〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<85>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

「女神、怪我はないね!? 大丈夫かい?」

「あ、ああ……も、もちろん。ありがとう、ジェネシス」

「当然のことだよ。俺はそのためにここに来たんだからね。……例の神羅社員の話だと、テロリストの人数はこんなものではないはずだ。いずれこいつらを殲滅するにしても、子供たちを完全に安全な場所に移してからだ」

「そのとおりだ、ジェネシス」

 そう言っている間にも、エレベーターの扉が開いて、わらわらと兵隊がこちらに向かってくる。

 銃を放ち、致命傷にならないように、だが確実に彼らの戦闘能力を奪う。

 もちろん、ジェネシスも手伝ってくれるわけだが、彼はいささか呆れたようにつぶやいた。

「女神……こんなときなのに、まだ敵を殺さないというのかい……?」

「……戦闘能力を奪えばそれでいい。私たちに二度と向かってくることが無くなれば……なにも人殺しをする必要はないんだ」

 昔の私ならば……そう、クラウドらと知り合う前の、ずっと以前、タークスに属していたころの私本人ならば、きっと敵を射殺していただろう。特に自らの身も危ない、こんなときならば。

 だが、彼らと共に在るようになり、銃を手に取るのが日常では無くなった今、私はできることなら、人間を手に掛けたくはなかった。

 私が引き金を引き、人を殺めるのは、私自身のためではなく、私の愛する家族、友人の命が危機に直面したときだけだ。

 ……そう決心している。

「やれやれ……君らしいね。なるべくご希望に添うようにするが、彼らが君を襲ったならば、俺は容赦できないから。それは了承してくれよ」

「ジェネシス……」

 彼は私を背後に庇う形でテロリストをなぎ倒していく。

 私が望んだように、致命傷を与えず、武器をはじき飛ばし、彼らを通路から下に叩き落とすことで、私たちの退路をも守っている。

「ジェネシス、大丈夫だ。私も……戦える」

「戦闘はソルジャークラス1stにお任せを。君は子供たちのところへ」

 オニキスのような黒剣を振りながら、彼は私にそう告げた。

「ジェ、ジェネシス……! だが……!」

「いくら訓練を積んでいるとはいえ、この程度の連中に遅れは取らないさ」

 フフフといつものような余裕綽々の笑い声。きっと私のほうを振り返る暇があったなら、お得意のウインクをひとつ寄越しただろう。

「ヴィンセント、行ってくれ。セフィロスとツォンも手一杯だろう。ザックスを手伝ってやって。あいつはまだ十代の2ndだ。必死に頑張っているが、かなりテンパッてるはずだよ」

 ふたたび、通路の向こう側から、ドドドドと、ライフルやらサバイバルナイフをかまえた連中が向かってくる。我々の居るこの位置は最前線になるのだ。

 ジェネシスの言葉に、一度は踵を返そうとしたが、私は迷った。彼がセフィロスと同様、英雄と呼ばれる青年であることはよくわかっている。

 だが……理屈ではないのだ。この大人数を相手に、たったひとりで……

「女神、大丈夫だから。……俺は君の最愛のナイトだよ」

「ジェネシス……」

 

 

 

 

 

 

 ……気のせいではない。

 ああ、やはり気のせいではなかったのだ。

 この世界の私は、君を愛し始めている。

 ジェネシスに最愛と言ってもらえることがひどく嬉しい。

 面食らうような彼の行動ひとつひとつが、すべて私への想いに溢れ…… 私を甘やかせ、私に自信をくれる。

 君が私を愛してくれることで、私も私自身を同じように認め、愛することができるようになった。

『君に触れられるのは嫌ではない』

 寝室から追い出してくれと言っていたジェネシスに、私が告げた言葉だ。

 あのときは本心だと思っていた。だが……今は…… 今は『そうではない』。

 

 触れられるのが嫌ではなかったのだ。

 私は、ジェネシスに『触れて欲しかった』のだ。

 私の身体も、心も、同じように愛して欲しかった。彼に触れられ、言葉でない方法で想いを刻み込まれ、私の身体も心もそれを悦んだ。

 

 ……ああ、ジェネシス。

 この世界にいる私は、本当に君を好きになってしまったようだ。

 かりそめの夢の世界であったとしても、今、ここにいる私は、君のことをこんなにも強く想っている。

 

 ……一緒に帰ろう、共に過ごした私の部屋へ。

 そしてもう一度……そう、今度は私のほうから君に告げよう。

 『愛している、大好きだ』と。

 君のように薔薇の花束を抱えて告白をするのは、少し恥ずかしいが。この想いを伝えるためならば、そういった演出も悪くない。

 なにしろ君は、これまでまともな反応すらも返せなかった私を相手に、何度も何度も想いを打ち明け続けてくれたのだから……