〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
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 夢の中のツォン
 

 

 

 

 スカーレットがヒールの音も高らかに、さっさとマイ・ラボに引きこもったのをこれ幸いに、私は開発部門をぐるりと巡ることにした。

 一口で兵器開発部門とっても、数階に渡るし、個別の研究室を含めれば部屋の数はかなり多い。

 ヴィンセントは、もし万一になにか手がかりが……と、やや希望観測的なセリフを口にしていたが、私としてはやれることはすべてやる所存だった。

 盗聴、監視などは、それこそタークスの得意とするところだ。

 スカーレットが今日、出社していたのは不幸中の幸いである。

 

 なにが不幸かといえば、対面して会話しなければならなかったこと。

 幸い……は、こういったことである。

 彼女は兵器開発部門に出社すると、必ず必要な部屋のセキュリティを一挙に解放する。

 いちいち、必要な部屋のセキュリティカードを手にして、開けてゆくのが面倒くさいというだけの理由だ。いかにもあの女らしいといえよう。

 だが、おかげで仕事はやりやすい。

 彼女が開けていなければ、ひとつひとつダミーのキーカードで解放し、痕跡の削除もしていかなければならなかったから。

 

 私は目星をつけておいた、いくつかの研究室に忍び込み、密かに小型カメラを設置した。ごく最近開発されたばかりのものだ。

 ……まさか、こいつをもっとも先に自社ビルに試すことになるとは……

 日々、社のために骨粉砕身してきた自負があったが、その本社を盗聴するとは…… いや、私にはもはや葛藤はない。そして、大して思い悩むこともなく、ヴィンセントの意向に従っているおのれが不思議なほど心地よかった。

 

 

 

 

 

 

「あ、ど、どうも……」

「これは、ツォン主任、……ごきげんよう」

 休日とはいえ、出社している人員がいるのは、どこのセクションでも同じだ。

 最近は、休みの日なんて、なにをしてよいのかわからない、などと言ってくる新人も居る。神羅は寮が完備だから、公私の区別をつけるのが難しい部分もある。だからなのだろう。

 ……もっとも、私も人のことは言えないが。

「ああ、休日なのにお疲れ様」

 私は当たり障りのない挨拶をして、彼らをやり過ごした。

 鵜の目鷹の目で、周囲を探るようなヘマはしない。これでもタークスの主任なのだから。

 

 ……しかし……

 しかし、どこに言ってもタークスというのは、歓迎されないと見える。

 ましてや、そこの主任である私など、この上なく疎ましい存在なのだろう。

 声を掛けて挨拶してくるなど、上等なほうだ。会釈だけでもマシだといえる。こそこそと空き部屋に一時身を隠す者、気付かないふりでトイレに寄る者、掛かってきてもいない携帯を、さも大事そうにいじる者……多種多様で、面白くさえ感じる。

 社内的にも、タークスは神羅の暗黒部分だと考えられているのだろう。

 まぁ、諜報機関というのは、古来より好まれざる必要悪というのが定番なので、今さら不快に思ったりはしないが。

 

 私は苦い笑いをかみ殺し、人目に付かぬよう、手早く盗聴器を設置して回った。

 引き上げるときは、常と変わらぬ表情で、スカーレットに挨拶をすることも忘れずに、だ。