〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<20>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 二度目のロケット村では、シェラという技術者の手によって、無事、タイニーブロンコは修理されていた。

 神羅屋敷で見つけた、セフィロスの手とおぼしきメモを頼りに、我々はこのまま古代種の寝殿とやらに向かうことになった。

 今は、シドの家で、そのための計画を練っているところだ。

 ロケット村からだと、目的地は元来た道を引き返すことになるようだ。

 最短ルートとしては、このままニブル山を通過し、ニブルヘイム、北コレルが見えた段階で南下するのが定石だろう。

「おうおう、このシドを舐めちゃいけねーぜ。俺さまもそう考えていたトコだが、北コレル付近は、乱気流が頻発する難所なんだ。いささか不安だが、コレル山を目印にしないで、ここから、そのまま南東の航路をとった方が安全だ」

「なるほど……シドはパイロットだったな。心強いものだ」

 私は感心して頷いた。

 デヘヘ〜と相好を崩して笑うシド。どうやら誉められたのがうれしいらしい。

 なぜかクラウドが、対面のソファから、じとりとした眼差しで睨め付けてくる。

「それじゃ、さっそく、明日には出発だね! 今夜は早めに寝よ!」

 女性たちが隣室に引き上げる。

 さすがに、シドの家に全員が宿泊するわけにはいかない。

 シエラにも負担がかかるだろうし、女性陣のみということになったのだ。

 我ら男性陣は、村に一件しかない宿に引き上げる。

 ここもニブルヘイム同様、いわゆる辺境の村だ。神羅のロケット計画が発足されていた時代は、好事家たちが押しかけてきたこともあったそうだが、今じゃ村人さえもが都会に仕事を探しに行くありさまらしい。

 その話をしてくれたシドは、ほんの少し寂しそうに見えたものだ。

 クラウドや私だけではない。

 さまざまな人間たちが、神羅カンパニーに振り回された……そんな時代があったのだ。

 そしてそれは、暗雲のごとく、今現在もこの世界に暗い影を落としている。

 

 

 

 

 

 

「明日はもう出発か。空の旅は正直楽で助かるぜ」

 バレットが言った。

 彼の片手はガントレットに繋がっていて、先端にはマシンガンが設置してある。

 それについて、訊ねたわけではなかったが、道中ふたりになったとき、バレットのほうから話してくれたのだ。

 彼にはマリンという大切な少女がいるということ……その子は親友の娘で、今は亡き彼に代わり父親として育てているのだと言っていた。

 片腕を失ったのは、まだ彼が妻とともに、コレルで炭坑夫として生計を立てているときだった。魔晄炉建設に最後まで反対していた親友とともに、あざとい方法で返り討ちに遭ったらしい。

 ……妻も家も片腕さえも失ったバレットは、どれほど悲嘆に暮れたことだろう。

 ぽつりぽつりと朴訥な語り口調が、今もまだ彼の心の傷が癒やされていないのだと感じさせた。

「バレット……腕の具合はどうだ? 先日シドに調節してもらっていたようだが、肘から上は生身の肉体だ。強い衝撃を受ければ打撲傷にもなるし、場合によっては骨に異常が発生することもある」

