聞いているしかなかった。

「仕方ねェ! コレル平原に不時着する! 全員シートベルトを確かめて、奥歯を噛みしめ……」

 ゴォン!

 シドの言葉の終わらぬ前に、ちっぽけな飛行機は轟音に包まれた。

 いったい何が起こったのかさえ、確かめるいとまもない。

 女の人たちの悲鳴が、どこか遠くから響いてくる。

 

 ……このまま、墜落したら、俺たちは死ぬんだろうな。

 

 ぼんやりとそんなことを考えていた。

 そうしたらもう、この吐き気に悩まされることもなくなる。

 セフィロスの事で、苦しい思いをすることもなくなる。

 ……ああ、ヴィンセントと心中するなら、そう悪くもないのかなァ……

 

 埒もない事柄が、ランダムに脳を支配し、いつの間にか俺は意識を手放していた。