〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<11>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「……大騒ぎしてごめんな、ヴィンセント」

 俺はもじもじとそう告げた。

 大人しくて行儀のよい彼に呆れられたのではないかと不安になった。

 

 案の定、手料理と地酒に満足しきったオッサンふたりは、白河夜船でそこらに転がっている。

 ヴィンセントは彼らに毛布を掛けた後、テーブルの上をテキパキと片付け始めた。

「あ、お、俺、手伝う!」

「……いや、必要ない」

 目線をこちらに寄越しもせず、ヴィンセントは素っ気なく言った。

 普段の動作はかなり緩やかなのだが、こうして片付けものをする所作や、さきほどの料理などはずいぶんと手早い。

「あ、あの、ヴィンセントって、なんていうか……意外性があるんだね。料理もすごく上手だし…… あんな美味しいもの食べたの久しぶりだったよ」

「……そうか。ならばよかった」

 やはり俺を見ることなく、彼はそれだけ言った。

 おしゃべりな人でないというのは、初対面でわかっていたことだが、会話が続かなくて苦しい。

 話題がなくて沈黙が苦痛という意味ではなく、俺はどんな話でもいいからしていたいのに、彼の方にまるきりその気がないというのが伝わってくるからだ。

 

「……クラウド……ストライフ?」

「な、なに!? あ、俺のことはクラウドでいいから。呼び捨てでな。なにか話ある? シドやバレットはもう大丈夫だろうから、向こうの部屋に行こうか?」

 勢い込んで訊ねた俺に、ヴィンセントは、少し困ったように首をかしげた。

「……いや、おまえももう休んだほうがいい。私はこの部屋でいいから」

「…………」

 俺はガクリと肩を落とした。もちろん、ヴィンセントに悪気はないのはわかっているが、ほんの少しでいいから俺に関心を抱いて欲しかった。

「……クラウド?」

「この部屋でいいって……いいわけないだろ。こんな乱雑で酒臭い場所……」

「でも……」

「こっち! ヴィンセントはこっちの部屋を使ってくれ。リーダー命令だからな!」

 俺はヴィンセントの手を掴むと、ずんずんと足音を立てて部屋を出た。

 女性陣の部屋から、薄く扉を開けて、ユフィのヤツがにやにやこっちを眺めている。

 それにじろりとにらみ返し、かまわずヴィンセントを連れ出した。

 

 

 

 

 

 

「二階の部屋はどこを使ってもいいって言われているんだ」

 彼の手を引っ張りながらそう言った。

 ヴィンセントの手は思った通り冷たい。

「……ああ、この時期……客はいなかろうからな」

「そう。俺の子供の頃からね」

「子供の……頃?」

「俺の故郷なんだよ。……あんまり良い思い出はないけどね」

 そう言うと、彼は口を噤んでしまった。

 どこか人間離れしたこの人だ。あの悪夢の夜に、ヴィンセントが居合わせたとは思えないが、俺の胸底に澱んだ暗い焔を感じ取ったのかも知れない。

「あ、あの、別に気にするなよ。変なこと言ってゴメン」

「いや…… 私の気遣いが足りなかった。すまない」

 長い睫毛が、ワイン色の瞳に深い影を落としていた。その様子を見ると、我ながらなんてつまらないことを口にしてしまったのかと後悔する。

「気遣いって……アンタは何も悪くないだろ」

「いや……無神経だった。ゆかりがあるとは知らなくて……」

「あたりまえだよ、さっき知り合ったばかりなんだから。かえって俺の方こそつまんないこと言って……アンタが謝る必要なんてないからな」

「…………」

 部屋の前でするようなやり取りではない。

 俺はやや強引に、自分の使っている部屋のドアを開けた。他にも部屋は余っているが、今ならば同室を奨めても嫌とは言われないだろうというズルイ考えからだった。

「ここでいい? 昨日は俺一人で使わせてもらったんだけど、広いしベッドメイクも済んでる」

「…………」

「部屋に風呂もあるし、使い勝手がいいんだ。……ダメ?」

 人形のように整った顔を、下から覗き込むようにして訊ねた。

「……フ……もちろん、かまわない」

 そうささやくと、彼は少しだけ笑った。

 『微笑』とさえ呼べない程度の笑みであったが、彼はきちんと俺を見て小さくつぶやいたのだ。

「おまえは……ひどく幼い表情をすることがあるのだな」

「え? え? 幼い……? って、俺、21だぞ!」

「……私から見れば……幼い」

 そうつぶやいたヴィンセントの表情が、さきほどまでの笑みとはどこか異なり、寂しげであったのが不思議だった。

 

 ……俺はまだ、彼のことを何一つ知らなかったのだ。