〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<68>
  
 夢の中のツォン
 

 

 ……22:00

 

「腹減った。ヴィンセント、メシ」

「え、あ、で、では、なにか作ろうか? 君は何が食べたい?」

「なんでもいい。あ、そうだ。この前泊まった日の朝、食ったヤツみたいなのがいい」 

「……セフィロス、それは自慢発言なのかな。俺の神経を逆なでして楽しいかい?」

「別にテメーにゃ関係ないだろ。黙ってろ、変態詩人」

「……君たち、静かにしてくれないか。それよりもモニターに集中したまえ」

 我々は今、ヴィンセントの部屋に来ている。

 タークスの情報室から、使用していないモニターを数個移動してきて、兵器開発部門を見張っているのだ。

 あれから、セフィロスやジェネシスも、手がかりを求めて周辺を調べに出たが、結果は芳しくなかったらしい。おおっぴらに聞き込みができるわけではないから、よけいに難しかったのだろう。

 ヴィンセントも十番魔晄炉の周辺を、チェックして回ったとのことだが、めぼしい成果は上がらなかったとのことだ。

 さもあろう。

 こんな短時間で有力な手がかりなどが得られたら、世の諜報機関は開店休業状態だ。

 

 後の頼みの綱は、設置したカメラから不審人物を割り出せればよいのだが……これも根気のいる作業になる。

 おおっぴらにモニター室で監視するわけにはいかず、もっとも部屋の広いヴィンセントのところに、仮の捜査本部を打ち立てたような形をとったのだが……

 

「ええと、ツォン。その……キッチンで夜食を作ってこようと思うのだが……」

「先ほど、皆で夕食をいただいたばかりだと思うのですが」

「で、でも、ほら……セフィロスらは育ち盛りだし……」

「……通常『育ち盛り』というのは、十代の少年期を指して言うものだと考えておりました」

 そんなふうにこたえつつも、ヴィンセントを困惑させるのは本意ではない。

「では、我々でモニターを見ておりますので。万一に備えてバックアップもとってありますから」

「す、すまないな、ツォン。君はなにか食べたいものはないだろうか? 私で作れるものならば……」

 私のストレスを心配してくれているのだろう。

 モニターを見張るという地道な作業は、セフィロスやジェネシスには向いていないらしく、彼らはひどく面倒くさそうに画面を眺めているだけであったから。

「……お気遣いありがとうございます。では、恐縮ですが、貴方がよく淹れてくださるハーブティを一杯いただけますか。少々肩が凝りましたので」

 彼に感謝しつつ、そのように水を向けた。

「あ、ああ、すぐに淹れてこよう! 後で、肩をもんであげるから、ツォン」

「あ、い、いや、それは別に……」

 冗談だと言葉を続けるつもりだったが、ヴィンセントにしてはめずらしくさっさとキッチンに引っ込んでしまっていた。

 

「……大概、君も油断ならないよね、ツォン」

 案の定ジェネシスが、敵対心まるだしで皮肉を言ってくる。

 ……普通、人間というのは、嫉妬心などというシロモノは、必死に隠そうとするものだが、この男に常識を求めるのは徒労だ。

「先ほどのは冗談だ。上司に肩をもんでいただくはずがないだろう。良識で考えたまえ」

「ヴィンセントは、カチンコチンのタークスの上下関係は好きではないようだよ」

 つんとあごを持ち上げて、ジェネシスが言った。

「……物事にはけじめというものがあるのだ」

「オメーら、うっせェんだよ。ちゃんとモニター見てろ!」

 セフィロスに言われて、私たちはふたたびモニターに向き合った。

 ……ひたすら無言で。

 どうも、ヴィンセントという潤滑油が居ないと、我々にチームワークは望めないらしかった。

 

 

 

 

 

 

「ツォン、お茶を」

 いつの間にか彼が傍らに戻ってきて、サイドテーブルに、香り豊かなハーブティが置かれていた。

「……ありがとうございます」

「君は甘い物が苦手だと言っていたから…… この前、ジンジャークッキーを作ったんだ。わりとよくできたほうなので、茶請けにでもしてくれたまえ」

「……ありがとうございます」

「ん……」

 と頷いて、彼はやさしく微笑んでくれた。

 なんだかヴィンセントと居ると、私は礼ばかりを口にしているようだ。

 

「セフィロス、君のリクエストは、ここに置いておくからな。土鍋はすごく熱いから、気を付けてくれたまえ」

「スプーンごと貸してくれ。すぐ食う」

 信じがたいほど図々しいセフィロスは、ヴィンセントから鍋ごと受け取ると、さっそくがつがつ食べ始める。

「茶を置いておくから。……やけどしないようにゆっくり食べなさい」

 まるで成長期の息子の面倒を見る母親だ。

 ヴィンセントは男性にしては、かなり希有なタイプらしく、ただ面倒見がよいだけでなく、いわゆる母性本能というべきか(男性であるのは間違いないのだが)……保護本能が非常に強いらしいのだ。

 こうして部下であるセフィロスのわがままを聞き入れ……いや、聞き入れるだけでなく、嬉々としてその要望に応えてやる様は、本当に息子の成長を言祝ぐ母親そのものである。