〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<75>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

 時間が経つのが、ひどく速く感じる。

 それもそのはずだ。

 もはや一刻の猶予もない。今夜半には予定通り『取引』が行われるはずなのだから。

 だが、プレジデント神羅には、相手の要求を呑むつもりはなく…… もちろん、兵器開発部門の長である、スカーレットに至っては、脅迫状のことすら忘れている様子にさえ見える。

 ……いや、まさしくその様子を、実際この部屋で視ているわけだから……

 

 時刻はそろそろ終業時間である。

 寮住まいの社員は、これから各々社食で食事を済ませたり、友人らと外食に出かけたり……プライベートタイムになるわけだ。 

 私とツォンも、周囲に怪しまれぬよう、私室と執務室を何度か行き来し、デスクワークをこなした。

 ……正確には、こなしている振りをした、だ。

 ツォンはともかく、私はほとんど何も手に着かなかった。簡単な決済だけを淡々と済ませ、刻一刻と迫るその時を、激しい焦燥と動揺におののきながら、待っていることしかできない。

 ああ、今日だけで、いったい何度、時計を確認したことだろう。

 

 

 

 

 

 

「ああ、クソッ! もう晩飯まで食い終わっちまったじゃねーか!」

 精神的疲労は並大抵ではないと思うのだが、セフィロスは最後の皿まで綺麗にたいらげ、ため息混じりに苛立ちをぶつけた。

「……そう、女神が手づから作ってくれた夕食をね」

 とジェネシス。クールな口調であるものの、いちいち一言挟むのは、昨夜のやりとりが影響しているのかもしれない。

「オレが言いてェのは、もう本当に時間がないってことだ!」

「分かっているよ」 

 ジェネシスが素っ気なく答えた。

「……本社の対応はどうなっているんだ、ツォン」

 続けざまに私の傍らに立つ、タークスの主任に声を掛ける。

「……現段階においても引き延ばし工作を行っている。だが、相手側の反応は芳しくないな」

「ケッ! 結局引き延ばしたとしても、設計図を渡すつもりも、十番魔晄炉を明け渡してやるつもりもないくせによ!」

 セフィロスが吐き捨てるようにそう言った。

 ……そう、彼のいうとおりなのだろう。

 いかに取引の期日を延ばそうと努力しても、何一つ連中の要求を呑むつもりはないのだ。

 必然的に、修習生五名の命もあきらめることになる。

 神羅本社としては、可能な限り説得努力したという、実績を作っておきたいのだろう。万一今回の件が表沙汰になったとき、いかようにも言い逃れできるように。

 このあたりの狡猾さ、周到さは、いかにもプレジデント神羅らしかった。

 

「……おい、モニターどうなってんだよ。何の手がかりもねェのか?」

 セフィロスが食後のデザートをつまみながら、ジェネシスに声を掛けた。

 ……余談だが、この状況下で、しっかりデザートまで平らげられるセフィロスを頼もしいと思う。

「……就業時間から大分経過しているからね。中の人間もほとんど引き上げている」

 ジェネシスが画面を眺めながら、低くつぶやいた。

 私も共にチェックしているわけだが、さすがに終業時刻から三時間も過ぎるとなると、よほど立て込んでいる時期ならばともかく、そうでなければ職員は退社してしまう。

 モーレツ・サラリーマンなどという言葉もあるが、基本的に神羅は公私をしっかりと分けるスタンスで、そのことについては、私もよいことだと思っている。

 

「…………ジェネシス?」

 厳しい面持ちで、微動だにせずモニターを眺める彼。

 なんとなく落ち着かない気分で、私は彼の名を呼んでみた。

「……シッ」

 彼は私を制止し、ただひとつのモニターをにらみつけている。

 そこはいわゆる研究スペースではなく、その準備室のような場所で……もちろん、スターレイジのラボとは、まるきり関係のない部屋であった。