〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<74>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「てめぇら! 起きろ、起きねぇかッ!」

 午前九時過ぎ……

 元気はつらつといった風体で目覚めたセフィロスは、勢いよく朝風呂を浴び、ドカドカと居間に戻ってきたのだ。

 そして怒れるゴジラのごとく、ツォンやジェネシスを、眠っている椅子ごと蹴り飛ばして回った。

「セ、セフィロス……よしたまえ」

 ジェネシスは結局明け方まで起きていたし、ツォンはその後を引き継ぐように、夜明け頃から調査に加わってくれたのである。

 夜中からこの時間まで眠り込んでいたのはセフィロスだけなので、彼が元気なのは至極当然のことであった。

「おまえら、緊張感が足りねーぞ! おい!もう時間がねーんだからな!オラオラ!」

 ガシッ! ドカッ!

「セフィロス! ジェネシスは今朝まで起きていたし、ツォンだって……」

「軍人なら非常時に備えずにどうするってんだ。今夜半はもう取引があるんだぞ!」

 偉そうに宣うセフィロス。この青年はもう本当にどうすればよいのか……

「セ、セフィロス…… 皆が起きてくる前に、お茶にしよう? な? 風呂に入って喉が渇いただろう?」

「おいおい、アンタものんきなこと言ってる場合じゃねーだろ。クラウドの命がかかってんだからな」

「あ、ああ、もちろん、肝に銘じている。だが、今、体力を使い果たしてしまっては、いざというときに、本領を発揮できまい?」

 なんとかそう宥めてみたのだが、やはりセフィロスの声が大きすぎたのだろう。

 ジェネシスとツォンは、寝不足気味の額を押さえ、どうにか起き出してきた。

「う〜……にぎやかだな、セフィロス……」

「このボケナス!変態詩人! いつまでもグーグー寝くさりやがって」

「いや……今何時だ……? ああ、もう九時になるのか……」

 ジェネシスは眉間を指先でつまむと、低くつぶやいた。だいたい彼が眠ったのは午前五時過ぎだったと思う。

「女神…… まさか、君、ずっと起きていたのかい?」

「い、いや……その…… あ、あまり眠くならなかったから……」

「申し訳ありませんッ! 私としたことがッ!」

 私の声を掻き消すように飛んできたのはツォンだった。いや、ツォンはうたた寝をしてしまっただけだ。午前四時過ぎに起きてきて、先ほどまでモニターチェックに付き合ってくれていたのだから。

「あ、あの……ツォン…… 君は明け方から、ずっと起きていたではないか。うたた寝をしていたのは一時間程度ではないのか?」

「あ、貴方がずっと起きて頑張っておられたというのに……! 私は……」

「まったくだ。まさか女神が張り付きっぱなしだったなんて。俺もずっと付き合うつもりだったのに!」

「い、いや、あの……ツォンも、ジェネシスも……そんなに気にする必要はないのだから……」

「ったくテメーらは頼りになんねェな!」

 心底呆れたといった様子で、セフィロスがわざとらしいほど大きなため息を吐き出した。

 

 

 

 

 

 

 そう……セフィロスのいうとおり、もはや二十四時間さえも切ってしまっている。

 予定通りであるのならば、今夜半、取引が行われるはずなのだ。

 もっとも、神羅カンパニーの上層部にその意志はないようだが。

「……確かに差し迫ってきてはいるが、まったく時間がないわけじゃないさ。こういうときほど、落ち着いて行動すべきだろ、セフィロス」

 ジェネシスが言った。

「テメェなんざに言われなくともわかってる。オレァ、慌てちゃいないぜ」

「わかっているならいいさ。昨夜からチェックしているモニターからも、手がかりが掴めるかも知れないし、今日は通常の業務がある日だからな。怪しまれないように動かないと」

 そうなのだ。

 取り立てて今日中に片付けねばならない仕事があるわけじゃないが、私とツォンが一度も執務室に顔を出さなければ、いぶかしがられるであろう。

 セフィロスやジェネシスも目立つ人たちだから、それなりに上手く立ち居振る舞ってもらわねばなるまい。

 そうなってくると、やはりセフィロスのことが一番心配になるわけだが。

 

「皆、今日は通常業務の日だ。モニター番を交代でこなして、空き時間を上手く利用しよう」

 私はそう言い渡した。一応、一番年長であったし、部門長という立場にあったから。

「そうだね、ここまで来て怪しまれては元も子もない」

「あぁ? わざわざ執務室に行けってのか? どうせ、なにも手に着かねーだろ。時間ももったいないし」

「……セフィロス。ヴィンセントのいうように、あくまでも常と変わらぬ様子の我々を社内的に見せておかねばなるまい。いざ、行動を起こす前に、我々の考えを見透かされてはすべて無に帰してしまう」

 静かにツォンが言った。

「チッ……めんどくせーな」

「セフィロス、こらえてくれたまえ。クラウドや……他の修習生の子供たちのためだ」

 そう言葉を重ねると、彼はしぶしぶ了解してくれたのであった。

「では、朝食を済ませよう。今日は一日、互いに連絡が取れるよう、通信機器には細心の注意を払うように」

 

 昼前の室内を、朝の光がさわやかに照らし出す。

 明日のこの時間……すべてが終わっているはず。

 

 どうか、今と何一つ変わらず……ここにいるメンバーがだれひとり欠けることなく、再び朝陽を眺められますように……