〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 取引の場所に、私は一歩一歩近づいていった。

 地下一階のドーム。

 部屋の中心には球形の魔晄炉のコアがあり、その周辺はちょうど卵を割ったときに白身が広がるようなプレートが繋がっている。さらにその足場から、長い長い通路がエレベーターのある出入り口に向かって続いているのだ。

 今、私はまさしくその通路……『橋』をコアの方向に向かって歩いている。

 

 この『橋』の周囲は完全なる空間で、例えるならば丸い球に、長い橋が架かっているような情景だ。もちろん、通路が棒一本のように浮いているわけではなく、きちんと最下層まで繋がっており、階段で上がり降りすることができる。

 この階段はメンテナンス用のものなのだろう。スーツを着た人物が、普通に使うものではなく、あくまでも簡素なつくりであった。

  

 ドーム前に脅迫者らが集っていた。

 もちろん、自由を奪われた修習生五名も一緒に。

 彼らの周囲には、ライフルをもった屈強な男が四方に陣取っている。

 残りの十余名は、目玉焼きの白身……つまりプレート部分に散開して、あたりを警戒していた。

 

 

 

 

 

 

「諸君。……故あって、設計図は軍事部門主席の私……ヴィンセント・ヴァレンタインが持参した。あらためていただこう」

「ヴィ……ヴィンセントさん……」

 後ろ手に縛られているクラウドが、掠れた声で、私の名をつぶやいた。

 可哀想に、頬が紅く腫れ上がっている。おそらく先ほどの一件で、テロリストの誰かに殴りつけられたのだろう。

 私は安心させるように、彼に向かって軽く頷いてみせた。

「……社長、もしくは副社長が、直接持参するよう、申し渡してあったのだが」

「承知している。だが彼らは神羅カンパニーの経営者だ。万一のことが考えられる現場に足を運ばせるわけにはいかない」

「…………」

 前に歩み出た男。

 ……おそらく、この人物が、交渉役というのだろう。

 驍ニした筋肉に覆われた壮年の男は、仏頂面でこちらを凝視した。

「……社長、副社長の件はともかく、貴方がたが要求したスターレイジの原図を持参した。……神羅にとって、修習生五名の命は、何よりも重い。当方の誠意を理解して欲しい」

「フン、こんなひ弱そうな男ひとりを寄越すとはな。プレジデント神羅め ……どこまでも腐った野郎だ」

 男は私を一瞥すると、さもくだらなさげに鼻で嗤った。

「私は神羅幹部として、当然の仕事をしているだけだ。……さぁ、この設計図を渡す。修習生をこの場から解放してくれたまえ」

 冷や汗が背を伝う。

 もちろん、スターレイジの図面は偽物だ。ちょっと見ただけではわかるまいが、専門家が眺めればすぐに看破されてしまうだろう。

 我々に、本物の設計図を手に入れる機会がなかったわけではない。特にツォンならば、容易に入手してくれたことだろう。

 だが、それを渡すわけにはいかない。

 彼らがどういった組織なのかはわからぬが、万が一にでも最悪の兵器を作り出すだけの技術力があったならば、その攻撃をこのミッドガルが受けることになるのだから。

 武器を製造し、軍事力を行使している神羅本社だけが被害を受けるのならば、まだ納得は行く。自業自得というものなのだから。

 だが、ここミッドガルの周辺には、神羅だけでなく、一般の人々の生活圏もあるのだ。

 無関係の彼らが巻き込まれる可能性を考えると、本物の最新兵器の図面を渡すわけにはいかなかった。

「……軍事部門主席さんよ。アンタら、もうひとつの約束を忘れてはいないだろうね。魔晄炉からの送電を止めること、だ」

「…………」

「十番魔晄炉は神羅本社のエネルギーをすべてまかなっているからな。そいつを止めてくれる約束だ」

「……それも了解している。本社を瞠っている部下がいるのだろう? 確認してみてはどうだ。この場所は地下だから、君が直接本社を確認することはできまい」

 私は穏やかにそう応じた。

 この男が連絡を入れるとしたら、まず間違いなくさきほどの男だ…… そう、セフィロスが締め上げた、神羅の社員である。

「フン…… そうかい。じゃあ、念のため、確認させてもらうかな。その後で設計図とガキ共を交換だ」

 男がサファリスーツのような戦闘服から、携帯を取り出してみせる。

「……いいだろう。確認したまえ」

 頷き返し、私は一歩後退した。

 『カツン』と、靴音を立てて。