〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<66>
  
 夢の中のツォン
 

 

 

 ……この私が、こんな真似をしているなんて……

 

 兵器開発部門への道のりを歩きながら、ふと笑いが漏れてしまった。

 それどころではないのに、奇妙な気分だ。

 

 私が神羅に入社して、正式に社員となった後、最初に配属されたのが、ここ兵器開発部門であった。

 もともと機械関係には興味もあったし、理系的な思考を自認していた私にとっては、問題のない人事であったと思う。

 もっとも、兵器開発部門にいたのは、最初の2、3年だけで、すぐさまタークスへ異動となった。だから、周囲の人間は、私のこともヴィンセント殿と同じく、生粋のタークスだと認識しているだろう。

 もちろん、私にとっても、タークスでの生活が、神羅でのすべてと感じるほど長く、そして深いものになっている。

 その理由は、タークスの主任になって以降、折に触れ関わりをもってきた、ルーファウス様の後見役的な立場になったからだと思う。特に正式な役職名はないが、タークスの中でも、私と私の直属の部隊は、いつか副社長付と呼ばれるようになっていた。

 幼少の頃から見ているルーファウス様は、私にとってある意味、特別な存在ではあり、これまで、現社長よりも、彼に利することをのみ考え動いてきた。

 

 だが……

 そう、だが、今回の一件、私は、ルーファウス様の期待していることと、真反対に動いていることになる。

 今年入社の修習生五名の命を優先するという……ある意味、人道的見地に立った思考は、残念ながらルーファウス様にもないだろう。

 それは彼が非人間的であるとか、冷たい人間であるとかいうよりも、生まれたときから特権階級に所属する人物独特の鈍感さなのだと思う。

 別にそれを責めようというつもりもない。なぜなら、私自身、ヴィンセント殿と出逢う前であったなら、間違いなく社長や副社長の立場をとったであろうから。

 

「ふふ……これでは、まるでヴィンセントのせいだと言わんばかりだな」

 人の少ない休日の本社。

 迷い無い足取りで、古巣に向かう自身がひどく可笑しく感じた。

 

 

 

 

 

 

「あぁら、ツォン。いらっしゃ〜い」

 毒々しい女の声に振り返る。

 スカーレット…… いったい、この女はいくつになるのだろうか?

 壁のように厚塗りした化粧で、実年齢は不明だ。兵器開発部門の長ということから、それ相応の年齢だとは思うが……まぁ、そんなことはどうでもよい。

「……こんにちわ、スカーレット様。休日だというのに、お疲れ様です」

 いささか嫌みをも込めて、私はそう挨拶した。

「それはそっちの方でしょぉ? わざわざ黒スーツにネクタイ姿で。キャハハハハ!」

「…………」

「無能なハイデッカーが左遷されてから、ずいぶんとオシゴトが楽しそうよねェ」

「……いえ、別に。相変わらず忙しくはありますが」

 どうせ、まともな答えなど興味もないのだろう。私は一礼すると、そのまま彼女をやり過ごそうとした。

「あらァ、ちょっと待ちなさいよ、ツォン。ウチに何かご用? 副社長のお使いかしら?」

「……いえ、そういうわけではありません」

 まずは冷静にそう答えた。

 兵器開発部門のトップであり、なにより蛇のように狡猾で執念深いこの女に、私の意図を知られるわけにはいかなかったから。

「……お恥ずかしい話ですが、先日こちらを訪れたとき、DVDを忘れてしまいました。すでに古いデータしか入っていないものですので、こちらで処理されたのなら、それでかまわないのですが、放置しておくのも何だと思いまして」

「DVD? そぉ…… アタシは聞いていないけど。今日は職員もほとんどいないしねェ」

「いえ、スカーレット様のお手を煩わせるつもりはありません。少し探させてもらって……なければ、引き取ろうと思います」

「あ、そ。じゃ、ご自由にどーぞ。今、アタシ、超忙しいからね」

 頭の軽い毒女は、私の話に大した興味も示しはしなかった。

 『忙しい』というのは、本当のことなのだろう。スターレイジの開発には、スカーレット自身が関わっている。男との浮き名も耳にするが、この女が真実関心があるのは、殺人兵器だけだ。

 おのれの作り出した兵器で、一度に何人の人間を屠ったとか、レベル4モンスターを仕留めたなどという武勇伝はまさに彼女の好むところであった。