ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<36>
 
 KHセフィロス
 

 

 

 

 

 

 

「クラウド……! おまえはどうしてそんな大切なことを……ッ」

「ご、ごめッ……だ、だって、あの時、メチャクチャ大変だったじゃん。すっかり忘れてたんだよッ」

「『セフィロス』のことなのだぞ? 何より重要な話だ」

「俺が一番大事なのはヴィンセントだもん!ヴィンセントの話しなら忘れないもんッ!」

「クラウド……! どうして、おまえはそう……ッ」

 言い争う、恋人同士。

 ……いや、本当に恋人同士なのだろうか? その話はクラウド本人からしか聞かされていないわけなのだが……なんだか、そういう関係にあるふたりの会話とも思えない。

 どちらかというと、母と子供だ。

「まぁまぁ、ちょっと落ち着いてよ、兄さんも、ヴィンセントも。今さら言った言わないでモメてもしかたないでしょう。ほら、彼が呆れているよ」

 と、ヤズーが(どうも彼はこの家のまとめ役のような立場にいるらしい)、私に目線を泳がせてそうささやいた。

「……いや……別に……」

「やれやれ、陰気な男だな、この野郎。もっとハッキリしゃべらんか!」

 と、冷やかすのは、『もうひとりの私』だ。

「セ、セ、セフィロス、やめたまえ! 不躾な物言いをしてはいけないッ」

「ケッ、だいたいなんだ、おまえは。ヴィンセント? この宇宙人にホレたのか? 昨夜からずいぶん必死ではないか。無口で控えめなおまえにしては、かなり積極的だしなァ」

 私を一瞥すると、当てつけがましくヴィンセントに言い放った。

 カッと朱墨を刷ったように、彼の蒼白い顔が真っ赤になる。

「な、な、何を言うのだ……セフィロス……ッ 私はそのような気持ちではなくて……も、もちろん、彼のことは大切だが、そんな……邪なことでは……」

 そこまでいうと、今度こそ彼はワッとばかりに、両手で顔を覆って泣き出した。完全にいじめっこといじめられっこの構図だ。

「セフィロス、ヴィンセント、泣かした!!」

「泣かせた〜ッ!」

 と声を揃えるのはカダージュとロッズだ。

「セフィ、ヴィンセントにひどい言い方すんな、コノヤロー!」

「てめェはすっこんでろ!アホチョコボ!」

「……ああ、もう、いい加減にして、みんな。セフィロス……ってうちの方のセフィロスね。あなたもあなただよ? ただのヤキモチでヴィンセントにつっかかるのはよしなさいよ。ヴィンセントが『セフィロス』を心配するのはあたりまえのことでしょう。ああ、ほらほら、もう泣き止んでヴィンセント。だれもあなたを誤解したりなどしてはいないよ」

 肩を抱き込むようにして、ヴィンセントを慰めるヤズー。たいていこういう場合、場を収拾する立場の人間は、うんざりとするものであろうが、彼はそんな様子を片鱗も見せないのだ。大したものだと思う。

 私など、話の輪に加わっているわけではないのに、あまりの目まぐるしさに心許なくなる有様であった。

「で……ね、話を戻そう。『セフィロス』?」

「…………」

「『セフィロス』? どうしたの? 大丈夫?」

 と繰り返し声を掛けられ、私は物思いから戻ってきた。

「……ああ」

「ごめん、うるさくし過ぎたね。もう、ホント、うちって男ばかりの六人所帯じゃない? 本当に騒々しいんだよねェ、びっくりしちゃったでしょ?」

「…………少し」

 と正直に私は答えた。否定してもわざとらしいと思ったからだ。

「ああ、失敬した……つい、取り乱してしまって…… ふ、普段はこんなに、はしたない真似など……」

 ハンカチで顔を拭いつつ、ヴィンセントが謝罪した。

「別にヴィンセント、全然はしたなくないじゃん。セフィに泣かされただけだもん」

「クラウドは黙っていなさい」

「どうしてよ! やっぱり、ヴィンセント、『セフィロス』のこと気にしてるッ! 俺より、『セフィロス』のほうが好きなのッ!?」

 アホチョコボと呼ばれたクラウドは(あだ名の付け方がつくづく上手だと思う)、ヴィンセントにしがみつかんばかりに抗議した。まるでその姿は本当に子チョコボが、人間に飛びついていくようで、たいそう愛らしく見えた。……もちろん口には出さないが。

