〜 もう二度と恋なんてしない 〜
〜 FF7 〜
<9>
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

「うー、やれやれ。じゃあ、解散な。明日の昼前には出発するんだから、晩飯はきちんと食えよ」

 宿に到着するなり、シドがそう言った。

「ちょっと、それ俺の役目!」

 ヴィンセントに聞こえないように、彼の背中をつついて苦情を述べる。

「おう、なんだ、クラウド。復活したのかよ」

 よけいな発言はバレットだ。いつでもこの連中は言わなくていい一言をいってくれる。

 ヴィンセントにも聞こえてしまったらしく、一瞬不思議そうにこちらを眺めたが、無言のまま俺たちから距離を取った。

 仲間内で話しているのを邪魔したとでも曲解しているのか…… 俺としては、がさつなこの連中よりも、彼の側にいたいのに。

 

 宿屋の二階は相変わらず人っ子一人いない。

 フロントには半分眠り掛けていた暢気なじいさんひとりだったが、田舎町のニブルヘイムだ。不用心ともいえないのだろう。

「クラウド、体調は大丈夫?」

 少々うんざりした気分で、俺はティファを振り返った。

「……だから、なんともないって言ってるだろ。あまり俺にかまわないでくれ」

「何もそんな言い方…… 心配してるんだよ?」

 押しつけがましい心配は、かえって迷惑だとどうしてわからないんだろう。

 ティファのことは嫌いじゃない……いや、子供の頃は、本当に好きだった。たぶん、憧憬の念が勝っていたのだろうが、ティファは特別な女の子だったのだ。

 だが、今はそっとしておいて欲しかった。彼女とニブルヘイムでの出来事について語る気分にはなれなかった。

「ティファ、お風呂入ろ!」

 俺に助け船を出してくれたのはエアリスだった。どこか不思議な雰囲気の彼女は、しかめつらのティファを引っ張っていってくれた。

 

「おーう、ヴィンセント。俺らの部屋くるか? ちょっとヤニくさいけどよ」

「おめェ、酒は? 呑めるんだろ?」

 土方コンビに声を耳にし、俺は風を起こす勢いで振り返った。

 眠り姫が、山賊に囲まれている。

 ……いや、俺には本当にそんなふうに見えたのだ。

「おい、アンタら! 言っただろ! ヴィンセントは疲れてんだよ! 静かな部屋でゆっくり休養して……」

「……いや、別にどこでもいい。すまないが世話になる」

 ヴィンセントは俺を見もせずに、シドらにそう答えてしまった。神羅屋敷から持ち出した、年代物の革鞄を手に歩き出そうとする。

 俺は慌てて彼の肩に手を掛けた。

「ヴィンセント! ダメだったら!あいつらうるさいし、ちゃんと眠れなかったら体力が保たないぞ!」

「……ちゃんと眠る」

「アンタは寝るつもりでも、やつらのいびきで眠れないって!」

 尚も食い下がる俺に、シドがにやにや笑いを浮かべつつ迫ってきた。

「いーじゃねぇかよ、ヴィンちゃん本人がいいって言ってんだからよ、リーダー? 昨日はグダグダで使い物にならなかったのに、今日は妙にテンション上がってんな、クラウド」

「な、なんだよ、それは!」

 ムキになるな! ヴィンセントが怪訝そうな眼差しで、俺を見ているじゃないか!

「今朝だって、死にそうな顔でトボトボ歩いていただろ。ティファが心配してたぞ」

 余計な御世話なんだよ、バレット! もう、ティファのことはいいんだよ!

 

 

 

 

 

 

「ゴ、ゴホン! 俺はリーダーとして、皆の体調に気を配る責任がある! 宿に泊まるとアンタらふたりは大抵酒盛りだろう。繊細な彼をそんなモンに付き合わせるわけにはいかない!」

「なんだ、クラウド。おまえは、このノッポの保護者か? ってゆーか、こいつとおまえじゃ、どうみても……」

「うるっさい! 言うな!」

 言われずともわかっている。こうして隣同士に並べば尚のこと……

 ヴィンセントは、おそらく180センチはゆうに超える長身で、173センチの俺相手だと、目線は完全に上からなのだ。

「まぁまぁ、キャンキャン吠えるな。元気があるなら、おまえも付き合え! 酒の後の風呂は最高だぜ?」

「やっぱ宿はいいよな。眠たくなりゃ、そのまま転がればいいんだからよ」

 そんなことをいいながら、あろうことか連中はズルズルと俺をひっぱりこんだ。

 ヴィンセントは、その後をぼんやりとついてくる。

 俺としては別室に案内したかったのだが、彼一人を猛獣の檻に放り込むよりはマシだ。

 せっかく同行するのだから、彼の様子を観察し、適度なところで引き上げればいい。

 

「ヴィンセント、気分悪くなったらすぐに言ってくれ。無理に酒盛りに付き合う必要はないんだから」

「……問題ない……といいたいところだが、正直、酒は苦手だ」

 そうだろう。

 この人が深酒して、顔を紅くしながら裸踊り……なんて、考えられない。

「そうだろッ! だから、適当に付き合って出て行けばいい。俺も一緒に席を外せば、アンタも気にならないだろ?」

「……なにもそんなに……」

 またもや独り言のように小さな声でつぶやかれ、俺は

『え?』

 と、彼の顔を覗き込んだ。

「……なにもそのように私に気を遣う必要はない。おまえたちに同行することを決めたのは、私自身なのだから」

「そ、そうじゃなくて、俺は純粋に……」

「おまえはリーダーなのだろう。新参者を気にしてくれるのはありがたいが、私以上に自身が疲れて居るはずだ」

 やさしくそう言われて、なんだか胸がズクンと熱くなった。

 さっき、同じようにティファに心配されたときには、ただ鬱陶しく感じただけだったのに、やはりこの人の物言いには、人を安心させ癒すことの出来る何かしらの力があるのだと思う。