嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<27>
 セフィロス
 

 

 

  
 

 

 ギィシェェェェェ!

 獰猛なうなり声をあげる、化けムカデども。

 

 先陣を切るクラウドが、大剣で真っ二つに連中を切り裂き、ヤズーのベルベッドナイトメアが急所を打ち抜く。

 垂直に飛び抜けたヤズーの影から、カダージュの双刃がヤツラの羽をもぎ、ロッズの拳は、固い甲羅さえも粉々に砕き散らせた。

 

 ギィシェェェェェ! グィギィィィィ!

 形容しがたい不快な悲鳴を上げ、長い巨体がグシャグシャと地に伏す。

 断末魔の奇妙なダンスを踊ると、ついには息絶え、次々に黒い闇に吸い込まれていった。

 

 

 

 

「後は貴様だけだ、緊縛野郎」

 ネロの移動したプレートに飛び移り、長刀を突きつける。

「……ほう……お仲間もなかなか骨のある方々のようですね、保護者どの」

「よせ。仲間だなどと気色の悪いことを言うな」

「……ふふ、貴方のことも、とても気に入りました、美しい人」

「本当のことをわざわざ言われても、嬉しくも何ともないな」

 オレは素っ気なくそう言い捨てた。

「せっかくですから、お名前を教えて下さいませんか。……残念ながら、もうお聞きする機会はないでしょうから……」

「ああ、おまえはここで死ぬことになるからな。……オレはセフィロス。貴様を殺す男の名を覚えておけ」

「……セフィ……ロス……」

 ヴィンセントの瞳に似た紅の双眸が不思議な光を孕んだ。

 

 ネロの手が黒煙を生み、背の羽が火を噴く。骨組みで象られた翼には、不気味な手が生え、自在に銃を撃ち放つのだ。

  

 ザシュッ! ザンッ!

 

 剣がヤツの胸元に斜め十字に入った。

 ……手応えは間違いなくあった。にもかかわらず、ネロは引き吊れた微笑を浮かべ、金の双眸でこちらを見つめている。

 

「……な……ッ」

 完全に殺ったと思っていた。刃がヤツの肉体に飲み込まれたところまで見届けていたのだ。

 妖しい光を放つ、金の双眸が細められた。きっと笑いやがったのだろう。

「貴様の身体はコンニャクででも出来てやがるのか、この化け物め!」

「ククク……」

 

 ガゥンガゥンガゥン!

 ダンッ! ダンダンダァァン!

 

 ヴィンセントとヤズーの連射だ。

 だが、鉛の球さえも、ヤツの肉体の闇は飲み込んでゆく。

 

「クックククク……クハハハハ! だから言ったでしょう……? ヴィンセント。素直に私の手をお取りなさい」

 ゾッとするような声音でささやくネロ。いや、もはや闇と同化したヤツは、ネロ第一形態とでも呼ぶべき変貌を遂げていた。

 ズルズルとヤツの腕がヴィンセントに向かって伸びる。闇が具現したものなのであろうが、美しい男の腕がぞろりと長く伸びてゆくのは、気色の悪いことこの上なかった。

 

「さぁ……ヴィンセント・ヴァレンタイン……」

「……ひ……」

 ヴィンセントが、喉の奥で悲鳴を上げた。口元を押さえ、苦しげなえづきを繰り返す。吐き気を必死に堪えているのだろう。慌てて背後にヤツを庇ったクラウドとヤズーも蒼白の面もちだ。

 

「ヤロォォォ!」

 内心の怯えをうち消すように、クラウドが叫ぶとそのまま斬りかかる。

「ヴィンセントに触るなァァ!」

 

 ドシュッ!

 ……と肉の絶たれる不気味な音がすると、ネロの手首がドサリと床に転げ落ちた。

 

「おやおや……ひどいことをしてくれますねぇ、貴方の恋人くんは……」

 クスクスと含み笑いをしながら、ネロが楽しげにささやく。どの言葉もヴィンセントに向かって語りかけるのがさらにオレの不快を煽った。

 

「……きゃッ!」

 不意に高い声を上げたのは、一番末のガキだった。

 よく見れば、どこぞで傷でもこさえたのか、額に包帯を巻いていたが、今はそんなことを気に止めている場合ではなかった。

 

 ズ……ズズズ……

 

 斬り落とされたネロの手首が、地を滑る。黒く長い爪の生えた五本の指を足のように動かし、ゾゾゾと床を這っているのだ。

 ……粘りのある青黒い液体を垂れ流しながら……

 

「ヤ、ヤズー!」

 一番近くに立っていたカダージュが、兄の後ろに身を隠す。

 あまりの気色悪さに直視できなかったのだろう。

 

 ダンダンダン!

 

 続けざまに銃を放つイロケムシ。

 吐き気を催すこの造形にさえ、氷の美貌は崩れない。眉ひとつ動かさないヤズーの図太さは見上げたものだ。

 

 銃弾に弾かれ、ビチビチビチ!と肉の弾ける嫌な音がすると、ヤツの右手はただの肉片と化した。