嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<28>
 セフィロス
 

 

 

  
 

 

 

「……ああ、本当にひどいことをしてくれますね、ヴィンセント・ヴァレンタイン」

 ぐしゃぐしゃにつぶれた、おのれの右手を眺め、ハの字に眉をゆがめるネロ……

 ヤツがヴィンセントを見やり、優しげにささやいた。その口調は怒っているようでも困惑しているようでもなかった。

 

 ヴィンセントのことはクラウドがしっかりと抱きかかえている。

 ヤツはこういったグロい光景が大の苦手なのだ。そういえば、以前、バイクで転倒したクラウドの手当をしているとき、卒倒したこともある。

 

 ゾゾゾと闇に包み込まれたネロの身体が伸び上がる。

 もはや「ネロ」と、人間の名を口にするのも憚られるほどの異形と化した『モノ』。

 

「チッ……行くぞ、クラウドッ!」

「お、おうッ!」

 クラウドと同時に跳躍する。

 

 ドシュッ! ズザッ!

 

 ……肉に刃の突き刺さる鈍い音……

 間違いなく抉ったはずだった。

 オレだけではない。クラウドも同時に斬りつけたのだ。

 裂けた皮膚の切り口……薄紅色の、斜め十字に切り裂かれた肉瘤が徐々に修復されてゆく。

 ……こいつの修復能力はどうなっているんだ。この深さの傷口でさえ、痛みのカケラも感じないというのか?

 

「……な……何なんだよ……こいつは……」

 呆然とした面もちでクラウドがつぶやいた。

「……クソ……化け物めッ!」

 そう吐き捨てたときだった。

 紅い影がオレの視界をよぎったのだ。

 ヴィンセントが銃を構え、地を蹴って飛んでいた。まっすぐ……ネロのほうに向かって。

 

「ヴィンセントッ!?」

 クラウドが叫ぶ。

 

 ガゥンガゥンガゥン!!

 

 吠えるケルベロス。

 バカな……同じことの繰り返した。

 変体したネロ……『ネオラフレア』が、ぐぐぐと身を曲げて、ヴィンセントに注意を向ける。

 

「セフィロス……! クラウド……ッ! 背だッ! 背の中心を狙ってくれッ!」

 ぐるりと空でとんぼ返りを打ったヴィンセントが叫んだ。

 

 オレとクラウドは同時に跳躍した。

 澱のような黒のかたまりに向かって。

  

 着地したヴィンセントのとなりにヤズーが並び、同時射撃を始める。

 

 ガゥンガゥンガゥン!

 ダンダンダァン!

 

 銀と黒の美人が肩を合わせて立ち並び、自分の髪と同じ色の銃を放つ。

 その姿は、澱む闇色に映え、ひどくオレの目を楽しませた。こんなときにも関わらず、であったが。

 

「ウラァァァ!」

「ハァァーッ!」

 

 ドシュッ! ザンッ!

 

「ギ……ギガァァァァッ!」

 『ネオラフレア』が、初めて声を上げた。

 紛れもない苦痛を訴える悲鳴。この腕に感じた手応えは、今度は本物だったようだ。

 

「グガァァァァーッ!」

 ずるずると鎌首をもたげるように巨体をうねらせ、ヤツはのたうち回った。

 細身のネロの肢体を包む外殻が剥がれ堕ちてゆく。

 

 ついには、ドロドロとした粘状の瘤のかたまりのような異体が崩れ落ち始めた。

 その中央から、ずるりとネロの躰が滑り落ち、ドサリと床に頽れたのであった。

 

「よし、やった!」

 クラウドが叫んだ。

 拳銃使いどもの連射が終わり、イロケムシがとなりのヴィンセントに、バチンとウィンクを送った。

 ツカツカと横たわる黒い影に近寄る。背の翼が折れ、微動だにしない肉体は、致命傷をうけ、すでに死を待つだけの骸に見えた。

 足先でヤツの身体を蹴り飛ばす。ごろりと仰向けになったが目覚める気配はなかった。

 

「……チッ、手間掛けさせやがって」

 オレがそうつぶやくと、クラウドも、そしてヴィンセントたちもホッと表情を緩めた。 一番最初に緊張を解くのはあたりまえのように、ガキ連中であった。ヤズーの側に駆け寄り、ヴィンセントにくっつく。

 大あわてで、走り出すクラウドもやはり子どもであった。