〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<78>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

「テメェ、この野郎〜……よくもクラウドを……ッ! 地獄で後悔しろッ!」

 私が駆けつけたときには、セフィロスが当該人物を締め上げていた。

 顔中を鼻血と何かの液体まみれにし、今にも失神しそうな有様に、私は慌ててセフィロスを正気に返らせねばならなかった。

「セ、セフィロス……! セフィロス、落ち着きなさいッ」

「くそっ……何の罪もないガキどもを…… 貴様ら鬼畜か……!」

 ……ジェネシスが居たら、『おまえもな』と言われそうだが。』

「セ、セフィロス……!」

 言葉だけではダメだった。男性を宙づりに締め上げている腕にしがみつくと、ようやくセフィロスは私が現場にやってきたことに気付いた。

「……ヴィンセント……?」

「だ、大丈夫だ。まだ夜半にはなっていないだろう? クラウドは必ず助けられる……」

「だが、こいつが……ッ!」

「セフィロス、目的を忘れてはいけない! 今一番重要なのはあの子たちを救うために、情報を集めることだろう!?」

「……チッ……!」

 セフィロスは、忌々しげに舌打ちすると、高々と持ち上げていた腕を緩めてくれた。

 

 そのときであった。

 折れた歯の間から擦過音にまみれて、呪詛の言葉が聞こえてきたのは。

「ア、アンタのせいだ……ッ!」

 悲鳴じみた恨み声に、私はハッと顔を上げた。まさか自分のことを言われているなどとは露ほども考えられずに……

「ヴィ……ヴィンセント・ヴァレンタイン……! ア、アンタの……せいだ……ッ!」

「え…… あ……」

「おい、テメェ! なにがヴィンセントのせいだってんだ! 残った歯ァ、全部へし折られたいかッ!」

 凄むセフィロスを引き留めて、私は改めて彼に聞き返した。

「君…… どういうことなのだろうか……? いったい私がなにを……?」

「ア、アンタはいいよな……ッ! そ、そ、その年で……ひょいと本社に戻ってきたら、部門長さまだ……ッ! アンタなんかに俺たちの気持ちがわかるか……ッ!!」

「…………ッ」

 鼻水と涙を流しながら、その男は激しく吐き出した。

「わ、私は……」 

 即座に弁明しようと口を開いたが、言葉が続かない。

「まともな本社勤務さえもないくせによ……! どっかの研究所から帰ってきたら、一躍大スター様だ……! 俺たちが一から築き上げて……ようやく一歩昇格できるところを、遙か年下のアンタは飛び級でございってか……!?」

 活火山の噴火のごとく、吹き出し続ける呪詛。

 私はただ木偶のように立ちつくして、血と唾液にまみれた彼の顔を見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 ……今まで考えてこなかったわけではなかったが。

 会社という組織ならば、年若い者が年長者を追い抜いて、重要な役所に着くこともある。

 セフィロスに締め上げられている男性は、どうひいき目に見ても、私よりはずっと年長で……おそらく五十代が近いくらいの人だろう。

 モニターでは確認できなかったが、髪にちらほらと白いものも混じっているくらいだ。

「アンタなんて……アン……タみたいなヤツが……!!」

「……それで、君はテロリスト側に荷担したと? 軍事部門の修習生を人質にとって……?」

 静かに訊ね返した。

 彼に一片の良心があれば、私への憎しみと、何の罪科のない修習生の存在とは無関係であると考えられるはずだ。

「それは……それは知らなかった……! そこまでやるとは思わなかったんだ…… だが……! アンタなんかに責められたくはないッ! 何の苦労もせずに、皆が切望する地位を与えられ……! アンタと俺たち何が違うってんだッ!? 俺たちはもう三十年も神羅のために…… ひぎぃぃぃぃ!」

 彼の叫び声が、最後悲鳴に取って代わったのは、セフィロスが絞め殺さんばかりに吊し上げたからであった。

「この野郎〜ッ! ただの逆恨みじゃねぇか! そんなつまらん理由で、貴様はアホテロリストどもに荷担したというのかッ!?」

「セフィロス! よ、よしなさいッ!」

 腕にしがみついてやめさせようとするが、セフィロスの太い両腕は今度こそびくともしなかった。

「セフィロス……、それ以上したら、彼が死んでしまう……!」

「こんなクソ野郎! 生かしておく価値なんざねェ!」

「ぎ…… え、英雄などと……呼ばれている…… く、苦労知らずの若造に……」

 締め上げられた中年男は、それでも汚れた歯をむき出しにして、悪態を吐いた。

 ああ、こんなにも憎悪の念は深いのだ……  部門長補佐の職位など、最初からルーファウス副社長に、しっかりと辞意を伝えるべきだったのだ。

 セフィロスやジェネシスのように、実際的にその身体能力で、ソルジャークラス1stという地位についている人物ならば、年長である彼らも認めざるを得ないだろう。

 だが……私は……