〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<70>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 リクライニングチェアで、うんと腰を伸ばすと背中がぎしぎし言った。

 そろそろモニター番の交代の時間だ。

 午前三時…… 草木も眠る丑三つ時さえも過ぎた時刻である。

 

「ジェネシス……? まだ起きていたのか? そろそろ交代の時間だろう?」

 今夜、まだ一睡もしていない彼に、私は少し驚いて声を掛けた。

「ああ、女神、無理に起きなくともいいのに」

「そんな…… 私は大丈夫だ。さきほどまで休んでいたのだから」

「俺もね、夜は強いんだよ。本当ならセフィロスと交代なんだけど、彼は気の毒なくらいぐっすり眠っているから」 

 そういうと、ジェネシスはいたずらっぽく、クスリと笑みをこぼした。

 当のセフィロスは、巨大なソファに熊のように大の字になって寝こけていた。ガァゴォという遠慮会釈ないいびきは、どれほど深い眠りについているのかを物語るようだ。

「……それに、あまり眠くもないしね。太陽が出る頃になったら交代させてもらうさ」

「ジェネシス……」

 無理にでも眠らせようかとも考えたのだが、彼の物言いを聞いていると、決して無理をしているのではないと知れる。

 確かにセフィロスらよりも、夜行性的な傾向が強いのが、ヤズーとジェネシスであった。

「そうか……では、お茶でも淹れてこよう。眠気覚ましにはなるだろう」

「ああ、ありがたいね。女神」

 そんなセリフに送り出されて、私はキッチンで茶を贖った。

 ……なんだか不思議な気分だ。広い部屋とはいえ、私の私室に大の男四人がひしめき合い、ソファやらリクライニングチェアやらで、やや乱暴に眠り込んでいる。

 昨夜は…… そう、たった一日前の日の夜は、ジェネシスとふたりきりの時間を過ごしていたのに。

 

 カッと頬に血が上るのを感じて、私は慌ててかぶりを振った。

 情けないことに、私の頬はすぐに紅く染まってしまう。顔の表情は上手く平静を保てていても、すぐに血が上るせいでごまかしきれなくなってしまうのだ。

 ゆっくりと深呼吸を済ませてから、私はトレイを持って部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス…… 一休みしてくれたまえ」

 私はそう言いながらティーカップを彼の側にある、サイドテーブルに置いた。

 ジェネシスはたいそう真剣な表情で画面に見入っていたのだ。よこしまなことを考え、赤面していたおのれが、なんだかひどく矮小な輩のようで、私は自身をひどく恥じた。

「……ありがとう」

「疲れただろう? すごく真剣な面持ちで監視していたな」

「そう? ふふ、君が部屋に戻ってくるのに合わせて、敢えて真面目ぶってみたのかもしれないよ」

 そんなふうに茶化すと、彼は茶を啜り、美味しいと言ってくれた。

「……となりに掛けてもよいだろうか?」

 後の二人は爆睡中だ。モニターを眺めるにしても、ジェネシスのとなりが見やすそうだったから。

「ああ、もちろん。……さ、どうぞ」

 紳士的なジェスチャーで、私をとなりに招いてくれる。

 こんな状況だから尚更なのだろう。常と変わらず淡々となすべきことを行ってゆくジェネシスが、我々に協力してくれてありがたいと感じた。

「……何か気付いたことはあるだろうか?」

 もちろん、モニターに映し出された画像についてだ。さすがにこの時間のせいか、ビデオカメラが映し出しているのは、人ひとりいない虚無の空間であった。

「……まぁ、ごらんの通り、今は誰もいないね」

「……時間が時間だからな。……? それは?」

 私はジェネシスの手元の紙を見つけて、訊ねてみた。ただの紙ではなく、写真が貼ってあったり、書き込みがしてあったから。

「この部屋でモニターを監視してから、兵器開発部に来た輩だよ。写真はモニターのをそのままプリントしているから画像が粗いけど」

「…………」

「やってきた人間と、滞在時間、来室回数…… 気がついたことは一応メモをしておいた」

「……ジェネシス……君は有能なエージェントでもあったのだな」

 私はつくづく感心して彼を誉めた。

「いや、ツォンと手分けして、だよ。これで目星がつくといいんだけど、この段階では黒と断定できるような人間はいないね」

「……そうだろうな。彼らだとて、そう簡単にアシがつくような行動はとるまい」

 『テロリスト』と呼んではいるが、どういった規模の組織の者かも分からないし、完全に未知の相手なのだ。容易に全容を掴めようはずもない。

「面白いものでね、ヴィンセント」

「……? 何がだ」

「兵器開発部とは言っても、いろいろな人間が出入りするものなのだね」

 ジェネシスの言葉に、私は頷き返す。

「……そうか。まぁ、人事や労務の人間など本部の人たちは、職務上伝達事項などがあるのかもしれないし……」

「そうだね。それから君の統括している軍事部門の人間らも見かけたよ」

「ソルジャーとか、タークスの……?」

「いや、事務官なのかな。あまり知らない連中だった」

「ああ、なるほど。確かに実戦部隊よりも、事務職のほうが用事があるのかもしれない。私はあまり他部門に顔を出すことはなかったな」

 過去のタークス時代を思い出して私はそう応えた。

「まぁ、そうだね。俺も自分から行くことはほとんどないなぁ。ラザードなんかはよく用事があるって言ってたよ」

「彼は人事統括だからな。さもあろう」

「うん…… で、君にも意見を伺いたいのだが」

 ジェネシスがそう言って身を乗り出したとき、

「ヘックショイ!」

 という勢いのよいクシャミが割り込んできた。

 見ればソファで眠り込むセフィロスが、毛布を蹴り落としてしまっている。

「う〜……」

 獣のようにうなるセフィロス。

「あ……す、すまないジェネシス。ちょっと彼に毛布を掛けてくる」

 ジェネシスは、さも致し方がないというように、両手を広げて見せて、やれやれと吐息した。

 ……セフィロス……

 どうも、彼は『待ち』の仕事には適さないようだ。

 

 私は床に落ちてしまった毛布を拾い上げ、この時期だというのにノースリーブで眠り込んでいる彼に、かけ直してやったのだった……

 あれほど、クラウドのことを心配していたのに、眠るときにはしっかりと休息を取れるセフィロスが、なんだか少しうらやましく感じた。