ハローベイビー 〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家&おまけの『うらしま』〜 <7> クラウド・ストライフ
「あ、兄さん、おかえり、今日は遅かったねェ、お疲れ様ァ」
「……クラウド……疲れたろう…… すぐに食事にするか? それとも風呂の方がいいか……?」
「俺、ヴィンセントがいい。チューして、チュウ!」
仕事から帰ってきて、甘ったれる俺。困ったように首を傾げ、それでも、そっと額に口づけてくれるヴィンセント。
……あのチビ助が我が家にやってきてから三日。
何度もレノの携帯に電話したし、ティファにも連絡を取ってみたが、いっこうにはかばかしくない。
さりとてゴミ捨て場に生ゴミの日に出すわけにもいかず……いやいやこんなことを口にしたら、ヴィンセントに叱られてしまう。
「はい、兄さん、お茶」
「さんきゅ。……あーあ、今日も疲れた〜」
「……ところで……どうなの? 何も手がかり掴めないの?」
多少焦れったげにヤズーが言う。
彼の場合、別に赤ん坊を疎ましく思っているわけではない。いや、むしろごく普通に可愛がっていると言えるだろう。
だが、あまりにも預かる期間が長くなれば、家の人間の情も移るだろうし、赤ちゃんにしてもいいことはないと言う。俺もそれには同感だった。
特に一番下のカダージュなどは、本当につきっきりで相手をしているし、可愛くてたまらないらしい。ヴィンセントが家事で手が放せないときなどは、率先して子どもの面倒を見ているし、今もベビーベッドを覗き込んで百面相をしている。
「……俺たちも手伝っているとはいえ、やっぱりヴィンセントに負担が掛かっちゃうし、赤ちゃんのためにもね。早く両親のところに戻してやらないと……」
「うん、わかってるよ。でもさァ、レノに連絡は取れないし…… 新羅本社にも何度か電話したんだけど、いつも出払ってるってことでさ」
「そう……」
「さすがに、社員なら誰でもいいからひっつかまえて聞いてみるってわけにはいかないじゃん? 完全にプライベートかもしれないしさ。他人に知られたくないのかも……」
「ふぅん、兄さん、やさしいね」
クスクス笑いながら、イタズラっぽく顔を近づけてくるヤズー。
「別に。まぁ、レノは一応知り合い……程度の付き合いはあるし」
「ふぅん、そうなんだ。神羅時代は仲良かったんじゃないの?」
「そんなことないよ。あいつ一応、エリートだしな。あの頃からもうタークスに居たわけだから」
「へぇ、そうなんだ、ウフフ、あの人がねェ」
「ま、だからってエラソーにするヤツじゃないし。フツーに話くらいはする仲だったよ」
「うふふ、兄さんの神羅時代……見てみたかったなァ。生まれてくるのが遅くて残念★」
そんな悪戯っぽい物言いをして、彼は笑った。……こうして間近で見ると、本当にヤズーは綺麗だ。いや、容貌についてはヴィンセントだって勝るとも劣らずなのだが、彼の美貌は『華』がある。どちらかというと女性的な容姿なのだ。
バサバサと音がしそうな豊かな睫毛、なめらかな柳眉に細く通った鼻筋。口唇はやわらかく孤を描き、淡い薔薇色をしている。
「……なーに見てるの、兄さん?」
「いやー、ヤズーって綺麗だよね〜。この子のお母さん、おまえみたいな人だったのかなァ」
「はぁ?何を急に言い出すんだか……」
呆れたように、吐息混じりで言い返された。
「別に〜。なんか近くで顔見てたらそんなこと考えちゃった。あの子もけっこう可愛い感じだったしさ」
「もう、馬鹿なこと言ってないで、早くなんとかしなきゃね」
「わかってるよ」
「それにあのチビちゃんは、どう見ても兄さん似だと思うよ?」
「金髪だからか? 言っておくけど、俺は子どもなんて産めません」
