〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<18>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 ふいに神羅屋敷に現れたクラウド・ストライフという少年……いや、青年は、唐突に私の眠りを破った。

 強引に私を陽のもとに連れだし、さらには『仲間』とやらにしてしまった。

 もちろん、私に拒否権はあったろうし、最初の出逢いで同行を断ればこのようにはなっていなかったろう。

 だが、私は彼の申し出を受けた。彼らの旅の目的が、最終的にはセフィロスと対面することだと知れたのが、その理由だった。

 

 だが……これはいったい『今のこれ』は、何の縁なのだろう……?

  こうして、クラウドの側に身を寄せていると、セフィロスのことだけが同行の依頼を受けた理由ではない気がする。

 ああ、私は長く生き過ぎていて、おのれの心を、正面から見つめることにすら怯えているのかもしれない。

 

「それでね。俺、ずっと『セフィロス』にあこがれててさ。絶対に神羅に入るって決めたんだ」

 照れくさいのか、私とは目線を合わせずにクラウドはつぶやいた。

 彼はニブルヘイムに居た幼少期から、『英雄』へのあこがれが強かったらしい。それは父親の顔さえ覚えていないこの子にとって、至極当たり前の憧憬だったのかもしれない。

 セフィロスの記事が載っている新聞をスクラップにしていたことや、雑誌を大切にとっておいた話などは、まるでアイドルにあこがれる少女のようにさえ見えた。

「入社試験のとき、いろいろ失敗しちゃって、まさか受かるとは思えなかったんだけど……」

「……失敗?」

 オウム返しに聞き返した私に、

「……受験票にミルクぶちまけて、当日用の受付バッチ忘れたりして……」

 言いにくそうに答えた。そんな面持ちは、生来の幼げな顔つきと相まって、いっそう彼を幼気に見せるのであった。

「……それは災難だったな」

「う、うん。まぁ、俺がドジだっただけなんだけどね。だから合格通知が来たときは、本当にびっくりしちゃって、信じられなくて、わざわざ本社の人事部の人に確認とったんだ」

「フフ……」

 身振り手振りを交えて語る彼の口調が面白くて、思わず低い笑いが漏れた。クラウド青年はそれに気をよくしたのか、さらに早口で言葉を続ける。

「今となっちゃ笑い話だけど、電話口で担当の社員さんに『間違いなく合格ですよ』って言われたとき、泣きそうになったよ」

「そうか……」

 私は小さく頷き返した。

 ……クラウドの『聞いてもらったほうがいい』という話の部分は、まだずっと先のことなのだろう。

 こうして、神羅カンパニーへの入社決めた少年期の頃を口にするのに抵抗はないようだ。それどころか、微笑ましい失敗談を、次々と披露してくれている。

 今夜はクラウドに付き合うと決めている。

 彼が話しやすいように、ただ私は静かに聞こうと思う。

 

 

 

 

 

 

「でさぁ、同室になったのが、ザックスって言って、俺より三つ、四つ上なんだけど、ソルジャークラス2ndだったんだ。すごく気持ちのいいヤツで……すぐ仲良くなった」

「ふむ……」

「俺にとって、ザックスは尊敬する先輩であり……兄貴みたいな人であり……そんで親友だったんだ」

「そうか」

 と、相づちを打った。ザックスという青年については、こちらから深く訊ねるべきではなかろう。

 なぜなら、クラウドは、『親友だった』と、過去形を使った。おそらくすでにこの世に居ない人物なのだと思う。

「ええとね……あの……こっからが、ちょっと話……しにくいんだけど。でも大事なのもこの後のことで…… ヴィンセントはあまり人間に偏見を持たないタイプだと思うから言っちゃうけど……」

 なぜか桜色の頬をさらに上気させて、クラウドがそう切り出す。

 木の枝を指先でいじっている様も忙しない。

「……あ、あのね、俺がまだ修習生だった頃、なぜかセフィロスに気に入られちゃって……あ、違うの、武術に長けているからとかそういうことじゃなくて…… その……言いにくいけど……れ、恋愛感情っていうか…… ええと……」

「……ああ。セフィロスに愛されたということか?」

 至極落ち着いてそう訊ねたが、それこそクラウドは気の毒なくらい真っ赤になってしまった。

「な、な、な、なんで、そんな……すぐわかるの!? で、でもね、違うんだよ。最初からそんなんだったわけじゃなくて…… 特に俺は全然、あの人のことをそんなふうに見ていなかったんだよ? セフィロスは純粋にあこがれの英雄で……」

「……落ち着きたまえ。『恋愛感情』と口にしたのはおまえだ。それに、クラウドはとても純粋で真面目な好青年だ。容姿も愛らしく美しい」

「ちょっ……愛らしいとか、美しいとかって…… 可愛いとはともかく、美しいってヴィンセントやセフィロスみたいな人のことだろう」

 勢い込んで言うクラウドに、私はゆっくりと首を横に振った。

「……私は醜い。いや……今はそんなことではどうでもよいことだ。先ほどの話……セフィロスが少年期のおまえに惹かれてもおかしくはない」

「で、でも、男同士だよ? 変だとか思わないの?」

「……よくわからぬが、人を想い慕う気持ちに、性別はそれほど関係なのではないか? ことにセフィロスのような者にとっては……」

 ある意味、私はクラウド以上に、セフィロスを知っている。特に幼少期の彼の生活を、だ。

 その当時を思い起こせば、純朴な田舎の少年であり、素直な気質をもつクラウドのような人物を、セフィロスが愛するようになるのは自明の理のようにさえ感じた。