〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<80>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 我々は目立たぬよう、十番魔晄炉に近づき、暗闇に控えた。

 不夜城でもある神羅本社、そしてそれを取り巻く魔晄炉周辺は、真夜中でも明るい場所が多い。

 ただでさえ目立つセフィロスとジェネシスがいるのだ。嫌がおうにも、慎重に行動せざるを得ない。

 セフィロスは、今すぐにでも魔晄炉内に飛び込んで行きたそうではあったが。

「時間は?」

「23:26 ……取引の予定時刻まで、後三十分程度です」

 ツォンがそう答えてくれた。

「……なんとか間に合いそうだな。君のおかげだ、女神」

「いや……そんなことは……」

「あのくたびれた中年男も物言いには激しく異議があるが、結果的に解答を得られたのは君の力だろう」

 ジェネシスが微笑んだ。

 彼はモニターで、我々のやり取りを聞き、相当憤慨したらしい。もっとも、私に対してはいつもの穏やかな態度を崩すことはなかったが。

 

 あの男に言ったことは、その場しのぎの方便というわけではない。事務官軽視は以前からずっと気になっていたことだったし、いずれは社長以下に苦言を呈していたと思われる。

 こんなことになる前に、もっと早く行動に移しておけばよかったのだが……

「……彼がいい人でよかった。あの人が言っていたことは、ずっと私も感じていたことだから」

「君ねぇ。まさか、自身の職位が分不相応だなどと考えてはいないだろうね?」

 するどくジェネシスが突っ込んできたが、言い返すことはしなかった。今はそんなやり取りをしている場合ではなかったから。

 

「……しかし、魔晄炉そのもので取引とは……連中も考えましたね」

 ため息混じりにツォンがつぶやいた。彼の得意な武器も、私と同じで拳銃である。

 剣や刀を使う、ソルジャークラス1stのふたりよりも、飛び道具の方が魔晄炉を傷つける危険性は高い。

「……ツォン、慎重にいこう」

 ツォンに向かって互いにそう確認し合い、セフィロスとジェネシスのほうへ向き直った。

 

 

 

 

 

 

「セフィロス、ジェネシス。……言わずもがな、最優先は修習生たちの身の安全だ。魔晄炉という場所に鑑みても、無駄な戦闘は回避しよう」

「ああ、わかっているよ、女神。……もっとも取引相手でない俺たちが乗り込んでいくわけだから、連中は素直に人質を返してくれそうにないけどね」

 と、ジェネシス。そう、彼の言うことはもっともだ。まったく戦うことなしで、子供たちを返還してくれる可能性は皆無に等しい。

「クソッ! 十番魔晄炉と言ってもけっこう広いからな。死角になる場所も多い」

 セフィロスがぎりりと歯を食いしばった。

「……だが、おそらく修習生は一カ所に集められているはずだ。わざわざ彼らの人員を、ばらばらに配置する必要もあるまい」

「……狙撃手くらいはいるだろうがな」

 と、ツォンが言った。当然だろう。テロリストとはいえ、それなりの軍事訓練は受けていると考えられる。定石は外すまい。

「では、皆。……打ち合わせ通りに」 

 私は大きく息を吐き出し、三名の同志にそう告げた。その声が震えているのに気づかれ、セフィロスが口を挟む。

「ビビッてんなよ、ヴィンセント。アンタのこともオレが守る。アンタ、いいヤツだからな」

「セ、セフィロス…… あ、あり、あり、ありがとう……」

 ひどく感動して、どもった。

「セフィロス。そのセリフは俺のために遠慮していただきたいところなんだがね。女神を守るのはナイトの役目だ」

「ケッ。最強のオレ様が守ってやるって言ってんだ。ヴィンセントもその方が安心だろうよ」

「おまえねェ……」

「ふたりともいい加減にしないか! 側付きであり、直属の部下である私が身命を賭してお守りする」

「ケッ、軟弱なタークス野郎が」

「ソルジャークラス1stの俺たちを前に、よくもまぁ、大きく出たものだね、ツォン」

 悪態を吐く英雄二人の言葉に覆い被せるように、私は口を開いた。

「あ、あの……み、皆、本当にどうもありがとう。君たちの足を引っ張らぬよう気を付けるから。どうか、君たち自身もおのれの身の安全を考えるように。修習生の子供たちを救い出せても、君たちが倒れるようなことがあってはならない、決して。だから……」

「あーあ、わかってるって。そんなヘマはしやしねェよ」

 尚も言いつのろうとする私の言葉をセフィロスが遮った。

「君は心配性だな、女神。大丈夫、ちゃんと気をつけるよ」

「ヴィンセントのおっしゃるとおりに」

 残りの二人も、同じように頷き返した。

 ……いかに、おのれの身を守れといっても、戦闘の現場は計り知れない。

 ほんの位置取りが運不運の明暗を分ける世界なのだ。どれほどこの三人が強力な戦士であっても、絶対に大丈夫などという保証はない。いや、客観的に考えれば、たった四人で乗り込むのに無傷で帰れる可能性のほうが、少ないと見るべきなのだろう。

 

 もともとネガティブな私は、考えれば考えるほど、嫌な想像ばかりをしてしまう。それで、セフィロスに「うじうじするな!」と叱られるのだ。

 

「では……行こう……!」

 私は小さく、号令を掛けた。