ハローベイビー
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜
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 クラウド・ストライフ
 

 

 

 

 

 

「そ、そうですね。確かに……注射のほうが……早く楽になるのなら……」

 頷くヴィンセント。それでもやはり可哀想に思ってしまうのだろう。

「大丈夫だよ、ヴィンセントくん、コレ。ちっとばっかしチクッとするだけだからね、すぐに済むからね」

「あ、は、はい」

「そんじゃあ、押さえててやってよね、コレ。すぐだからね」

 診察カバンから注射器を取り出し、手早く準備する。白い綿を取り出し、消毒用アルコールを含ませる。

 ああ、俺も注射などは苦手な口だから、脱脂綿だの、使い捨ての針などを目の当たりにすると、ズクズクと胸が痛み、嫌な気分になってくるのだ。

 

 ヤズーとヴィンセントが赤ちゃんの側に陣取る。

 ただならぬ様子を察知したのだろう。チビはいきなりビーッと泣き出した。

 煩わしげに顔を背けるセフィロス。カダージュやロッズは見ていられないとばかりに、キッチンの方に行ってしまった。

 俺はそっと椅子から立ち上がった。ヴィンセントの側に行く。

「ね、ヴィンセント、押さえるの、俺が代わるから」

「え……あ……い、いや、大丈夫だ、クラウド……」

「いいから。ね? 向こうでヤマダー……じゃね、山田先生にお茶でも淹れてやんなよ」

「…………」

「ヴィンセントも何か飲んで落ち着いて。顔、真っ青だよ」

「ん…… あ、ああ。わかった……すまない、頼む、クラウド」

「うん、任せて」

 逃げるようにヴィンセントがキッチンに行く。その彼に労るようにカダたちが声をかけていた。

「チビ、男は我慢だ。すぐ泣くな。気合い入れてけ」

「うふふ、兄さんに言われちゃあねぇ、チビちゃん」

「ホレホレ。まったくそんな大げさな。さっさとやっちゃいますよ、コレ」

 何の感慨もなくそういうと、ヤマダーは手早く赤ん坊の腕に、注射を済ませた。当のチビは針を刺されてもびっくりしたように目を見張るだけで、注射器を抜かれてから激しく泣き出した。すかさず、ヤズーが抱き上げ宥める。

「よーし、よし。いい子だね。強い強い、泣かない泣かない」

「ヴィンセント、ちゃんと済んだよ」

 こちらを見ないように、キッチンで用を済ませていたヴィンセントに声をかけた。

「あ、ああ…… あ、先生、お茶をどうぞ」

「ん〜 フムフム」

 テーブルに茶器を整えるヴィンセント。

 来客用のカップに丁寧にアールグレイを注ぐと、ソファに落ち着いた医師に、手早く差し出した。もてなしを終えると、すぐさま赤ん坊の傍らにより、ヤズーと一緒に宥めている。

「ヤレヤレ。大げさな人たちだねェ、コレ。たかが赤ん坊に注射しただけで。ハー、ヤレヤレ」

 診療道具を片付け、ソファに落ち着く山田医師。

「同感だ」

 隣に腰掛けるセフィロスがそう言った。

「初めてチミと意見が合ったねぇ」

「そうだな。二度とはないかもな」

「わしもそう思うよ、コレ」

 セフィロスとヤマダーはけっこう調子が合うのかも知れない……俺はそんなことを思った。

 しばらくの間は、ひっくひっくとしゃくりあげていたが、薬が効いてきたのか、チビは呆気なく眠り込んだ。ホッと安堵の吐息をつき、ヴィンセントがベビーベッドに戻してやる。

「……先生、落ち着いたようです。ありがとうございました」

「そうかね。フンフン。まぁ、アレだね。こんなに心配してくれる人たちに囲まれて、その子も幸せかもしれんねェ」

「え……ええ…… やはり小さな子どもが苦しんでいる姿は見ているのがつらくて……」

「フムフム。ヴィンセントくんはやさしいねェ。でももう少し太ったほうがいいねェ、コレ」

「ちょっ……全然、流れ無視してない? 会話の筋道通ってないじゃん」

 口を出す俺。微笑むヴィンセント。仏頂面でテーブルに並べられた茶菓子を食い荒らし、紅茶をすするセフィロス。

 赤ん坊もいるせいか、なんとなく『家族』っつーのも悪くないかもなァなどという幻想に囚われてしまった。いやいやもちろん、ヴィンセントとふたり住まいというのは、この上なく魅惑的な環境だが、こうして大人数で赤ん坊を囲んでいるのも悪くはないと思うのだ。

 できれば、赤ん坊がどんな形であっても、俺とヴィンセントの子どもで、セフィたちは、たまに立ち寄るご親戚(?)程度の付き合いであれば言うことはない。

「なに惚けてやがる、クソガキ。妙に感慨深そうな眼差しでボケるな、アホが」

「ちょっ……口悪いなァ、セフィは! 言っとくけどさ、セフィは絶対子ども持つべきじゃないよね! 赤ん坊が可哀想ッ!」

「なんだと!? ガキの世話なんざその気になりゃ……」

「あー、無理無理ッ!」

「アー、無理だね、コレ」

 俺とヤマダーの声が重なった。

「このクソ医者!てめェまで、そのガキの味方をするかッ!」

「や、やめたまえ、セフィロス。君がとてもやさしい人なのは私はちゃんと理解しているつもりだから……」

「ちょっと君ねェ、ヴィンセントくん。痩せているばかりでなくて、目も悪いのかね、コレ。やさしいという形容詞はだね、そもそもコレ、こーいった人物にはだね、アレ、使うべきではないだろうねェ」

「い、いえ、先生。セフィロスは家人にとても良くしてくるし、私などどれほど彼に気遣われているか……」

「うーん、幻覚症状もあるのかねェ、ヴィンセントくんは、コレ」

 ヤズーが付き合っていられないといった様子で頭を振る。ヤマダーに掴みかからんばかりのセフィロス。赤ん坊が目を覚まさないかとハラハラとしているヴィンセント。

 

 ……いや、やっぱ……同居はイカン。イカンよ!カップルはふたりきりでなくては!

 フムフムと頷いていると横から視線を感じた。見つめているのはヤマダーだ。