〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<87>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 ジェネシスの判断で、私たちは階段を使って上層階に移動することにした。

 エレベーターでは万一のとき、戦闘するスペースが確保できず、子供たちに被害が及ぶ可能性が強い。

 魔晄炉の出入り口は、フロアでいうと、ちょうど二階に当たる部分が地上に面している。

 故にここ、地下一階から、地下中一階、そして一階、中一階……ようやく二階と、移動する部分はかなり多い。だが、我々は迷わずそのルートを選んだのだ。

 魔晄炉内の階段は、同じ位置で最下層から上階まで繋がっているわけではない。

 フロアごとに階段の設置してある場所は異なるから、一時的に開けたスペースを走り抜けることになる。

 それを数度くり返さねばならないので、死角からの狙撃に注意しなければならない。

 

 ガゥン!ガゥン!

 

 一階への通路を抜けるとき、案の定、人の気配を感じた。

 放った二発の弾で、桟の後ろから、ふたりの男がドォッと落ちてくる。

 

「ヘェ、ヴィンセント、やるじゃねェか! 後ろ見なくても、ちゃんと当たるのか!」

 後ろから付いてくるセフィロスが、ひゅうと口笛を吹いた。

「あ、ああ…… 気配で…… 一応……私も銃だけは……」

「すげーな。気配を読むってヤツか? オレァ、何も感じなかったぜ」

「そ、そうか…… でも……運良く当たったんだと思う……」

 どうにも誉められ慣れていない私は、上手い受け答えができずそんなふうに返事をした。

「いいえ、ヴィンセントの銃の腕前は神技と呼ばれております。私もいささか銃の腕には自信があったのですが、貴方の前では児戯に等しい」

「え……あの……そんな……」

「そうだな。ヴィンセントに比べりゃ、月とすっぽん。まさしく足下にも及ばないとはこのこった!」

「セ、セフィロス……!」

 不躾な物言いをするセフィロスを宥めるが、彼は遠慮無くげらげらと高笑いをしている。

 そんなセフィロスを、じろりと睨み付けるツォン。

 まったく……こんなときなのに。だが、いつもと同じ調子の彼らの有り様は心強くも感じるのだ。

 

 

 

 

 

 

「さぁ、もう一息だ…… ハァハァ…… 頑張ろう……! ハァッハァッ!」

 後、もう半分の道のりで外に出られる。出入り口の着いている二階への通路だけは、円形をしていて、倍ほどの長さはあるが、このまま走り抜けるだけだ。

「おいおい、ヴィンセント、この程度で息切れかよ。ったく、これだから部門長サマサマは……」

 今度は打って変わって、呆れたようなセフィロスの物言い。

 まったくもってそのとおりで、返答のしようもない。必死に走ってはいるが、ジェネシスやザックス、そして子供たちのペースに合わせるのがやっとなのだ。

「す、すまない……だ、だいじょう……」

「君のような体力バカと一緒にするな! だいたい、ヴィンセントは今日一日動き回りっぱなしだったんだ!」

「俺だって一日中働いたぜ?!」

「夜は完全に熟睡していたくせに! 彼を、君と一緒にするなと言っているのだ! ヴィンセント、大丈夫ですか? よければ、私の背に……」

「バカじゃねーの? オメーだって全力で走ってこのペースだろ? おい、ヴィンセント、背中に乗れ。外まで運んでやる」

 ツォンとセフィロスが交互にそう言う。……何か誤解があるようだ。確かに息切れはするが、負ぶってもらわなければならないほどではない。

「い、いや、ふたりとも、わ、わたしは……ハァハァ……」

「女神、君を背負う名誉は、専属ナイトのものだろう? 無神経な黒服や、無骨な銀色オオカミには任せておけないよ」

 何故か先頭から引き返してくるジェネシス。ザックスがきちんと子供たちを引き連れてくれているからよいものの…… まったく今時の青年の思考というのは理解しがたい。

 ジェネシスだけでなく、セフィロスもツォンもだ。

「まったく! ハァハァ、き、君たちは何を言っているのだ! ちゃんと前を見て走りなさいッ! 魔晄炉を脱出するまで、油断してはいけないといっただろう!? ハァハァッ!」

「ほらみろ。テメェらのせいで叱られたろ」

「最初に失敬な発言をしたのは、君だ、セフィロス」

「それをいうなら、君らふたりが、この俺を差し置いて、女神を背負おうなどという分不相応な思考を……」

「君たちッ! ハァハァッ!」

 あと少し、あと……もう……少し……

 

 二階への階段を上がり、エントランス部に出る。

 魔晄炉において、もっとも広いスペースだ。

 ここから上にフロアはないゆえ、天井はドーム場である。ようやく頭の上が開け、私の頬には自覚なく笑みが浮かんでいたと思う。

 最後の通路をまっすぐに走り、出口を目指す。

 

 ……その瞬間……

 背後からの殺気で、私は横飛びに身体を伏せた。

 

 目の前に立っていたのは、予想外の……だが、よくよく考えれば納得のゆく人物であったのだ……