ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<17>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

 

「はい、ご予約、承っております。こちら……最上階の1209号室でございます」

 綺麗にメイクした女性が柔和に微笑む。セントラルホテルのフロントだ。コスタデルソル一の高級ホテルで、規模はそれほど大きくない。

「ありがとう。……ヴィンセント、行こう」

 赤ん坊を抱いたヴィンセントを小声で促す。俺の手にはバスケット。もちろん中には子猫のヴィンが居るのだ。万一のことがあるといけないから緊急避難である。

 さすがにこういった場所だ。俺もヴィンセントも多少かしこまった格好に着替えていた。もちろん蝶ネクタイのスーツというわけではなかったが、俺はいつもの格好にジャケットを引っかけていたし、ヴィンセントはセフィロスに贈られた、淡いオリーブ色のソフトスーツを着ていた。

 なんとなく注目を浴びている気がするのは、きっと男ふたりで赤ん坊連れなのがめずらしいのだろう。もちろん、教育されているホテルの従業員はそんな素振りなど見せないが。 

 エレベーターで12階……最上階へ上がり、キーの番号の部屋を捜す。南側の一番奥が1210号室、そのとなりが1209号室だ。

 最上階はわずか10部屋で、他のフロアよりも部屋数が少ないようであった。

「あ、ヴィンセント、ここ」

「……ああ。よしよし……着いたぞ。いい子だな……よくおねむだ」

「ルーファウスの親戚だからかね。神経太いガキ」

 ルームキーで扉を開きながらそんなことを言ってやる。

 周囲がこれだけ大騒ぎしているのに、安穏とヴィンセントの腕の中で眠るチビガキ。なんだか小憎たらしくなって小突いてやりたくなるのだ。

「よしなさい、クラウド。こんな小さな身体で、健気にも敵の魔手から逃れて頑張っているのだぞ」

「『逃れさせてやってる』のはヴィンセントや俺みたいなやさしい連中がでしょ」

「クラウド……」

「はいはい。さ、どうぞ、ヴィンセント。ちょっと休もう」

「ああ……」

 ドアを押し広げて、赤ん坊を抱えたヴィンセントを先に中に入れる。その後、廊下の左右を確認し、しっかりと扉をロックした。

 さて、後は迎えを待つばかりだ。あらかじめ偽名で部屋を取っているのだから、手はずは整っているのだろう。当面、俺たちはそれまでこの子をしっかりと見守ることくらいしかやれることはなさそうだった。

 

 

 

 

「わ……気がつかなかった……ここ……すごい部屋だね。スウィートルーム?」

「あ、ああ、そうらしいな」

 面食らったようにヴィンセントも頷いた。

 確かに最上階は、建物の大きさに反して部屋数が少なかった。……一部屋がこの大きさならば当然のことだ。

 扉のずっと奥……窓際に瀟洒なテーブルと椅子。その向かって右手に淡い色合いのソファとガラステーブルがしつらえてある。絨毯の色が……これはなんという色なのだろう。ピンク色よりはずいぶんと落ち着いた灰色がかった桜色。壁紙はアイボリーだ。

 きっとすべての家具は、この部屋の絨毯と壁紙の色合いに合わせてあるのだろう。どれもこれも、オフホワイトやパステルカラーで、ふんわりとまとめてある。

 だが、それらが軽々しく見えないのは、やはり品質がよいのだろう。品物は素人目にもいかにも高価だとわかるし、ホテルのクラスから言っても、軽々しい物を置くはずがなかった。

「ね、ね、ヴィンセント、ベッドルーム見てみようよ!」

 こんなときなのに、ついついはしゃいでしまう。ヴィンセントは戸惑いがちであったが、俺の後に続いて寝室を覗き込んだ。

 巨大なダブルベッドにふんだんにレースのついた掛け布団。もちろん枕は二つで巨大なクッションも転がっている。傍らにはオーロラ姫が使いそうなドレッサー。サイドテーブルにはピンクのバラが活けてあり、白ボアのついたスリッパまで置いてある。

「うひゃ〜……こりゃ、フロントの人もちょっとびっくりだよね。男ふたりでこんな部屋取ってりゃ…… 」

「た、確かに……」

「あーあ、もったいな〜い。もろに新婚さん部屋なのにーッ!」

 バフバフとベッドで転がりながら、つい本音をもらす俺。

 もちろん、自分の家は大好きだが、ふたりきりでホテルのスウィートルームに泊まるなどという機会はめったにないはずだ。そして『めったいない、特別なこと』というのは、エッチ魂に火をつけるものなのである。シチュエーションがエロに及ぼす影響は甚大だ。

「……クラウド、非常時なのだぞ」

 案の定、ヴィンセントが諫めるようにつぶやく。

「わかってるけどさァ。よくよく考えてみると、俺たちって何もイベント事しなかったよね。アンタのこと無理やり別荘に連れてきてさ……ちゃんと……その……『気持ち』の確認もしないで雪崩れ込むように、今みたいになっちゃって……」

「クラウド……」

 驚いたように、兎の瞳が俺を見た。

 そうなのだ。ヴィンセントを半ば拉致するようにコスタ・デル・ソルに連れてきて、あの別荘に住まわせた。『こういう関係』になったのも、力づくのようなものだし。

 ヴィンセントはよほどのことでないかぎり、他人を拒絶はしない。いつも静かに微笑んで受け入れてくれる。