ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<18>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「……おまえは私を好ましく思ってくれてはいないのか?」

 静かな声音でヴィンセントが問う。注意しなければ聞き取れないほどの小さな声で。

「へ? ちょっ……何言ってんの、ヴィンセント。あたりまえじゃん!」

 どういう思考回路をしているのだろうか。いきなり訳のわからないことを言い出す彼に、ややキツイ口調で応じた。

「だが……今、『気持ちを確認しなかった』と……」

「違うって! だからそれは『俺がアンタの気持ちを』ってこと! 一番最初のときから……今まで、ずっと自分のペースで、アンタのこと引っ張り回してきたような気がする」

 ぼそりと俺はつぶやいた。

「……どうしたというのだ、クラウド? 何を……急に……」

「ごめん。なんか……こんな場所来ちゃったせいかなァ……俺、何にもしてあげてないね。 ……世の中のフツーのカップルに比べたら……ホント、アンタを楽しませてあげられることなんて……なにも、さ」

 ……ヴィンセントは男の人なんだから。

 別にヒラヒラのドレスもレースのベッドもいらないだろうし、おとぎ話に出てくるようなドレッサーだって無用だろう。

 でも……

「……クラウド」

 しっかりと腕の中に赤ん坊を抱いたまま、ヴィンセントが俺を呼ぶ。

「ん?」

「……クラウド、私は……あの家が好きだ。……大好きなんだ」

「ヴィンセント……」

「おまえが居て……楽しそうに笑っていて、毎日、仕事を頑張ってくれて……」

 長い睫毛が目元に影を作る。

「私の作ったものを、みんなが食べてくれて。……子ども達の小さな諍いを仲裁したり、セフィロスの話相手にさせてもらったり、ヤズーと一緒に買い物に出掛けたり……」

 夢見るようにヴィンセントが言った。

「そして何より……クラウド…… おまえがずっと私の側に居てくれる。私のような化石じみた人間にはいささか気恥ずかしいが……」

 そこまでいうと、真っ白い頬にポッと赤みが差した。

「……いつでも……おまえに触れられる。側に体温を感じられる。それが何よりも……嬉しいことなんだ」

「ヴィンセント……」

「あ……あ、いや、その……少ししゃべりすぎたようだ。ば、場所が変わったせいだろうか…… え、ええと……あ、ああ、そろそろ赤ん坊のミルクを……」

「ヴィンセント〜ッ!!」

 飛びつこうとした俺を、上目遣いでヴィンセントが制止した。

 もう!赤ちゃん、邪魔ッ!

 こいつさえいなければ、力任せに飛びついていけるのに!シチュエーションはバッチリなのにーッ!!

 ああ、でも、やっぱりヴィンセントは、ヴィンセントだ。こんなにも俺の欲しい言葉を的確に見つけ出してくれるなんて。

 ううん、そうじゃない。無理に探し出しているわけじゃないのだろう。

 ヴィンセントは、本当にあの小さな家を愛してくれているのだ。特別に豪華でも何でもない……広さはあっても、六人もの男がごった返すあのとんでもない別荘を好いていてくれる。

 ヴィンセント、大好き。

 俺の愛した人は、なんて心の美しい人なんだろう。可能ならば、全世界にヴィンセントを自慢しながら歩き回りたいくらいだ。

 

「ほら、落ち着きなさい、クラウド……子どものようだぞ」

「……子どもでもいいもん。ヴィンセント、子どものほうがやさしくしてくれるもんね」

「バカなことを……」

 そうつぶやくと、クスクスと軽く笑った。

 今度ばかりはセフィに感謝だ。ヴィンセントを一緒に寄越してくれたのはセフィロスなのだから。

 ……もしかしたら、今頃……彼らはDGどもの襲撃を受けているかもしれない。

「……どうした、クラウド?」

「うん。セフィロスたち、ちゃんとやってるかなって思って」

「……ふふ、『ちゃんと』とは……彼らはとても強いからな」

「まーね。ツヴィエート相手にも一歩も引かない連中だからね」

 まぁ、セフィたちに限って万に一つも遅れを取ることなど考えられないが……極力、家を傷つけないように頑張って欲しいものだ。

「…………」

「…………」

「……そのわりには浮かない顔をしているが……?」

 俺が黙り込んだのを深読みしたのだろう。ヴィンセントが小さく訊ねた。

「ん〜、どっちかってゆーと、セフィロスたちよりも、家の無事のほうが気になるんだよねー。ほら、この前改築したばっかだし」

「……クラウド」

「ごめんごめん。そんな怒んないでよ。だって、ヴィンセントだってそう思うでしょ? セフィたちは殺されたって死なないよ。図太いんだから」

「まったく……おまえは……彼らには憎まれ口ばかりだな」

 ふぅと呆れたように息を吐くヴィンセント。

 

「みゅんみゅん!!」

 チビ猫の抗議の声で、俺は慌ててバスケットの蓋を開けた。

「みゅぅ〜ん、にゅんにゅんッ!」

「悪い悪い。おまたせ、ヴィン」

 小さな身体を抱え上げ、ふわふわした絨毯に置いてやると、黒い毛玉のような身体がハシャギまわって駆けてゆく。持参したペット用の簡易トイレをオープンバルコニーの屋根付きの部分に設置し、俺は一息吐いた。

「クラウド、迎えはいつ頃来るのだ?」

「24時間以内だ。……早くても夜中がいいところだろ。それ以上は絞り込めないらしい」

「丸一日だな。……少し休んだ方がいい」

 ヴィンセントが言った。

 確かに昨日から、ヤマダーを呼んだり、なんだかんだとバタバタしっぱなしだ。

「俺は平気。ヴィンセントのほうこそ、ゆっくりして。疲れてるでしょ」

「……いや」

「何言ってんの。せっかく部屋取ってあるんだからくつろぎなよ。赤ちゃんも寝てるし、一休みして」

 くり返しそうすすめると、ようやくヴィンセントは頷いてくれた。

「では……ジャワーを浴びて休ませてもらう。……なんだかセフィロスたちに申し訳ないな」

「気にしない気にしない」

 ヴィンセントがスーツの上着を脱ぎ、きちんとハンガーに掛けるとバスルームに姿を消した。

「みゅんみゅん?」

 近寄ってきたヴィンを抱き上げ、しめった鼻先にキスをすると、

「……おまえも大変な家に拾われちまったな」

 と、ささやきかけたのであった……