「俺だって産めないからァ、ふふふふ」
そんなことを言いながらヤツは、手際よくテーブルを整えてくれた。腹は減っているので出された物を素直に食べる。相変わらず我が家の食事は美味しい。
「……ねぇ、ところでさァ、あの赤毛くん……タークスだっけ、神羅の諜報員って言ってたよねェ」
「ああ。もっとも今、神羅自体が昔みたいな会社じゃないから」
ヴィシソワーズスープを口に運びながら、そう答える。
「うーん、でもさァ…… まぁ、確かに魔晄エネルギーを使った、以前みたいなあくどい商売はしていないだろうけど、徐々に企業としての力を取り戻しつつあるみたいだよ? 新聞読んでる? ……流通に観光……ホテル経営なんかにも手を出してるようだし」
「ふーん、そうなの? 別に、興味ないし」
どうでもよさそうに生返事をしている俺を、やや不満げに見遣るが、尚も言葉を続ける。
「だからさ……俺が言いたいのは、それなり規模の企業体を切り盛りするには、どうしてもキナ臭い仕事を受け持つ連中が必要ってことだよ。だから、諜報部員としての彼らも、まだまだ現役なんじゃないのかなァってコト」
「さてね。そうかもな。レノのヤツがフツーに事務職ってことはないだろうし。ぶっちゃけ、できないだろうし」
シツレーなことを言ってやった。
「だからさァ、あの赤ちゃんって、何か事件がらみなんじゃないの? ひょっとして……誘拐……とかってことない?」
「ええッ!?」
俺の大声で、ヴィンセントが驚いて顔を上げた。
「ど、どうしたのだ、ふたりとも……」
「あ、ご、ごめん。……な、なんでもないんだよ。ヤズーが変なこというから……」
「変なってコトはないでしょ。充分リアリティのある話だと思うよ?」
不満げに鼻を鳴らせてヤズーが言った。
「な、なんだろうか? どういったこと……」
「びぃえぇぇん!ふえぇぇぇんッ!」
ヴィンセントが言いかけた途中で、いきなりチビが泣き出す。
見れば仏頂面のセフィロスが、赤ん坊の背中をつまみ上げているのだ。
「ちょっと、なにしてるのよ、セフィロス」
「セ、セフィロス、やめたまえ! あ、赤ん坊が……」
「ソファはオレ様の定位置だ。どけ、チビ」
プラプラと宙づり状態になった赤ん坊に、しかめつらしく叱責するセフィロス……なんつーか、ここまで大人げない野郎だったのか……?
俺と一緒に居た頃は、本当に大きくて強くて(ここまではその通りだが)、なんでもわかっているような、ものすごい『おとな〜!』というようなイメージだったのに……
「びィィィィッ ぎゃあぁぁぁんッ!」
火のついたように泣き喚く赤ん坊。それがまた騒々しくて不愉快なのだろう。思い切り眉を顰め、今にも投げ捨てるような素振りをする。
「あああッ、す、すまない、わ、私が、つ、つい、そこに……」
「ガキの分際で図々しい」
「あ、あのッ! そ、その子が悪いわけではないんだ……! や、やめてくれ、セフィロス……!」
慌てて飛び出すヴィンセント。
抱きつくようにして、赤子を引き取り、一生懸命に宥める。
「よしよし、すまなかったな……私がうかつなことをしたばかりに……よしよし、落ち着いてくれ……」
「ケッ……ごたいそうなこった! 寝ても覚めてもガキのことばかりではないか、ヴィンセント!」
「そ、それは……仕方がないではないか……この子はまだ赤ん坊なんだから…… よしよし……大丈夫だ、セフィロスはとてもやさしい人だから……安心しなさい、よしよし……」
この場にいる誰もが信用できない文句を、真剣に綴るヴィンセント。
なんというか……まったくもって、純粋で純真で……
ヤキモチ半分、愛しさ半分で、俺はヴィンセントの綺麗な横顔をウットリと眺めたのであった……