ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<24>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 


 

 

 次は、ようやく正気づいたヴィンセントが、彼の手を取らんばかりに、感謝の念を述べる。

「あ、あ、ありがとうッ!『セフィロス』! この子を助けてくれて……! ヴィンは家族の一員で……とても可愛がっていたんだ…… もしここで亡くなるようなことがあれば、どれほど後悔することになったか……」

「……ただのきまぐれだ。礼を言われるようなことではない」

 眉を顰め、さらに顔を背ける。

 敢えて突っ慳貪な物言いで間隔をとる『セフィロス』。どうも彼は率直な好意や感謝の念が苦手なようだ。

 ……いや、苦手と言うよりも、持て余してしまうらしい。

「みゅん、みゅん……」

「よかったな、ヴィン……『セフィロス』のおかげだぞ」

 ヴィンセントが子猫を抱き上げ、小さな額に口づける。

 聞こえないふりをして、そっぽを向く『セフィロス』。

 ……うちのセフィもそうだけど、本当に『セフィロス』という人物はあっちもこっちも素直じゃない。

 俺はそんなことを考え、彼に気付かれないように笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 レノが赤ん坊を迎えに来たのは、それからまもなくであった。

 ヴィンセントはすぐに預けられるよう、赤ん坊の面倒を見ており、俺は剣の手入れをしていた。何もなければいいが万一に備えてだ。

 部外者の『セフィロス』は、ずっとヴィンと遊んでいたらしい。……というのは、俺たちがその様子をうかがうと、すぐに席を立ってしまうから、気付かないふりをしていたのだ。

 赤ん坊は長椅子のヴィンセントの膝……俺はリクライニングに腰掛けて、武器の手入れ……『セフィロス』は天蓋つきの寝台で、無邪気に転がるヴィンの相手をしていた。

時折、遊びに興奮したヴィンが、

「フシューッ! みゅんみゅん!」

 と、威嚇するような声を立てるのだ。その後に、『セフィロス』の小さな笑い声……

 俺は吹き出しそうになるのを堪えていたが、ヴィンセントは彼が引っ掻かれやしないかと心配しているようだった。

 そんな束の間の、安寧な時間が流れ、上空に約束したヘリの音が聞こえたのは、それから一時間もしないうちであった。

 時刻は午後八時過ぎ……予想外に早い時間だ。いや、むしろそれに越したことはない。望外のラッキーとさえ言えるだろう。

 

 バラバラバラ……

 

 ヘリの音を耳にすると同時に、ヴィンセントに目で合図を送る。

 『セフィロス』は我関せずという態度で、何の注意も払わないし、寝台から顔すら出さない。だが、その方がかえってよいだろう。レノに彼を見られたら説明が面倒になる。

「……ヴィンセント、準備いい?」

 剣を手に立ち上がる。

「ああ……うまい具合に眠っているし、夜具もきちんと着せたから……」

「そう……じゃ、ヘリを誘導するから。ヴィンセントは赤ちゃん、頼むね」

 そう言い置いて、俺は慎重に窓に近づいた。

 ヘリはおそらくレノのものだと思うが、確認するまではうかつなことはできない。細く窓を開け、上空を伺う。

 ヘリの機関席で、見間違えようのない紅い髪が舞っていた。

「ヴィンセント、大丈夫、レノだ。間違いない」

「そ、そうか……よかった!」

「うん。でも、ちょっと待ってて。まだこっちに気づかないでいるから……俺たち、部屋移っちゃったからね」

 そう断っておいて、俺は大剣を振り回して見せた。

「レノッ! レノ〜ッ! こっちだッ! こっち……!」

 ヘリのプロペラの音に声が消される。

 だが、大げさに剣を振って見せたせいだろう。ほどなく気が付いてくれたらしく、旋回するというジェスチャーをした。運転席に居る方は、ルードだろうか。

 

 よし……!

 後はあの子を、レノに預ければ、任務終了だ。

「ヴィンセント、ヘリが旋回してバルコニーに着けるから……赤ちゃん……」

 と、そこまで口にしたときであった。

 

 バリバリバリバリ!

 

 耳をつんざくような爆音がして、スウィートルームの扉が砕け散った。

「なッ……!」

「クラウドッ!」

 

 ズダダダダダッ! ダダダダァン!

 

 連射される機関銃に、窓ガラスが砕けて行く。俺は反射的に床に伏し、被弾を避けた。一瞬の後、レースのカーテンは蜂の巣のごとく穴だらけにされ、瀟洒なソファもズタボロの、木片と化していた。

「ッ……いってェ……」

「ク、クラウド!大丈夫かッ!?」

「ダメだ、出てくるな、ヴィンセント!」

 俺は叩きつけるようにそう叫んだ。その側から、目の前のチェストが砕け散る。

  

 ダダダダダダダ……ダダダダ……!!

 

 頭上は銃弾の雨だ。

 ヴィンセントは部屋奥の長椅子の後ろに、身を沈めている。もちろんしっかりと赤ん坊を抱きしめて。

「うぇぇ〜ん、ふぇぇ〜ッ」

 ただならぬ気配を感じたのだろう。これまで機嫌よく眠っていた赤子が泣き出してしまった。

 銃撃が途切れた間に、大剣を構え直す。

 ここまで無事に来られたのに……!!最悪だ。

 

 崩れかけた扉が蹴り開けられ、見覚えのある異端者どもが入り込んでくる。

 そう……廃墟と化した神羅ビルで目にした連中……ディープグラウンドソルジャーだ。俺は連中の隙を、寝室の壁に張り付いたままうかがっていた。