〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<100>
  
 夢の中のジェネシス
 

 

 

 

 

「……貴様は我らを作り出すための試作品よ」

 女の呪詛の言葉は続く。

「哀れと言えばそうだな。……だが、貴様のおかげで、ネロ……ヴァイスはより完全な肉体を有している。すべては貴様の存在が基礎だ」

「…………」

「ふ……ホランダーに恨み言をいうこともできなくなったな。ゴ……ゴボッゴボッ!」

 傷が肺に達しているのだろう。

 ロッソというツヴィエートは、激しく咳き込み、そのまま喀血した。

 しかし、彼女の心臓は止まらない。DGソルジャー……その中でも屈強なツヴィエートは、なるほど容易に死ぬことはかなわぬらしかった。

 

 そして、俺は……

 俺の肉体は、彼らを生み出すための試作であったのだ。

 ロッソの言葉をそのまま信用しようというのではない。俺の心が感じ取っている。

 彼らに対する既視感…… 刃を交えればより感じる。

 俺の細胞は、彼らの同胞なのだと。

 

「ジェ……ジェネシス……! ジェネシス!」

 間近でヴィンセントに声を掛けられ、俺はハッと正気づいた。ヴァイスとネロの相手を、セフィロスがひとりで請け負っているというのに……何をこんなときに……

「ジェネシス……!? 大丈夫か?」

 彼は、セフィロスらの戦闘で、こちらに降りかかってくる残滓を、銃で撃ち払ってくれていたのだ。

「あ、ああ…… すまない、女神。少し手間取ってしまったよ」

「……真っ青だ。どこか怪我でも?」

 彼のほうこそ、真っ青な面持ちなのに。

 ロッソとの会話を聞いていたわけではなかろうが、彼は他人の気持ちの動きに恐ろしいほど敏感なのだ。

 俺は極力冷静を保っているつもりであったが、さすがに顔色までは自由にはならなかった。

「ジェネシス……?」

「え……ああ、いや、大丈夫。さて、セフィロスの加勢をしなければね。ツォンには荷が重いだろうから」

 女神の顔を見ずに、すぐさま場を移動する。

 戦闘を楽しむセフィロスは、嬉々としてネロとヴァイスを相手にしている。

 いや……主にネロか。ヴァイスはまだ完全に覚醒していない様子だ。

 それゆえ、味方であるホランダーやハイデッカーをも、あっさりと手に掛けてしまったのだろう。

 それとも、最初から彼らに『支配者』は必要ないという考えなのか……

 

 

 

 

 

 

「チッ……! おい、テメェ、本気で来ねェか! いつまで逃げ回っているつもりだ」

 荒々しいセフィロスの怒鳴り声。

 ネロを相手に怒りを爆発させているのだ。

「いいえ、そんなつもりはありませんよ。ですがようやく兄さんが目覚めてくれたのです。少しでも時をかせいで彼を本調子にしてやりたい。……弟としては当然の配慮でしょう」

 こまっしゃくれた風に、両手を広げて見せて、ヤレヤレと頭を振る。

「悪いがな。テメェもそこのデカブツもすぐにあの世に送ってやる。……バカ科学者とヒゲゴジラに利用されたことにゃ同情するが、貴様らを外に出したら、とんでもないことになりそうだ」

 セフィロスが言った。

 ホランダーは死に、ハイデッカーは倒れている。

 もはや、我々に闘う理由などないが、ツヴィエートらは矛を収めはしなかったのだ。

 彼らは我々を葬り、この暗いディープグラウンドから脱出するつもりなのだ。

 常人とは比較にならない力をもつDGソルジャーが外に出たならば、ミッドガルのみならず、時を待たずに世界は彼らの支配するところとなろう。

 もちろん、神羅カンパニーは二重の意味で破滅だ。

 人体実験によりDGソルジャーという人ならざる者を生み出したこと。

 そしてそのDGソルジャーによって、カンパニーそれ自体を奪われて、だ。

 

「うらァァァ!」

 セフィロスの長刀が、ヴァイスを狙う。

 だが、それはネロの手によって阻止された。

 数々の身体能力を有するネロは、銃以外にも漆黒の翼を使って飛び道具を放てるらしい。

「チッ……!」

 セフィロスの心臓を狙って、銀に輝く鋭利な刃が羽から飛び出した。

 彼はヴァイスに肉薄した位置から後方に跳び、それらをよける。なかなか思うように、ヴァイスとの接近戦に持ち込めないようだ。

「おい、ジェネシス! さっさと手伝え! オレさまはあのデカブツを殺る! テメーはそこの黒いのを抑えてろ!」

「あ、セ、セフィロス! わ、私が……!」

 向こう見ずな女神を慌てて引き留め、気を取り直して言い聞かせる。

「待ってくれ、女神、危険だ!」

 

 ……確かに……

 確かに、俺は…… いや、俺自身がDGソルジャーの何らかを引き継いでいるのだろう。

 あの女が失敗作というように、この強靱な肉体には致命的な欠陥があるらしい。

 数年も保たずに朽ち果てる…… その言葉が真実なのか否か、もはや確認する方法もなくなってしまった。

 ホランダーは死んだのだから。

 だが、俺の身体が朽ちようと、死がすぐ側に迫っていようと、ヴィンセントを守るという行為になんら変わりがあるはずはないのだ。

 

「女神、下がっていてくれ。君に万一のことがあったとしたら、この戦いは意味のないものになる」

「ジェ、ジェネシス…… だ、だが……」

「……心配しないで。なんでもないんだ。ツヴィエートの女と話しなどしたせいかな。少し混乱しただけだ」

「こ、混乱?……でも、ジェネシス……」

「いいんだ。大丈夫だよ。……俺が君を守るということに、何の変わりもないのだから」

 噛んで含めるように、女神にそう告げた。

 だが、その言葉は自身に言い聞かせているような気もした。

 

 この身体が数年も保たない……?

 朽ち果てて無に帰す……?

 ……ああ、天に御座す神という存在は、ひどく意地が悪いようだ。

 女神と結ばれた、『今、このとき』

 ……こんなにも非道い仕打ちを与えるのか?

 俺は決して敬虔な信徒ではないが、貴方を軽んじたこともない。

 それとも、貴方も、この心清らかな青年を愛でているのだろうか?

 この薄汚れた手で触れるのは許せないと……?

 

「ジェネシス! 早くしろ、ボケナス!」

 セフィロスの怒鳴り声に、軽く頭を振る。

 苦笑を漏らす俺を、女神が心配そうに見上げる。

 

「……心配掛けてすまなかったね。必ずここから出してあげるから。ふたたび、暖かな陽光のもとに返してあげるから」

 やや大げさな言い方をしたが、女神はそれを指摘することもなく、淡く微笑んだ。

「ああ、もちろん。……ふたりで一緒に、だ。ジェネシス」

「そう……だね。約束したのだから」

「そう、約束だ」

 疑いなく頷く女神に、なんとか笑みを返すと、俺は剣を手にとった。

 ヴィンセントをその場に置き、セフィロスのとなりに跳躍したのだった。