〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<69>
  
 夢の中のツォン
 

 

 

「なに見てんだよ、やんねーぞ」

 ついマジマジとセフィロスを凝視してしまったらしい。

 彼は、手にした土鍋をひょいと脇に寄せた。もちろん、私の座っている席と反対方向にだ。

「……ああ、いや、失敬。別にそんなつもりではなくて」

「テメーもさっき晩飯食わせてもらっただろうが。意地汚いヤツ」

「いや、セフィロス。早くも夜食を要求しているおまえに、人のことは言えないだろう」

 ジェネシスは苦手な輩だが、このときはまさしく得たりという口出しをしてくれた。

 ちなみに彼も、私と同じハーブティーを飲んでいる。

「ツォンも、ジェネシスもお腹が空いたら言ってくれたまえ。長期戦になるのだから、栄養はしっかりとっておかないと」

 ……そういう問題だろうか。

 しかも、こうして皆の食事に気を配っているヴィンセント本人は、とうてい成人男性の食事量とは考えられぬほどの小食なのである。

「……あなたもですよ、ヴィンセント。それから、交代して睡眠をとるようにしましょう。明日も継続して監視と探索を続けねばなりません」

「ああ、そうだな」

「では、私が監視しておりますので、三人はお休みになってください」

 まだ0時前だが、一日中、外を走り回っていた三人は疲れているだろう。

 いや、ソルジャークラス1stのふたりはともかく、どうみてもヴィンセントは体力のある人物ではない。

「……私はまだ眠くないから大丈夫だ。それより君の方こそ、風呂に入って休んだ方がいい」

「……いえ、大丈夫です」

「外に出ていた私たちは、一度部屋に戻って湯浴みや身繕いを済ませているが、君はずっとモニターに張り付きっぱなしだっただろう? 自覚はなくとも大分疲れているはずだ」

「……はぁ」

 気が進まぬ気分で返事をしたがハッと気付いた。

 丸一日風呂にも入らず、服も着替えずに上官の部屋に寝泊まりするのは、かなり失礼にあたるのではないかと。

 セフィロスとジェネシスは、この部屋で合流した際、すでに外回りのホコリを落とし、着替えを済ませて来ていた。

 

 

 

 

 

 

「……ああ、そうですね。気付かずに失礼いたしました。急いで部屋へ戻って、身繕いを済ませて参ります」

「……わざわざ? 君の部屋は別棟だろう?」

 きょとんとした表情でヴィンセントがいう。

 セフィロスやジェネシスは、このエグゼクティブタワーに部屋をもらっているが、タークスの私は、ここからは少し離れた別の棟に私室がある。

 なんというか……タークスだけは、なぜか独立した所帯のように見なされており、いかに上級職とはいえど、こちらのタワーに室をもらうことはない。

「ええ。少し遠回りになりますが……」

「もう深夜といってもよい時刻だ。外気も冷えている。わざわざ風呂に入って身体を暖めても、すぐに湯冷めしてしまうではないか」

「はぁ……」

「服なら私のものを貸してあげるから、ここで済ませなさい」

 彼はごく当然というように、私にそう命じた。

「……いえ、そんな御迷惑は……」

 部下としては当然こう答えるだろう。だが、ヴィンセントは社交辞令ではなく、本気で私の体調を案じて提案してくれているのだ。

「迷惑などではない。他人行儀な物言いをしないでくれたまえ。ええと、バスローブの予備と……着替えは…… 君の背丈は私と同じくらいだから……少し大きめのものならば、十分だろう」

 前半の言葉は、しっかりと私に言い置き、後半はぶつぶつとつぶやきつつ、浴室の準備をしに部屋を出て行ってしまった。

 

「…………」

「ツォン。……うらやましいねェ。ヴィンセントは君の健康状態を、たいそう案じておいでのようだ」

 妙に丁寧な物言いで、ジェネシスが嫌みを言った。まさしく完全なる『嫌み』だ。

「……気遣いは無用なのだがな」

「何もため息を吐くことはないだろう? せっかくの好意なのだから」

「私が吐息したくなるのは、君のつまらぬ嫉妬心に対してだ。彼は私の上官として、部下の身を案じているだけだ」

 そう応じた私の声音は、ひどく剣呑なものだっただろう。

「そう……本当に女神は、『必要以上に』気遣いをする人だなァ。もっともそれが彼の美点のひとつだとも思うけど」

「…………」

「…………」

「あ〜ッ! ホントうざってェな、貴様らは! つまんねーことでケンカすんな! それよりモニター見てろ、モニターッ!」

 セフィロスに怒鳴られて、意識を『現場』に戻す。

 

 『あの』セフィロスから注意を受けるなど……

 ヴィンセントが居間に戻ってくるまでに、少しでも立ち直ろうと、ことさら真剣にモニターに見入る私であった。