〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<79>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 必死にセフィロスを説得して、締め上げている腕だけは外してもらった。

 セフィロスは不平そうであったが、しぶしぶ従ってくれたのだ。時間も押していることを考えれば、ここでこの男一人を責めても意味のないことであった。

 ゼイゼイと喉を鳴らしているその男に、再び私は話しかけた。

「……そうだな。貴方のおっしゃることももっともかと思う。長く社に尽くしてこられた先輩方から見れば、私のような大した実績もない輩が、大任をまかされるのは納得のいかないことだろう」

「おい、ヴィンセント、何言ってんだ!」

 するどくセフィロスが言葉を挟んだが、私はかまわずに続けた。

「もともと神羅は戦闘部隊や研究組織、そして情報収集部門など、実務部隊の人間を優遇するきらいがあるようだ。その点については、常々気になっていた。私なども、タークスに所属していた人間だし…… 今度、その点について、上層部と話をしてみようと思う」

「……な、なにを……」

 彼は、喉を激しく上下させ喘いだ。

「事務官として、長きにわたってカンパニーを見てきた人材を、もっと経営に役立てるべきだと提案しようと思う」

 ……私自身は、この一件で辞職することになるだろうが、最後にそう告げて退くくらいの、時間的猶予はあるだろう。

「……しかし、貴方がたの不満を、そのまま、未成年である修習生にぶつけるのは道理が通らない」

「ぐ……」

 ゴクリと唾を嚥下する音が耳に入った。

「貴方に一片の良心があるのならば、教えて欲しい。今夜半の取引はどうなっているのだろうか? 子供たちは今、どこにいるのか?」

「そ、それは……」

「時間がねェんだッ! はっきり言わねェか!」

 噛み付かんばかりに怒鳴りつけるセフィロス。気持ちはわかるが今はこの男から言葉を引き出さねばならない。

「セフィロス、彼はきちんと話をしてくれる。……だから、待ちたまえ」

 穏やかにそう制すと、汗と鼻水と唾液で顔を汚したその男は、ううともああともつかぬ、うめき声を立て、泣きながらその場に頽れてしまった。

 

「……話を聞かせて欲しい」

 私はポケットから手布を探り出し、そっと差し出した。

 

 

 

 

 

 

「待ってろ、クラウド……! 今、行くからな……!」

 セフィロスが先頭を切って、突っ走る。

 その後ろに、ジェネシス、私…… しんがりはツォンだ。 

 我々は今、十番魔晄炉に向かって走っている。あの男の言葉が真実のならば、午前0時ちょうど、十番魔晄炉で取引が行われる予定になっているらしい。

 もっとも、『行われる』と考えているのはテロリスト側だけで、神羅本社は無視を決め込むのだろうが……

「しかし、まさか十番魔晄炉、そのものの現場で取引とはね。……これはいささか厄介だ」

 走りながらジェネシスが言った。こうしてしゃべっても、彼は息など上がってはいない。

「……そうだな。戦闘は避けて通れないだろうからな」

 と、ツォン。私も口には出さなかったが、同じ事を考えていた。

 できることなら、可能な限り避けたかったシチュエーションだ。魔晄炉は巨大なエネルギーの集結している場所だ。それこそ、十番魔晄炉ひとつだけで、神羅全社の電源エネルギーを補給できるほどに。

 戦闘となれば、互いに武器を駆使することになる。

 何かの拍子にエネルギータンクをひとつでも傷つければ、大爆発だ。テロリストも当然のことながら、我々だとて跡形もなく吹き飛ばされることだろう。

 ……いや、だからこそ、魔晄炉という場所を指定してきたと考えるべきだ。

 神羅側が強硬手段を取れないように…… もし、そうしたならば、テロリストらがではなく、『神羅が』、自らの会社の修習生を殺す形になる。