〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<19>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「ハ……ハッァァァァァ〜」

 クラウドは肩を思い切り前に落とし、この上なく深いため息をついた。

「……どうしたのだ?」

 と、私は訊ねる。

「……絶対、白い目で見られると思ってた……」

 彼は絞り出すように、小さく呻いた。

「おかしなことを……おまえを蔑視する理由などないではないか」

「……なんか、ヴィンセントにそう言われると……というか、ヴィンセントだからってカンジもするよなァ。フツー、男の俺が、セフィロスとそーゆー関係だったって聞いたらドン引きだと思う」

「理のわからぬ相手の言葉を、いちいち恐れる必要もなかろう。……少なくとも、おまえが神羅の修習生であったころ、セフィロスは『まともな英雄』であったことは理解できた」

「……まぁ、まともっつーか……もともと唯我独尊男だったからね」

「…………」

「社員としては規格外だったんだろうけど……少なくとも今みたいじゃなかった。……俺のこと、すごく大事にしてくれんだ」

 そうつぶやいた彼の端正な面持ちが、切なげに歪んだ。

「セフィロスがおかしくなったのは、任務でニブルヘイムに訪れたときからだった。……いや、それ以前から、なにか自身に疑問をもったことがあったのかもしれないけど、少なくとも俺の前で、そういった素振りは見せなかった」

「任務でニブルへイムに……」

 ニブルヘイムの神羅屋敷。

 宝条の研究室があった場所だ。ガスト博士の手記もそこに保管されていたはずである。

 

 

 

 

 

 

「もともとは、破損した魔晄炉の調査という名目だったんだ。ニブルヘイムの魔晄炉は、とても高濃度の魔晄が採出されていたし、ニブル山は、天然マテリアの宝庫だったんだ」

「ああ……そういえば、聞いたことがある。本社の研究室でも、ずいぶんと熱心にマテリアの研究を行っていたようだが、やはり純粋な天然マテリアに比肩するものは作れないと……」

「ん…… そういえば、道々、セフィロスもそんな話、してくれたっけ」

 クラウドはつらそうに微笑んだ。

「一応、無事に魔晄炉に到着して、点検と修繕を果たして……俺たちの任務はそれで終了だったはずなんだ。でも、セフィロスは魔晄炉の中のポッドを覗いて……」

「…………」

「ニブルヘイムに戻ってから、セフィロスは憑かれたように地下室に閉じこもって、調べ物を始めたんだ。それこそ昼夜を問わず……俺、何度か食事を運んだりしたのに、全然話もしてくれなくて……」

「そうか……」

「十日あまり経った頃だったかな…… セフィロスが……」

 グッと彼は息を詰めた。まるでクラウド自身が、セフィロスの受けた苦痛を、その身に引き受けたかのように。

「セフィがとうとう…… 自分の出生の秘密を知ってしまった」

 口元を押さえるクラウドに、私は温かな茶をすすめた。スープはとっくに空になっていたし、少しでも動揺が落ち着くように。

「彼が村を焼いたのは、その夜だった。星のない暗い夜闇の中で、俺の知っていた故郷は、あっという間にその姿を失っていったよ。俺の家にも火が回ってしまっていて……母さんのことは助けられなかった」

「クラウド、もういい。……おまえが彼を追う理由も推察できる」

 そう言った私に、クラウドが縋るよな眼差しを向けた。そこには明らかに怯えの色が混じっていた。

「違う……違うんだよ、ヴィンセント……!」

「…………? どう……?」

「違うんだ……! 親の敵討ちとかじゃないんだ……ッ!」

 彼は壊れそうなほど強い力で、ステンレスのカップを握りしめた。立ちのぼる湯気がクラウドの顔を隠すが、その目元が紅く染まっていることに気づいた。

「俺……サイテーなんだよ。身内を殺されたり村を焼かれたこと以上に……セフィロスに裏切られたと、今もまだ認めることが出来ないんだ。納得できないことがあるんだよ……ッ」

「………………」

「どうして……彼は何も言ってくれなかったんだろう?」

「クラウド……」

「どうして? なぜ……? 俺は……俺たちは、少なくとも他人じゃなかったはずだ。ずっと一緒に居ようって約束して……たくさん、ふたりの思い出があって…… 今だって、ひとつひとつ思い出すことができる」

 パシャッと、湯がカップの上で跳ねた。クラウドの手が小刻みに震えているのに、私は知らぬ振りをすることにした。

「……セフィロスの行動を阻止するために、後を追っているというのは大義名分だ。本当は……俺は……」

「クラウド……」

 横に座る彼の頭を、背後から腕を回し、そっと引き寄せる。クラウドは抗いはしなかった。

「本当は……わからないんだ。俺……セフィロスに会ったらどうなっちゃうんだろう。ちゃんと戦うって決めているけど…… でも、怖い…… 『おまえとの過去などもう忘れた』って言われたら……? ううん、むしろ、そう言ってもらった方がいいのかも…… だって俺……」

「クラウド、もういい。よしなさい」

 私は静かに、彼の話を遮った。

「え……あ…… ご、ごめん、俺、また……」

「泣きたいときには泣いた方が良い。おまえは、これまでずっと我慢し続けてきたのだろう」

 宥めるようにそういうと、彼はキュッと歯を食いしばった。

「涙には自浄作用がある。気が済んだら、そのまま眠ってしまえばいい」

「うん……」

 ごしごしと頬を擦り、それでもしばらくの間、背を振るわせていた。

 綺麗に筋肉の付いたしなやかな肉体は、この苦しみ、つらさを乗り越える、まだ若い命の輝きを感じさせる。

 どれほどの間、その背を抱いていたことであろうか。

 彼の吐息が規則的になるのに、それほど時間はかからなかったような気がする。

 

 ……一方的に、クラウドのつらい話を聞き出した私は、いささか胸の痛む思いであった。

 私は、おのれの咎を、なにひとつ彼に打ち明けては居ないのだから……