〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 テロリストへの対応を、ふたりのソルジャーとタークスの首座に任せ、私は子供たちの場所へとって返した。

 ザックスが必死に拘束具を外してやっている。

 修習生の両手を拘束しているのは、一見、普通の縄に見えるが、そうではなかった。

 神羅カンパニーが特許をとっている、特殊強化ロープ。重量や手触りは従来のものと大差ないのに、強度はその数倍である。刃物で切除することは可能だが、簡単に切れるものではなかった。

 皆、順に手枷を外してもらっているが、今、少し時間がかかりそうだ。

「クラウド……! 修習生の皆…… よく頑張ったな。すぐに安全な場所へ戻れるからな……」 

 紅く目を腫らせたクラウドの頭を抱き寄せ、他の四人も同じように額を撫でたり、頬をさすってやったりした。

 他人に触れられることで、ようやく実感がわいてきたのだろう。

 クラウドも含め、五人の修習生は瞳を潤ませ、中にはしゃくりあげ出す子もいた。

 その中で、先に枷を外された少年が、自力で立ち上がり、気を付けをした。クラウドよりもずっと大柄の少年だ。

「修習生、第五班、班長イングスです。……御迷惑かけて申し訳ありません! 班員五名全員揃っております……!」

 ああ、この子…… 少しジェネシスに似ている。整った容姿がということもあるが、こういった場所で、今のような発言ができるところが、だ。

 修習生は皆十代の子供たちである。一年生の彼らは最年長だとしても十六才だ。こんな恐ろしい目に遭って、ようやく助けが来たなら、大人に飛びついて泣き出したいはずだ。

 それなのに、上官に当たる私への謝罪を口にしている。

 損な性分の子なのだろう。

「……イングス。……さぞ怖かったことだろう。それなのに君は班長として、班員たちを守り、これまで耐えてきたのだな。よく頑張った……偉いぞ。君は立派な軍人だ」

 私は自分の肩ほどの背の高さのある、だが年はずっと下の……それこそ、『孫』くらいの年齢の子供を抱き寄せた。汚れた頬を指先で拭ってやり、髪を撫でる。

 イングスと名乗った少年は少し驚いたようで、ビクリと身を震わせたが、逆らうことなくそのまま大人しく立ちつくしていた。

 彼が顔を埋めている、私の肩口が熱くなってゆく。こういう性質の子は、こんな方法でなければ泣くことさえできない。

「さて、ゆっくりと再会を喜ぶのは、ここを無事に離れてからだ」

 顔を上げてくれた彼に微笑みかけ、私はザックスの作業を手伝った。

 先に外し終えた子には、手や足の感覚を元に戻すよう、患部を摩擦しておくよう言いつける。特に手首のロープは、肌に食い込み、可哀想なことに、紫色の痕をつけてしまっていた。

 サバイバルナイフでロープを引き裂き、負傷している子に応急手当を施す。幸い歩けないほどの重傷者は居らず、我々は迅速にその作業を進めた。

 

 

 

 

 

 

「女神ッ! 退路を確保したッ! 子供たちを誘導してくれ」

 ようやく最後のひとりのロープを断ち切ったとき、背後からジェネシスの声が飛んできた。

「おい、ヴィンセント、こっちは、片ァついたぜ!」

 セフィロスのたのもしい声は前方からだ。

 さすが、ソルジャークラス1stの双璧だ。英雄の名に恥じない働きである。

 ツォンも、苦戦はしたようだが負傷することなく、多くのテロリストを処理してくれた。魔晄炉内ということで、自由に拳銃を使えないにも関わらずだ。

「皆……怪我はないな? あぁ……よかった……!」

「さ、ヴィンセント。喜ぶのはここを脱出してからです。大分倒しましたが、未だ残党が居るやもしれません」

 ツォンがよろけそうになった私の腕をとった。

「あ、あぁ、大丈夫……ありがとう。そうだな……早く……」

「ザックス、打ち合わせ通り修習生を連れ出してくれ。我々は周囲をガードしつつ、後から移動する」

 テキパキとツォンが指示を出した。敵を殲滅するのは修習生の身の安全を図ってからだ。

「よし、おまえら、走れるか?」

「ザックス、アルクゥが、足、怪我してんの。紅く腫れちゃってて痛そうなんだよ」

 すかさずクラウドがそう言った。彼は既に泣き止んでいて、負傷した仲間を気遣う余裕ができていた。

「ク、クラウド、大丈夫だよ、僕、走れるから……」

「無理すんな。よし、俺の背中に乗れ!」

 ザックスが力強くそう言った。

「で、でも、ザックスさん。ぼ、僕……こんなときに……あ、足手まといに……」

「おいおい、ソルジャー2ndの出世頭と言われるザックス兄さんをナメちゃいかんよ! おまえひとりくらい全然問題ないさ。ほら、早く乗れ! 後はここから脱出するだけだからな!」

 こんなやり取りに思わず笑みがこぼれる。

「そう、ザックスはとても強いからな。安心して背中につかまっていなさい」

 私がそう加勢すると、クラウドよりもさらに小柄の、そばかすの少年は、素直にザックスの背中に身を任せた。

「では、行こう、ザックス。背後は私が援護する」

 ジェネシスの先導で、ザックスが子供たちを連れてそれに続く。

 そのすぐ後ろに私……そして、セフィロスとツォンがしんがりを守ってくれた。