嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<45>
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

  

 

 

 

 

 

「クラウド……クラウド……すまなかった……」

 私は謝罪の言葉を繰り返した。

 

「うん……いいんだよ……こうしてちゃんと生きててくれたんだから……もう……どこにも行かないでね、ヴィンセント…… 俺の側にずっと居てくれるって約束して……?」

 幼子が母親の確約を欲しがるようにねだるクラウド。

「……ああ、おまえがそれを望んでくれるなら」

 静かにそう応えた。

「何言ってんの……あたりまえじゃん」

 そうつぶやくとクスッとクラウドが笑った。

 

「ヴィンセント……痛くしないから……気をつけるから……抱きしめて、いい?」

 真剣な顔で確認する様子が、こんなときではあるものの、ひどく可愛らしく私の目に映る。

 ヤズーやカダージュがちょっとからかうような微笑をうかべ、こちらを眺めていたが、私はまったく気にならなかった。むしろ日常が戻ってきたと実感することが出来、ひどく嬉しい心持ちになったのだ。

 

 ぎこちなく両手を、クラウドに向かって差し出す。

 クラウドは膝をつき、寝台の背もたれに身を預ける私と高さにバランスを取る。私の方から抱擁を求めるように身を動かすと、また泣き笑いのような表情になり、そっと……そっと、抱きしめてくれた。

 

「……ああ……ヴィンセント……よかった……よかった……ホントに……よかった……」

 呪文のように繰り返すクラウド。

「俺……神様に祈ったよ……自分のことでさえ、そんな風に祈ったこと……なかったのに…… 町外れの教会まで行っちゃった……ホント……我ながら現金だと思うけど…… もう神様しか縋れるもの……ないと思ったから……」

「……クラウド……」

「神様……ありがとう……俺の願い……かなえてくれて……! ありがとう……ございました……!」

 私のふところで、微かに震える金の髪をそっと撫でた。

 クラウドのクセ毛……愛らしい金色の髪……

 

 

 

 

「……さ、兄さん、気持ちはわかるけど、今日はそれくらいにしておいたほうがいい」

 そっとヤズーがクラウドの肩に手を置いた。

「ヴィンセントは目覚めたばかりだし、疲れさせてはいけないよ。この前まで点滴入れてたくらいなんだから」

 私の与り知らぬことを、ヤズーがあっさりと口にした。

 ということは、この身体を医者に診せたというのだろうか?

 

 不安げな私を宥めるように、ヤズーが微笑む。

「ああ、心配しなくて大丈夫……セフィロスの知り合いのお医者さまだから」

「……セ、セフィロス……の……?」

「うん、以前懇意になったらしいよ。ホントかウソかは知らないけど。あなたの事情はちゃんと含んでおいたようだから、何も心配する必要はないからね」

「あ、ヤ、ヤズー……セフィロスは? セフィロスはどこに……?」

 クラウドが、そっと身体を離してくれたのをいいことに、私は一番気になっていたことをようやく問う機会に恵まれた。

「あのとき……最期のとき……彼が身を挺して私を庇ってくれて……」

「うん……大丈夫だよ。ちゃんと目、覚ましてる」

 少しばかり言いにくそうに、ヤズーが答えた。

「そ、そうなのか……? 自分の私室に居るのだろうか……?」

「そうだよ。まぁセフィもさすがに丸一日昏睡状態だったけど、次の日にはもうフツーに起きてたよ。今はもういつもと変わらないしね。メシもガンガン食ってる」

 あきれたように両手を広げ、クラウドは言った。

「そ、そうか……よかった…… すまない、クラウド……私はセフィロスの部屋へ行ってこようと思う……」

 無理に身体を起こそうとすると、あちこちから疼痛が襲ってくるが、とにかく彼の無事な姿を確認しておきたかった。そして言葉の限り感謝の念を伝えようと思うのだ。

 

「あ、うーん……今日はホラ、もう遅い時間だからさ。それにヴィンセントだって起きあがれるような状態じゃないでしょ?」

 だが、困惑した表情で、諭すようにヤズーに止められた。

「だ、だが……」

「本当に心配要らないってば。セフィはすごい元気だからさ。自分の身体治す方が先だろ?」

 噛んで含めるような物言いをするクラウド。

 もちろん、彼の言っていることは全面的に正しいと思うが……だが、セフィロスに会いたい……とにかく無事な姿を見たい……一刻でも早く……!

 

 そうはいうものの、自由にならない身体はいかんともしがたかった。

 結局、私は彼らに言いくるめられる形で、安静に休むことになってしまった。セフィロスとの対面は身体が落ち着いてからと念を押される。

 同じ家の中に住んでいるのだから、この部屋へ彼を連れてきてくれと頼めばよいと思われるかも知れない。だが、それは私にはあまりに恐れ多いことであったし、何より彼の方から足を運んでくれないのには、何か理由があるのではないかと……少しばかり怖くなったのだ。

 あの極限状況の中、おそらく不躾な発言を、数え切れないほど口にしてしまったのだろう。また彼に守られ、その腕にしがみつき、最期の最期まで迷惑を掛けてしまった。

 そこまではっきり認識している私が、どの顔下げてヘラヘラと「部屋に来てくれ」などと口にできるものか。

 

 明日になったら、誰にも気づかれないよう……壁伝いにでも、彼の部屋を訪ねようと決心する。

 そう決めたら、いきなり眠気が私を襲った。

 クラウド達の言うとおり、やはりこの身体はボロボロに疲弊して、再会の喜びを分かち合ったわずかばかりの時間でさえ、大きな負担になっていたのだと初めて認識したのであった。

 

 ふたたび深い眠りに着く私を、ずっと枕元でクラウドが見守っていてくれた……