〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<89>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「……ああ、セフィロス、セフィロスか……ふふ。そうだ、どうせ、宝条のS計画など夢物語よ……」

 キッヒッヒッと、金物をすりあわせたような『音』で、ホランダーが嗤った。

「宝条の……? 何の話だ、このヤロウ!」

「…………」

 S計画……?

 なんのことだ……? まさか……セフィロスの……? ジェノバプロジェクトのことを言っているのだろうか?

 私の不安をよそに、ホランダーという科学者は、ブツブツと聞き取りにくい口調で、さらに言葉を重ねていった。

「ヒッヒッヒッヒッ! それに比べて、どうだ? 見てみろ…… 私のすばらしいG計画の成果を……!」

「G計画……?」

 聞き返す私をまじまじと眺め、ようやくこの場にセフィロスとジェネシス以外の人物が……つまり、私やツォンが居るのだと気づいた様子だった。

 やはり、このホランダーという科学者…… 尋常の状態ではなさそうだ。

「そう……そうさ、ふふ、G計画だ。S計画などよりも、遥かに汎用性の高い実験だ」

「…………」

「宝条など、ただのきちがいジジイだ。アヤツはどこぞの実験施設で、未だ人体実験を繰り返しているだろうよ……」

 カッと身体が熱くなり、胃の辺りが締め付けられる。

 強烈な吐き気を覚えて、私は口元を押さえた。冷や汗がこめかみを伝い、身震いがした。

 ……セフィロスは……

 ……セフィロスは、この時点において、今の話が何を意味するのかはわからないだろう。

 宝条がジェノバ細胞を入手し、セフィロス・コピーを作成しようとしていることなど……

「私のG計画はほぼ完成された……!」

 狂気に取り憑かれた双眸を、ギラギラと輝かせ、ホランダーは両手を大きく広げた。

 

「おまえは私が期待したとおりの優秀なソルジャーになった。だが『Genesis』は耐久年数が短すぎる」

 狂気に囚われた科学者は、ひどく血走った眼差しで、我々のうちひとりの人物を凝視した。

 ……その相手はジェネシスであった。

 G計画…… 『Genesis』……ジェネシス……?

 私はジェネシスの過去についての詳細は知らない。

 ネロらとの関わりの中で、ディープグラウンドソルジャーの存在と、彼との間に、なんらかの接点があるのだろうということは気づいていた。

 ジェネシスは、ネロのことを命の恩人だと言っていたから。

「ふふ、そうだな、『Genesis』よ。おまえの劣化はまだ表面に出てきていないようだな」

「……なに……? なんのことだ……?」

 不審げな眼差しで問いかえすジェネシス。

「そうかそうか。……だが、もうじきにだ。おまえは失敗作…… 私の成功作品は、この者たちだ」

 ホランダーは、そういいながら両手を大きく広げた。

 

 

 

 

 

 

 ……成功作……?

 そして、ジェネシスが失敗作……だと?

 

 背中に冷たい汗が伝わってゆく。

 なんだ……この既視感……? 吐き気を催すような嫌な気分は……

 

 ああ、そう……そうだ。

 クラウドが……クラウドがおのれをセフィロスコピーだと言っていた。一緒に旅をしていた頃の話だ。

 S計画……

 ジェノバの細胞をソルジャーに植え付け、第二のセフィロスを作ろうとしたあのおぞましい人体実験。

 

 G計画……

 『Genesis』のG……

 まさか、ジェネシスが…… ジェネシス本人がDGソルジャーの実験体……!?

 

「ホランダー…… 言葉の意味が理解できないのだけどね。俺が失敗作……? どういうことだ? おまえの周囲に居る輩は何者なんだ?」

 一見、常と変わらぬ、冷静な声音…… 震えたりうわずったり、ましてや激してもいない。

 だが、私にはわかる。

 ジェネシスはわずかに動揺している。あからさまに周囲に気取られないよう、精神状態のコントロールをしているのだ。

 

「フフフ…… 彼が『Genesis』ですか? とうてい僕の兄さんには及びませんね」

 漆黒の装束を纏った青年が、口角を持ち上げて嘲笑した。

 『漆黒のネロ』だ。

 私は彼の名を知っている。……この夢よりも、未来の世界において。

「……君は?」

 穏やかに、ジェネシスが問い返した。

「僕はネロ。……漆黒のネロと覚えておいてもらいましょうか。できれば貴方のことも、『兄さん』と呼んでみたかったのですが、どうやらそれはかなわないようですね。……失敗作とは残念です」

「……さきほどから気になっているのだがね。その失敬な物言い…… 『失敗作』とは何の話なんだ? それに俺は君のような弟をもった覚えはないのだが。そもそも……」

「ジェネシス……!」

 私はさらに追求しようとするジェネシスの腕を引っ張った。

 これ以上、ネロの話を聞いていたら、取り返しの付かないことになりそうだったから。

「……女神……?」

「もう……そんな話は…… 嫌な気分になる。よしたまえ」

 まったく論理的とは言い難いが、私は感情のままに説得した。