〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<76>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 

 ジェネシスは一昨日から、こまめにチェックしているリストを手繰った。

「……女神……ツォン」

 ジェネシスが低く私たちを呼んだ。

「な、なんだろうか?」

「何か不審な点が?」

 慌ただしく訊ねたのは私、落ち着いて問い返したのはツォンだ。

 たぶん、実態調査に、セフィロスは戦力にならぬと判断し、彼は我々に声を掛けたのだと思う。

「……そうだね、不審といえば言えなくもないのかな…… このモニターを見てくれ」

 ジェネシスはいくつかあるうちのひとつを顎で示した。ラボではなく、隣接した準備室のほうだ。

 もちろん、準備室とは呼んでいても、神羅本社の兵器開発部門である。FAXやコピー機などはいうに及ばず、外線内線電話、そしてコンピュータの端末は、ごく当然というように収まっている。

「コイツか!? この野郎がテロリストの仲間なのかッ!」

 弾かれたように駆け寄ってきたのはもちろんセフィロスだ。彼はいつでも臨戦態勢に入れる勢いである。

「落ち着けよ、セフィロス。女神、それからツォン。この男に見覚えは?」

 ジェネシスは彼の顔写真を束になった書類から抜き出した。

 もちろん、この部屋にモニターを設置してからチェックをくり返していた一覧表だ。

「……いや、私は知らないな」

 不鮮明な印刷ではあるが、まるきり見覚えのない人物に、私は首を振った。

「少なくともタークスにはいない。ソルジャーのほうでも見かけた顔ではないな」

 と、ツォン。つまり我々ふたりは知らない顔だったのだ。

「ああ、やっぱりね。……だが、彼は軍事部門の人間だよ。ただ戦闘部隊ではなくいわゆる内務官だな」

「……で、この人物が……?」

 慎重に話をしようとするジェネシスを制して、ついつい先を促してしまう。私も大分焦っているのだ。

「いや、俺もどういう人間なのかは知らないよ。ただ昨夜から何度かモニターに映っている」

「…………!」

 この時点で血相を変えるセフィロス。

「セフィロス、待て。……だが、職員なら別におかしくはないだろう、ジェネシス?」

「ツォン。さっき言っただろう。彼は軍事部門に所属しているんだ。兵器開発部門ではない」

「…………」

 一瞬詰まるような面持ちになったが、すぐに気を取り直してモニターを眺める。

 もちろん、私も一緒に視ているのだが……

 だが、素振りそのものに異常は感じない。そう、例えば、周囲に注意しながら携帯電話で話をするとか、何かを探すような素振りとか。

 ただ、その部屋にいて、つまらなそうにパソコンをいじったり、ときおり時計を眺めるような素振りを見せることだ。

「……どうだろうな……」 

 ツォンの独り言だ。きっと彼も、画面に映し出されている中年男に、あからさまな怪しさは感じないのだろう。ここにいるメンバーとは比較にならない、うだつの上がらなそうな男の動向に注目しても特にどうということはなかった。

「……オイオイ、変態詩人。軍事部門の人間なら、兵器開発部門に居てもおかしくないんじゃねーのか? 一応、軍事系同部門だし、ハイデッカーがいた頃は割と行き来があったようだしな」

「……ああ、ハイデッカーは、化粧お化けと懇意だったからな」

 人の悪いセリフをジェネシスはしれっと言った。

「だが、昨夜から数回見かけているというのは、いささか気になるな。……ヴィンセント、いかがでしょうか?」

 ツォンが慎重に意見を求めてきた。

「ああ、そう……だな。だが、正直、今は目に入るものすべてを疑わしく感じてしまう。残された時間がわずかだから……焦燥が判断を鈍らせているのだろう。この人物と面識はないが……」

 返答にもならない言葉を、私はボソボソと返した。

「判断が付きませんね。決定的な証拠がなくば問い詰めるわけにもいきませんし。下手をしたら、我々の行動が周囲に漏れる可能性もある」

「……ったくテメェら! 悠長なことを言ってる場合じゃねーだろ! 間違ってたら、ゴメンとか言っておきゃいい! どけ、ジェネシス!」

「いや……ゴメンで済む問題では…… あ、セ、セフィロス……? どこへ!?」

 勢いよく立ち上がった彼に、私は慌てて声を掛けた。

「オレ様が確認してくる!」

「ちょっ……ま、待ちたまえ!」

 バタンと勢いよく扉を叩き付け、セフィロスはさっさと出て行ってしまった。

 

「ど、どうしよう、皆……」

「ああ、まぁ…… いずれにせよ、確認はしたかったからね……」

「どこにでもいそうな男に見えるがな。そんな大それたことを考えるタイプには……」

「だが、ツォン。この時期に、兵器開発部門へ、他部門の人間が頻繁に出入りするのは、やはり少々気になると思う」

 ジェネシスの作ったリストを見ながら私は言った。

「ええ……ですが、この役目、セフィロスは適任ではないでしょう」

 ツォンがそう言った。それについては私も同感だ。

「あ、あの、私…… あ、後を追いかけて……」

「……すまないが、無駄だと思うよ、女神」

「え……」

 ジェネシスがとまどう私たちに向かって、モニターを指さした。

 

 そこには、巨躯の英雄がもう映っていた。いったいどれほどの全力疾走で赴いたというのだろうか。

 風を切ってやや乱れた銀髪が、怒れる獅子のごときありさまだ。

 我々がチェックしていた人物……そう、うだつの上がらない中年男性は、心の底から驚いたのだろう。

 ノックもせずに室内に強引に侵入してきた英雄相手に、哀れにも腰を抜かしてしまった。

 その胸ぐらを掴み挙げて、なにやら問い詰めるセフィロス……

 

「……いやぁ、どうも彼の辞書には、穏便という文字はないようだねェ……」

 しみじみとジェネシスがつぶやいたのが印象的であった。