〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<99>
  
 夢の中のジェネシス
 

 

 

 

 

「もう、大分長く付き合ってあげたよね。そろそろ終いにしよう」

 俺は女の鉄環を、黒剣ではじき飛ばした。

 紅い髪をもつ、毒々しい女豹…… そんな印象のロッソというこの女。

 久々に手応えのある相手ではあった。正直、最初はスピードとパワーに瞠目せざるを得なかった。

 だが、戦闘パターンさえ見極めてしまえば、スピードについてはいけなくても、リアクションで、次の攻撃の予測が立てられる。 

 彼の女の武器は鉄の環だ。それを自在に操る。

 だが、環を投げ、それが手元に戻ってくるとき、わずかな隙がある。

 ヨーヨーのように、行き着くところまで転がってゆき、それが引き戻されるとき、一定の時間だけ一カ所に止まってから、後転するのだ。

 

「生意気な……! そのすました顔をグシャグシャにつぶしてやろう」

 サドッ気たっぷりな女のセリフ。

 だが、俺もどちらかというとSのほうだ。やられるよりもやるほうがいい。

「死ね、ソルジャー!」

 女の腕が、激しく後方にしなる。

 間髪入れずに繰り出される、巨大な鉄環。

 初撃は受け止めず、跳躍して回避する。さきほどまで立っていた場所に見事な爪痕を残し、環が戻りかけたその瞬間。

 両手の空いた女の背後を取る。

 

「……これで、ジ・エンドだ」

 女が戻ってくる鉄環を受け止め、さらに振り返るという二度の動作の間を縫って、剣を振るった。

 鈍い光を放つ、俺の黒剣。

 セフィロスの身の丈ほどの長刀も美しいが、俺はオニキスのような輝きをもつ、この剣を気に入っている。

 普通の剣よりやや軽めだが、柄の部分の装飾は美しい。

 装飾のある剣は、あまり実用性を期待できないものだが、これは違う。

 やわらかな人の肉を裂き、骨を断つのに適した両刃剣だ。

 

「ガッ……」

 女の左肩を斜めに切り裂く、続いて右の腕の腱を断つ。

 留めに心臓を狙うが、彼女はすんでの所でそれを躱した。

「グッ…… お、おのれェ〜……」

 紅く縁取られた口唇から、さらに朱い血が滴り落ちた。

「言っただろう。ジ・エンドだと。もし君が望むのなら、このまま心臓を貫いてあげよう」

 ガシャッ! グワシャッ!

 ふたつの鉄の環が、そのまま壁にぶつかり、地下へ転げ落ちた。

 腱を断った女の腕では、重量のあるそれらを受け止めることは出来ない。彼女はもはや戦士としては使い物にならなくなった。

「……クッ……フフフフ…… そんなにも、そこの陰気な男が大切か?」

 ごぼっと血の泡を口角からこぼれ落とし、ロッソがつぶやいた。

「……なに?」

「女神女神と……崇め立てるのがどれほど輩かと思えば、出来損ないの貴様に守られる程度のクズ…… 何の役にも立たぬ…… がっ!!」

 ぶらりと垂れ下がっているだけの女の右腕を、黒い剣で貫いた。

 背後の壁に縫いつけてやると、燃えるような双眸が俺を睨み付けてきた。

「おのれ……」

「……女は殺さないとでも思っているのか? 君の汚れた口唇から、ヴィンセントの名を聞くだけでも不愉快だ」

「……クッ……クックックッ……  で?何とかこの場を切り抜けて、あの男と生きていこうと? クッ……クックックッ」

「……何が可笑しい。実際、ツヴィエートとやらの三人までが、俺たちに敗北している。後はあの黒髪の男と白い男を斃せば終わりだ」

「フ……フフフ、出来損ないの貴様がヴァイスに敵うはずはあるまい。いや……もし、万一、体よくこの場を逃げおおせたとしても、貴様に未来はない」

 女の唇が意地悪げに弧を描く。致命傷を受けているにもかかわらず、こうしてしゃべり続けることができるのは、DGソルジャーという特殊な人間だからなのだろう。

「ホランダーがいなくなった今となっては、もはやどうすることもできまい」

 女はさも可笑しそうに唇を歪めると、今度は声高に笑った。

 ……ヴィンセントが先ほどからこちらを見ている。戦闘が終わったことに気づいたのだろうが、その後もずっと心配そうな面持ちで……

「……ホランダーが? あの科学者に何か関係があるのか? むしろ彼を失って困惑するのは、君らツヴィエートとやらではないのか?」

「……ふん、バカにするな。我らはすでに完成されたDGソルジャー。貴様とはわけが違う」

 ……まただ。

 また、この言い回し。

 この俺がいったい何だというのだ? ホランダーが死ぬことと、この俺に何の関わりが……?

 口の中にこみ上げてきた苦々しいものを嚥下する。

 そう……最初から、奇妙な違和感があった。ツヴィエートと名乗るこの連中とは完全に初対面だ。そんなものの存在など、ヴィンセントを含めた俺たちは、誰一人として知らなかったのだから。

 だが……だったら、何なのだ、この既視感?

 この女とも、ネロと名乗る青年にも、そしてあそこに居る純白の巨躯の男にも、俺は一切見覚えはない。

 それなのに、ある種、なつかしいとさえ感じる、不可思議な感覚があるのだ。

 

「出来損ないの試作品…… 貴様が今の造形を維持し続けられるのも、もはや数年…… いや、数ヶ月か……!?」

 女の口から、音程のずれた嘲笑が響いた。

 ゴボゴボと紅い血が、筋を作って顎から滴り落ちる。だが、彼女はしゃべるのをやめようとはしなかった。

「我らの肉体は、容易には死なぬ。……時を経て、より強靱に再生されるのだ」

「…………」

「だがな、失敗作よ…… 貴様の細胞は、ただ時を経て劣化するのみだ。その美しい顔も、肉体も、無彩色に朽ち……」

「黙れ……ッ!」

 激しく怒鳴りつける。だが、女は俺の声音に動揺を見つけ出したのだろう。

 

 この者たちと出逢ってから、ずっと奇妙な既視感に捕らわれている。

 俺は、この連中を『識っているのだ』。

 その経緯はわからない。だが…… 間違いなく、俺は……