〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<65>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「ど、どういう……」

 ザックスの声が擦れる。

「言葉通りさ、ザックス。社長は修習生五人を見捨てたんだ。だから、本社に極秘で俺たちが救出に行く。その計画を立てていたところに、おまえがやってきたと、こういうわけだ」

「そんな……ッ! クラウドたちは神羅の修習生だぞ!? しかもまだ未成年の……」

「そりゃ、ソルジャーさらうより、連中も容易な方がいいだろうからね」

「……なんて……なんてこったッ! なんで、何の罪もないクラウドたちが……」

 彼は力任せに、バンと拳を机に叩きつけた。ぶるぶると震える太い腕から、どれほど彼が怒りを堪えているのか伝わってきた。

「ザックス……」

 私は真っ赤になった彼の手を取った。よほど強い力で打ち付けたのだろう。

「気持ちはわかるが、今、そんなことを言っていても仕方がないだろう。……理解したなら、引き取ってくれ。時間がない」

 素っ気ないともいえるジェネシスの物言いに、私は少しひっかかった。

「ザックス…… 彼らのことは必ず私たちが救い出すから…… このことが社員に露見したら、全社がパニックに陥る。だから、どうか口外せずに……」

「黙って……吉報を待っていろとおっしゃるんですか?」

 ザックスの声が震えている。納得できないというのだろう。だが、ザックスを巻き込むのには、私も反対だ。年齢的にも職位としても。

 職を失う可能性が高いし、無事に戻れる可能性だって五分もあればよい。

 

 

 

 

 

 

 わずかな間隙の後、私は再び口を開いた。

「……つらいと思うが、君を手伝わせるわけにはいかない。君はまだ年若いし、無事に帰れる保証もないのだから」

「……たった、四人で、どうするっていうんですか? ほ、本当にクラウドたちを助け出すことができるんですか!? 時間ももう無いって……」

 呻くようにザックスがつぶやいた。

 そう……時間がないのは確かだ。だが、四人とはいっても、そのうちの二名はトップソルジャーであり、もうひとりは、タークスの主任という立場にある。

 一番頼りないのは私かも知れないが……だが、私だとてクラウドのためなら、死力を尽くして戦う覚悟がある。

「それなりに勝算はあるんだよ。だから、俺たちを行かせてくれ。そして、この件については、一切他言無用という約束を守って欲しい。……いいね、ザックス?」

「ジェネシス! 俺も連れて行ってくれ!人手があった方がいいだろう!? それに、黙って待機してろなんて言われても…… 俺……」

 立ち上がったジェネシスの行く手を塞ぐように、ザックスが追いすがった。

 ツォンも痛々しげに眉を寄せる。聞けば、彼はザックスとそれなりに交際があるらしいのだ。

「ザックス、聞き分けろ。……それでは、ヴィンセント殿が困惑する」

 ツォンは一歩進み出ると、ザックスの腕をとった。

「でも、ツォン……」

「気持ちはわかるが、今の話を聞いただろう。……現実を見ろ、ザックス」

 彼の言葉に、ザックスはくしゃりと顔をゆがめた。

「ヴィンセントさん……! 俺……俺にも何かできることはないんですか!? 手伝えることがあるなら、なんでもやります! 黙ってみていろなんて言われても……」

「ザックス……」

「聞き分けがないな、ザックス。足手まといだって言っているんだよ」

 冷ややかな声音で、ジェネシスが言い切った。

「ジェ、ジェネシス…… そんな言い方……」

 彼の口から、こんなにキツイ言葉が出るなんて……

 第三者的な立場にいる私であったが、まるで自分が言われているように、ショックだった。

「ソルジャークラス2ndのおまえがやれることは、沈黙を守ること。……それだけだ」

「ジェネシス……」

 ザックスはギリギリと歯を食いしばっていたように見えたが、言い返しはしなかった。

 おそらく……クラス2ndのザックスは、これまで間近に1stの活躍を見てきたのだろう。それゆえ、おのれの力量と、セフィロス、ジェネシスとは、大きな隔たりがあると思い知らされているのだ。

「さ、女神、ツォン。行くよ」

「……ザックス、我々は全力を尽くすから。必ずクラウドたちを連れて戻るから……」

 言葉など、何の足しにもならないと理解していたが、私は苦しそうな面持ちでうつむく彼にそう言い聞かせた。そうしなければ、彼を置いて部屋を出て行くことなどできそうになかったからだ。

 ツォンは出がけに、ザックスの肩を、ぽんと叩いた。

 我々は年若いソルジャークラス2ndの青年を残し、それぞれがやるべきことに赴いたのであった。