〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<10>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「うおーい、ヴィンセント! リーダーのクラウドさんよ!準備が出来たぜ〜!」

「オラ、キッチンもついてるからよ。乾きモン以外は適当によ〜。あ、粗塩あるぜ」

「アンタら、もう酔っぱらってるのか? いい加減に……」

 荒っぽい声を上げるオッサンふたりを牽制し、俺はヴィンセントを守るように、やつらと彼との間に腰を下ろした。

 ヴィンセントは、見てくれの通り身体が軽いから、L字形のソファはほとんど沈むことはない。

 バレットとシドの座った方に思い切り傾き、俺的にはこの時点でかなりうんざりしていたのだ。

「いいだろ、ほら、晩飯代わりだ。呑んだ後、頭っから湯ゥ浴びてベッドに転がりゃ天国よ!」

「アンタらとヴィンセントは違うんだよ! おい、グラスよこせ! 違う!飲みかけのじゃなくて、洗ったキレイなヤツ!」

 グダグダと面倒くさそうなシドを制止し、おのれの分と彼の分のグラスを賄った。

 グラスの中身も、ヴィンセントには無難な梅酒だ。

「ハイ! これなら悪酔いすることはないから。身体も温まるしな」

 彼の好みを訊ねもせず、俺は強引にグラスを突きつけた。

「……ありがとう」

 と、彼はつぶやいた。

 だが、心ここにあらずといった表情だ。彼の物を語らないルビーの瞳は、ぼんやりと机の上に散乱したナッツだの、チップスだのという雑多な食べ物を眺めている。

 そして、ほとんど酒に口を付けていない段階で、おもむろに立ち上がったのだ。

 

「……そこの台所……使ってもかまわないのか?」

「おう。でもよ、湯も出ねぇし。水は美味いけどな、田舎町だけあって」

 口に悪いシドが、わざと俺に向かってそう言いやがった。

「そうか。少々借りたい。……ああ、そっちは気にしないでやってくれたまえ」

「ヴィンセント? 何か欲しい物があるのか? 俺も捜すの手伝おうか? 冷蔵庫の中のものは勝手に使っていいって言われてるけど、足りない物があるなら、そこらで買って……」

「……おまえもこちらは気にしないように」

 素っ気なく言われてしまった俺に、バレットの野郎が追い打ちを掛けた。

「オイオイ、クラウド。それじゃ、新婚の役に立たない夫そのものだろ! どうしたってんだよ、オイ」

「べ、別に…… ヴィンセントはまだ色々慣れてないだろ。それに俺が無理言って一緒に来てもらってるんだからな」

「そいつはさっきヴィンちゃん本人が、自分の意志なんだから気にするなって言ってたよな」

 クソ! シドのやつ聞き耳を立ててやがったのか!

「だからって、まったく意に介さないのは無神経だろ!」

 俺は鋭く言い返した。

 ラタンの敷居の向こう側に居るヴィンセントにも、俺たちの遣り取りは聞こえているはずだ。そんなに広い部屋というわけではないし、オヤジ連中は無遠慮な大声で話しているのだから。

 それでも、彼はただ一言も言葉を挟むことはなかった。

 何かの作業に夢中になっているのか、単に俺たちの会話になど興味がないのか……後者であるなら、正直寂しくもあるがまだ知り合ったばかりなのだと俺は気を取り直した。

 

 

 

 

 

 

「……お、おい、これ……」

「おまえ……たいしたもんだな」

「…………」

 驚愕の声を上げるオッサンたちにたいして、無言であったのはこの俺だ。すぐに言葉が出ないほど驚いていたから。

 目の前に並べられた皿を見て、それこそ俺たちは目を皿にしてしまった。

 客室に備えられた素っ気ない皿の上に、手作りの料理が並んでいる。

 ナッツやら燻製やらという、チープな酒のつまみが乱雑に広げられた中で、彼の作った幾皿かの料理はまさしく異彩を放っていたのだ。

 材料は冷蔵庫に入っていた、ありきたりのもののはずだ。

 ハムやソーセージ、乳製品、瓶詰めの漬け物、青物……魚の干物もあったような気がするが定かではない。

「レトルトのものも適当に使っている。簡単なものだ」

 ヴィンセントはそっけなくいうと、大人しく元の席へ戻った。

 グラスに注がれた自分の分の酒は、きちんと空けるのが礼儀だと思っているらしかった。

「い、いいの? コレ食べて」

 俺は子供のようにそう訊ねた。

「……そのために作ったのだ。乾物ばかりでは身体によくない」

 独り言のようにそうつぶやくと、わずかな間隙の後、顔を上げ、

「口に……合うとよいのだが」

 と付け加えた。 

「やりぃ! 俺はコイツをいただくぜ! イワシは好物なんだ」

 シドが間髪入れずに皿を引っさらう。

「俺はこのミートソースのグラタンだな! それからポークソテーはもらったぜ!」

 と、バレット。

「おい、アンタらっ! 皿ごとかっさらうな! 取り皿に分けろよ! ヴィンセントだって食べるだろ!」

 もちろん、俺だって、全部味見したい。

「……私は空腹ではない。皆で食べてくれればそれでいい」

「いや、ちょっ……ヴィンセント! 少しは食べなきゃ身体に毒だって! それにせっかく自分で作ったのに!」

 俺は慌ててそう言った。明日はニブル山を越える予定なのだ。となれば、当然夜は野宿になる。ただでさえ、体力の無さそうな彼なのだ。食事くらいきちんととってくれなくては困る。

「そうだよな、ヴィンセントが作ったんだし、少しわけてやるわ」

「だな。また今度作ってくれよ? 次はちゃんと俺たちも手伝うからよ」

 神妙な面持ちで取り分ける彼らに、俺は渾身の力で飛びかかったのであった。

「俺にもよこせってんだろ! このガサツ野郎どもーッ!」