 居間に落ち着いてから、私はそう切り出した。

 クラウドやシドもそうだが、どうもこのパーティの男子は、おのれの肉体への負荷に関して頓着がなさすぎる。

 食事ひとつをとってもそうだし、怪我の手当も適当なのだ。

 私は女性たちが不在であることを幸いに、旅生活における苦言を呈してみた。

「あぁ、まぁ、一応、俺の車に常備薬はおいてあるけどよォ」

 ぼりぼりと頭を掻いてバレットがつぶやいた。

「あんまり使ったことないよな。まぁ、血が止まらないとき、止血薬とか……」

 と、クラウド。

「人間なのに、強いよね、みんな」

 とナナキが、緊張感のないことをいう。

「……誰か、医師の資格……とまではいわないが、医学に明るい者はいるのか? 例えば、モンスター相手の負傷だけでなく、流行病や、破傷風とか、内臓疾患など……」

「あー、そういうのにくわしい人はいないよ。町に近い場所なら、医者に連れてって何とかしのいで……」

 クラウドがいうのに、私は言葉を覆い被せた。

「これから赴く場所は、古代種の寝殿…… 特に南東のエリアはほとんどが後進都市だ。呪術的な生活をしている人々もいると聞く」

「あ〜、まぁな。とりあえず、タイニーブロンコに、薬積んで……」

「いくら薬品を積んでも、使いどころと適切な処方ができなければ、効果は期待できない」

 私の言葉にふたりと一頭は顔を見合わせる。

 そういったことについては、まったく考えていなかったという様子だ。

「それに、ただでさえ、旅上では体力を消耗し、免疫を低下させやすい。食事にも十分配慮する必要がある」

「あ、でも、ヴィンセント、薬草とか、滋養分のある植物にくわしいだろ? だから、今回のニブル山越えは、思いの外楽だったんだよ! 怪我しても大事にならなかったし、食事も楽しみなくらいだったからな」

 クラウドが一生懸命私を持ち上げてくれるが、そのような場合ではない。

 わかっているのだろうか?

 古代種の寝殿には『セフィロスがいる可能性が高い』。

 ミディールエリアにある、その場所は、周辺にまともな町や村はない。つまり彼と戦闘になった場合を想定すると、相当念入りに準備する必要があると思うのだ。

 おまけに、その地に、黒マテリアが実在するとしたら、おそらくそれを『守るモノ』も居るのだろう。

「……古代種の寝殿では何が起こるかわからない。そもそも大まかな場所だけ把握しているだけで、タイニーブロンコで着陸できるような場所なのかも不明なのだ」

「まぁ、言われてみりゃそのとおりなんだけどよ……」

 バレットがまるで叱られた生徒のように身をすくめた。

「あ、あのさ…… ヴィンセント、もしかして怒ってる?」

 まさに恐る恐るクラウドが訊ねてきた。

「ニブル山越えのとき……すごく俺たち、ヴィンセントに頼っちゃったよね。モンスターの駆逐っていうよりも、生活一般のことで……」

「…………」

「だ、だよな。……ユフィのアホが腹壊したときも、ヴィンセントが薬草見つけてきたんだし、熱冷まし作ったのもヴィンセントだもんな。それどころか、食材さがしもメシ作るのも…… な、なぁ、バレット」

「い、言われてみりゃそのとおりだったよな…… すまん……」

「怒っているわけではないし、謝罪が欲しいわけでもないのだ」

 私はそう言ったが、クラウドは信じてくれなかったようだ。

「で、でも、これまでは車での移動が中心で…… あんなふうに強行軍で山を越えることって、なかったんだよ! だから、準備不足で、ああ、知識も不足してたけど……でも……」

「……だから、不快に思っているわけではないと言っただろう」

 彼の言葉を遮って、私は彼らにきちんと言い聞かせた。

「いいか。ミディールの古代種の寝殿では、ニブル山越え以上の試練が待っているだろう。万一、私が怪我をして動けなくなったり、命の失うようなことがあっても、きちんと対応できるように、今のうちから十分心して……」

「やめてよ!」

「よせよ!」

 バレットの巨体と、クラウドが当時に飛びついてきて、私は危うくソファから転倒しそうになった。

「ヴィンセント、そういうこと言うなよ! 死ぬとか口に出すな!」

「ク、クラウド……だから、私は万一の事態の話を……」

「大丈夫だ! おめェが怪我したりしないように、今度は俺たちがきっちり守ってやる! なぁ、クラウド!」

「そうだよ! ヴィンセントはすごく強いけど、何も無理に前線に出なくたっていいんだ! そうだ、俺、ユフィにいって『かばう』のマテリア借りてくるから!」

「いや、なにもそんなふうに……」

『だから、死ぬとか言うな!』

 とふたりに合唱され、私は気圧されて黙り込むしか術がなくなっていた。

 彼らは私の身を案じてくれているのだろう。それは痛いほど伝わってくる。足下で、ナナキが、明らかに『笑顔』という表情で、こちらを眺めていることからも、よくわかる。

 

 ……不思議なものだ。

 眠りに着く前……まだ、この世界でまともに生きていた当時は、こんなふうに人から好かれることなどなかったというのに。

 陰気で無口な私は、愛しい人に告白さえできなかったというのに。

 

 ぎゅうぎゅうと締め付けられる身体が、いい加減に苦痛でさえあるのだが、それは私にとって、ある種、感じたことのない、甘苦しさを伴っていたのだ。