ハローベイビー 〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜 <最終回> KHセフィロス
「……だが……困惑する」
私はようやくそれだけをつぶやいた。
「あ、ううん。もちろん、君の立場になれば、困ってしまうのは当然だと思うけどさ、でも……」
慌てて話を引き取ったのはヤズーであった。
「……そうではない」
と、言った。あまり大きな声が出なかったので、彼らは聞き取れないようだった。
「え……あの……?」
「違う。……困惑するのは、そちらのほうだ」
「あ、あの……どういうことだろうか? 我々がどうして……?」
おずおずとヴィンセントが訊ねた。さすがに涙は拭き終えていた。
「きっと、私を相手に困惑するはずだ……よくそう言われることがある」
思ったままのことを、私は口にした。
「だから……側にいないほうがいい」
「『セフィロス』……!」
唐突にぎゅっと片手を握りしめられて、私は目を瞠った。
ヴィンセント・ヴァレンタインが、両手で慈しむように私の手を包み込んでいた。
「馬鹿な……そんなはずあるわけないだろう……? 君はなんて奥ゆかしく、気遣いのある人なのだろうか…… ああ、やはり『セフィロス』という人は、あちらの世界でもこちらの世界の人でも、皆一様に、優れた人格を有しているのだな……」
「それ、ちょっと違くない? ヴィンセント」
と、発言に突っ込むクラウド。
「ほら、クラウドからも言って欲しい。『よけいな気遣いは無用』だと……」
「よけいな気遣いは無用だよ」
「本文どおりじゃねーか。もう少しひねりを入れないか、アホチョコボ」
「うっさい、セフィッ! 少なくともアンタよりはこっちのセフィのほうがいい人だよね! やさしいし、穏やかだし、上品だしッ!」
「この野郎ッ! 誰に向かって口を聞いてやがる!」
クラウドを抱き込んで殴るセフィロス。その片腕に噛みつくクラウド……
……こんな物言いをする人物と『一様に』と言われるのは、いささか心外でもあるのだが。
「……あ、12時」
もっとも年少の子どもが、あっけなくそう言った。
壁掛け時計の長針が、ぴたりと12の文字に重なると、軽やかな音楽が流れ出してきた。
「………………」
私はぼんやりとその時計を眺めていた。
一瞬の沈黙の後、セフィロスが笑い出した。
「クッ……フハハハハ! あ〜あ、とんだ間抜け野郎だな、貴様は」
「せ、セフィッ! よせよ、そんな言い方すんの!」
と、クラウド。
「ハハハハハ! まぁ、いい機会だ。少し社会勉強でもして行け。怪我の具合がよくなったら、オレがいい所へ連れていってやる」
「ちょっ……セフィロス、あなたねェ、彼におかしなこと吹き込まないでよね」
ドンとセフィロスを、ヤズーがつついた。
「……そうか……いや……では……しばらくはここに居ようと思う」
私はぼんやりとそうつぶやいた。
帰還のチャンスを逃したことをそれほどショックには思っていなかった。むしろ、「ショックに思っていない」自身に、驚愕を覚えるのであった。
「やった!」
「ほぅら、僕の言ったとおりになったでしょ!」
「なんだよ、カダージュだって、わかんなかったくせに!」
「よしよし、よかったね。ふたりとも。俺もようやく安心できるよ。……では、よろしくね、『セフィロス』」
そうささやくと、ヤズーが私に手を差し出した。
……これは……
ああ、そう……この前覚えたばかりの動作だ。
『握手』だったな……
私が楽な方の手を差し出し、軽く握る様を見て、クラウドとヴィンセントが微笑んだ。
「……あれ? ずいぶん、手が熱いかな?」
「……少し熱っぽい」
私は低くつぶやいた。
すべきことがなくなったら、気力が持たなくなったようだ。落ち着くべき場所が決まってドッと疲労が吹き出したのかもしれない。
「ええッ! ちょっ……ご、ごめん! つい、夢中になっちゃった。さ、早く横になって!」
「ヤズー! その前にシーツとカバーを取り替えた方がいい! 発汗しているだろうからな。今すぐに持ってくる! ああ、クラウド、ちょっとすまない」
と言って、ヴィンセントがパタパタと歩いて行く。
「そうそう。その前に身体拭いてあげる。すっきりするから。お風呂は明日からね? さてと、すぐに準備してくるから! ああ、ほら兄さんたち、邪魔邪魔! カダとロッズはお湯沸かしてくれ!」
後を追うように、ヤズーもせわしなく出ていった。
……そんなわけで、結局、私は二度目の機会も逸したわけなのだ。
私がこの土地からようやく身近な場所に移動したのは、それから9日後であった。
詳細を聞きたいという、物好きが居たならば、折りを見て語ってもよいと思う。
少なくとも、この場所にしばしの間とどめ置かれた私は、決して苦痛を感じることもなく、また不安に陥ることもなかったと、今は、ここに記しておくことにする……
終わり(→9daysに続く)