嗚呼、吾が愛しの君。
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<17>
 カダージュ
 

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ました僕は、なぜかヤズーの腕の中に抱きかかえられていた。

 

「カダッ!」

「…………」

「カダージュ! しっかりしろ!」

「……うッ……」

 掠れた声は、まるで自分の物ではないようなカンジだった。耳の奥がぐわんぐわんと鳴っていて、一瞬自分がどこにいるのかわからなくなった。

 

「……あ、あれ……ここ?」

「ああ、よかった……カダ……」

「……ヤズー?」

「ダメだ、動くな。……痛いか?」

 やさしくやさしく、ヤズーが訊ねる。その声音にひどく感情がこもっていて、まるでアレしてる時みたい……などと、僕はヘンなことを考えてしまった。

 

「……崩れた壁で額を切ってるんだ。それほど深い傷じゃないと思うが……」

「…………」

「吐き気はしないか? どこか痛いところは?」

 ヤズーは、僕をあやすように髪を撫でつけ、頬に触れた。

「……平気でも、ちょっと……ボーッとする」

「気持ち悪くない? 吐き気は?」

 同じ事を訊ねる。きっとおでこの傷よりも、頭を打ち付けて気を失ったことのほうが心配なのだろう。

 僕がゆっくりと首を横に振ると、ヤズーの綺麗な顔が、ひどくホッとしたようにやわらかく崩れた。両の頬を白い手がそっと包み、『ああ、よかった』とささやく。

 いつも、落ち着いてて、物静かで、慌てたりすることなどほとんどないヤズー。そんな兄さんが、こうして僕のことを心配してくれるのはとても気分がよかった。

 ひんやりと冷たい……でもなめらかで心地よいヤズーの手の平。黒の皮手袋を外しているのだ。僕に触れるときは必ずそうしてくれるけど、今回もそれは変わりなかった。

 

「……ヤズー……あれ? でも……どうして……」

 僕が問いかけを終える前に、咳き込むようにロッズが言葉を重ねた。彼は泣いているようだった。

 

「ごめん! ごめんね、カダージュ! 俺が飛び出すの遅かったんだ。カダの身体がぶら下げられるみたいになってたから、なかなかタイミングがつかめなくて……」

「……ロッズ……」

「衝撃波だから、的を外したら……それこそカダがヤバイと思ってさ……ごめんよ、ホント、ごめん」

 えっえっえっ……と泣き虫ロッズは、感極まったように泣き出した。

 

「ヤズー……起こして」

 そうねだると、困惑したように眉を顰めたが、背に腕を回し、肩を支えたままそっと起きあがらせてくれた。

「……あッ……痛ッ」

 ビリリと後ろに電流が走るような疼痛があった。
 
 背中の……真ん中より少しだけ上のところ……壁にぶつかったときに打ち付けたのだろう。引きつれるような痛みが僕を襲ったのだ。

「ダメだ。少し休んだ方がいい」
 
 綺麗な柳眉を眉間によせ、ヤズーが低い声でつぶやく。

「ううん、平気」

「カダ……」

「それより、ロッズ! あいつは? あの羆みたいな奴はッ?」

 そう、それこそが一番気になっていたことなのだ。自分の果たすべき役割をきちんと終えられたかということ……ヴィンセントを虐めた一味をやっつけられたかということであった。

「もういない。俺とカダの勝ちだ!」

 あっけないほどあっさりと、鼻水を啜りながらロッズは言った。
 
 最後に耳にした硬質な音、あれこそがロッズの一撃であったと知る。狙い通り、弱点の頭部へもろに入ったらしい。
 

「そ、そっか。だったら泣くなよ、ロッズ」

「でも……カダが怪我するなんて……」

「平気だってば。ちょっとぶつけただけなんだから」

 僕は適当にロッズをいなした。年上のくせに本当にすぐ泣くヤツだ。

 

「ね、それより、聞いたでしょ、ヤズー! 僕たち頑張ったんだよ! ちゃんとセフィロスに言われたこと、できたもん」

「ああ、そうだな、カダもロッズもよくやったな」

「ね、僕のこと見直した? もう子ども扱いしない?」

 ヤズーはとってもやさしいけど、それが高じて、ひどく子ども扱いをすることがあるんだ。僕はそれが無性に歯がゆかった。ヤズーはいつでも僕を守ってくれるけど、僕だってヤズーに一人前として頼りにされたくてたまらなかったんだ。

「ああ、よくやったな。本当に頑張ったな」

 ギュッと抱きしめ、やさしく髪を撫でてくれるヤズー。子ども扱いされるのは嫌だったけど、そんなふうにしてもらえるのはとっても心地よくて大好きだった。

「ふふふ、見直した? ヤズー」

「よしよし、俺はいつでもカダのことはすごいと思っているよ」

「ホント?」

「ああ、いい子だな」

 チュッチュッと音を立てて額にキスが落ちてくる。

 さっき泣いたばかりのくせに、小馬鹿にしたような表情でにやにや笑っているロッズがムカツク!

 もう、ヤズー!

 そういうことするから、僕、舐められちゃうんだよ!

「ヤズー! 僕、ちゃんと……」

「うんうん。本当にカダは可愛いな。……いい子だ」

 

 まるで、Hの前にしてくれる、愛撫にも似た愛情表現に、文句をいうのはこの次に回すことにした。