「よしなさいと言っているだろう、クラウド。……彼の迷惑になる」

「うわあぁぁんッ!」

「うるさい! 泣くな、このクソガキがッ!」

 ゴホンッ!とヤズーが大きな咳払いをすると、周囲が一瞬静まり返る。すると、ふたたび銀髪の美人が口を開いた。

「ちょっと、あなたたちわかってる。タイムリミットまでには、もう一時間もないんだよ?」

 そう言われて、ハッとした。本当にもはや小一時間の猶予しか残されていなかった。ずいぶんぼんやりしていたようだ。彼らのやり取りに圧倒されてしまった。

「『彼』を説得するなら、残された時間はわずかなんだからねェ」

 ひょいと両手を持ち上げると、彼は軽やかにそう宣った。

「そ、そ、そうだったッ! 『セフィロス』、どうだろうか? 一考してはもらえまいか? さきほどヤズーが言っていたように、今の状態では元の場所に戻っても難儀するのは分かり切っている」

 と、ヴィンセント・ヴァレンタイン。縋るような眼差しで私を見つめる。

「そ、そーだよ、おヨメさんとかいんの? 『セフィロス』? だれか付きっきりで面倒見てくれる人がいないと大変だよ? うちで寝てたほうがいいよ?」

「コスタ・デル・ソルは食べ物おいしいよ? ヴィンセントはお料理上手だし。元気になったら海で泳げるよ?」

 口々に言ったのはカダージュとロッズであった。

「おい、ロッズ! 『セフィロス』は海岸に放り出されてたんだぞ! 嫌なこと思い出させるなよ、デリカシーがないな!」

「な、なんだよ、俺、そんなつもりで言ったわけじゃないもん。カダージュのほうこそ、おヨメさんとかって、バリゲードな話しだろ!」

「『デリケート』の間違えだ!ロッズのボケッ!」

「あー、こらこら、よしなさい、ふたりとも」

 諫めるのはやはりヤズーであった。見たところ、ロッズという巨躯の青年はヤズーと同輩であろう。実際、どちらが年長なのかはわからないが、どうみても主導権を握っているのはヤズーのほうであった。

 

「だから……『セフィロス』……どうか、ここでゆっくり静養して……滞在期間など気にせずに……そして、次の機会を待ってはくれないだろうか? もちろん、君を不快にさせることはないよう、充分に配慮するし…… 負傷した命の恩人を、そのまま放り出すような真似は、私にはできない…… つらくて……胸が痛くなってくる……」

 ……なぜなのだろうか。

 身体が痛む理由はよくわからないが、いずれにせよ、ヴィンセントは私に、ここに残ることを強く推しているらしい。物言いは違えども、ヤズーや他の者たちも同じ様子だ。

 まったく奇特な連中だ。

「あのさ……俺なんかが口を出すと、ムカツクかもしんないけど……」

 おずおずと口を開いたのはクラウドであった。

 彼が先だって、私の服を引っ張り、この世界に止めたことを気にしているのだろう。……後悔するくらいなら、そんな真似などしなければよいのに、と思うのだが。

「この前のことも本当に悪かったと思ってるし……今回のことも……やっぱり巻き込んだ形だし。『セフィロス』はそんなつもりはないって言ってたけど、ヴィンセントと赤ちゃんを庇って怪我したんだからさ。せめて、普通に生活できるようになるまでは、ここに居てくれないかな」

「…………」

「戻る機会を心配してんだろうけど、二度在ることは三度あるってば。これまでだって、俺二回も向こうに行ったんだよ? きっとまたすぐチャンスが来るよ」

 クラウドが言葉を重ねる。

「…………」

「もし、万一、時間がかかるようであっても、ここに居ればいいじゃん。お金もかかんないし。ゴハンは美味しいし、景色は綺麗だし。うちのセフィは意地悪だから、あんまし側に寄んないほうがいいと思うけど」

 ボコッ!

 というのは、セフィロスが彼の後頭部を殴った音であった。

 なんというか……本当に不思議な人々だ。正直、この世界に興味がないわけではなかった。なんといっても、『もうひとりの私』が居るわけだし、他の銀髪の青年たちだって、彼と関係があるのかもしれない。

 だが……