ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
<11>
 
 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「なに、センセ。俺の顔に何か着いてる?」

 そう聞き返した。

「子どもと言えば……フーム、フムフム。そう言えば、チミも金髪碧眼なのだよねェ、コレ」

 じろじろといささか不躾なくらい、俺の顔を眺め、ヤマダーはつぶやいた。ちょっと見りゃわかると思うんだが。

「うん。綺麗で格好良くて可愛いでしょ」

「ク、クラウド……よしなさい……」

「ふーむ……」

「どうしたの、センセ?」

「いやねェ、そういや、チミ……似てないこともないかなァ。チミのほうがちっとばかり童顔だがね、コレ。その赤ん坊を見たときからそう思っとったんだよ」

 無精ヒゲの浮いた顎を、擦りながらヤマダーは言った。

「おい、何の話だ藪医者」

「ちょっと……セフィロス! この子が兄さんに似てるってコト? そう、やっぱね、遠縁のおねェさんも兄さん似の金髪の美人だから」

 ひょいひょいと受け流す。まったく悪びれない。弟とはいえ、やっぱしヤズーはすごいと思う。俺なんてウソをつくのは大の苦手ですぐにバレてしまうのだ。

「そうね、この子、兄さんによく似てるよねェ」

「ふむふむ」

「ところで、最初、誰に似てるって思ったの? なんか先生がそんな世間話するのめずらしいよねェ。よかったら聞きたいなァ」

 甘えたふうに、医師のとなりに腰掛けて顔を覗き込むヤズー。押しのけられた形になる俺……

 あー、コワイ。ホント、怖い。

 ヴィンセントを見てると、人間って捨てたもんじゃないなとか、信じられる人もいるよね、とか思うわけだが、ヤズーを見ていると渡る世間は鬼だらけという気分になってくる。

「あー、チミ……睫毛バサバサだね〜……大変だね、コレ……」

 などとワケのわからないことを言った後、ヤマダーは「失敬」と断ってから、テレビのスイッチを入れた。もちろんリモコンのボタンを押したのである。

「あー、これは何かね……真っ黒じゃないかね、ソレ」

「あ、俺、プレステと繋いでるから」

 するとバカにしたような眼差しで俺をみやり、すぐにチャンネルを変えた。

 

『……という形で、目下鋭意捜索中です。続きまして、株)神羅の、ルーファウス・神羅代表取締役をスタジオにお呼びしております』

 

「なにこれ? ニュースでしょ? なんか事件でも……」

「しっ、兄さん」

 

『ルーファウス神羅です。皆様にはいろいろとご心配お掛け致しまして、誠に恐縮しております』

 テレビの画面にアップになったのは、見慣れた顔……そう、ルーファウスであった。興味を持ったのかセフィロスも新聞を手放し、テレビ画面に注意を払う。

 

『さぞ、ご心痛のことと存知ます。一刻も早くお従兄弟が無事保護されることを願っております』

『ありがとうございます。父も亡き現在においては、唯一の血縁です。なんとしてでも守ってやりたいと思っています』

『多くの方々がこのテレビを観ていることと存じます。社長、なにかメッセージを』

『……この度は私事で世間をお騒がせいたしまして、誠に申し訳ございません。ですが、幼い従兄弟の命が掛かっております。容姿の特徴は私と同じ金の髪に碧眼で、月齢10ケ月の乳幼児です』

 

「……え……ちょっ……と、なにこれ……」

「シッてば、兄さん!」

 

『現在、犯行組織からの身代金の要求はありません。おそらく遠隔地に連れ去り、身辺の安全を図ってから交渉に出るつもりなのでしょう。大陸の北方へ移動したとの情報を得ております。どんな手がかりでもけっこうです。アイシクルエリアにご在住の方、お気づきのことがございましたら、ご一報頂けるよう、お願い申し上げます』

 

『スタジオからルーファウス神羅社長でした。アイシクルエリア、アイスランド、スノーヒル等、北方方面にお住まいの方は引き続き情報をお寄せ頂けますよう、よろしくお願い申し上げます』

 

 画面いっぱいに引き延ばされた愛らしい赤子の姿が映し出された。

 皆一斉に黙り込み唾を飲む。きっと腹に溜め込んでいる疑問を必死に押し殺しているのだと推察される。俺自身がそうなのだから。

 

「そう、わし、これを見ておったのじゃよ。なんか似ているなと思ってな、コレ」 

「そ、そうだねェ、確かに似てるよねェ、兄さん?」

「あ、ああ……」

「あーと、そういえば、さっきの『ルーファウスって人』と兄さんも、容姿は近いよね、金髪碧眼で」

「う、うん……」

 ぎこちない相づちを打つ。ヤズーも敢えて面識のあるヤツのことを、『ルーファウスって人』と言いあらためている。もちろん山田医師の手前だ。

 

 その山田医師はフゥと吐息するとやりきれないというように頭を振った。

「しかしねェ、あんな10ヶ月程度の赤ん坊を攫って、北方に潜むだなどと……赤子には何の罪もなかろうにねェ、コレ…… 乳幼児は気候の変化に順応しにくいのじゃよ、コレ、大人と違ってねェ……」

「……他人事とはいえ……心配になるねェ」

 上手い具合にヤズーが相づちを打った。

 だが、俺はちょっとばかりヤマダーを見直していた。正直、仕事熱心な医者とは言い難い人物だと思っていた。診察時間は短いし、往診を嫌がるし……そのせいで患者をよその病院に取られても何の感慨もない様子だったのに。

 こうして、見ず知らずの赤ん坊の身を案じる姿は、やはり人の命を預かる仕事をしているのだなと感じた。

 

「さぁて、遅くなってしまったからね、コレ。ヴィンセントくん、ごちそうさま」

「あ、いえ……無理を言って来て頂いたのに、おかまいもできませんで」

「あー、もう、お宅にはね、慣れたからね、コレ。それから太りたまえよ、チミね。心配事はいろいろあるのかもしれないがねェ」

「あ……は、はぁ……」

 ちらりとセフィロスを横目に眺めてそんなことを言う。もちろん無視するセフィロス。

「先生、もう遅いし、送らせて下さい」

 そう申し出たヤズーに、今度ばかりは頷いた山田医師であった。

 時計を見れば、すでに夜の10時を回っている。

 

 車の音が遠ざかっていくのを確認すると、俺たちは一様にヘタヘタと座り込んでしまった。平気なツラをして寝転がっているのはセフィロスだけだ。

 

「ちょっ……もう、どういうことだよ、コレ〜〜〜っ! ねぇ、なんなの?この子?どーいうのことなのッ!?」

「お、落ち着け……クラウド……」

「ルーファウスの親戚の子って……どうしてそれをレノがカッ攫ってんのよ? どういうことだよ!」

 ……俺は頭を抱えて、ソファにへたり込んだのであった……