〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<64>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「痛ってェ〜……」

 よほど強くぶつけたのか、こんな状況なのに、彼は頭をさすっている。

 ドアを開け放したセフィロス本人は、彼を助け起こそうともしない。

 私は尻餅をついてしまった彼の腕をとった。

「ザックス・フェア……大丈夫か?」

「いててて…… あ、は、はい、大丈…… ぐおッ!」

 そう言いかけた彼は苦しげに言葉を切った。横合いから、セフィロスの長い腕が割って入ってきて、ザックスの胸ぐらを掴み上げたからだ。自然、私は押しのけられる形になる。

「テメェ…… 覗きとはいい趣味じゃねェか、クソハリネズミ」

 やくざ顔負けに凄むのは、もちろんセフィロスだ。

「やれやれ、本当におまえは間の悪い子だね」

 ため息混じりに、ひょいと両手を開いて、ジェネシスが言った。

「うるせェな、手ェ放せよ!」

 ザックスはめずらしくも激しい口調でそういうと、セフィロスの手を無理矢理引き外した。

「ヴィンセントさん……ッ! い、今の話……クラウドたちがって……それ、ホントなんスか!?」

「……ザックス、落ち着いてくれたまえ」

「教えてくださいッ! 他の修習生は実習を終えて戻ってきているのに、クラウドたち第五班はまだ帰っていない! メール送っても返事はないし……」

「…………」

「エ、エデュケーションスクールは、ただ単に、実習の終了が遅れているとだけしか言わないけど」

「……ザ、ザックス……」

 私につかみかかるように尋ねてくるザックス。無理もない、彼はクラウドのことを、実の弟のように親身になって面倒を見てくれているソルジャーなのだから。

「ヴィンセントさん……ッ!」

「……ザックス、落ち着けってば。ほら、おまえなんかにしがみつかれたら、女神が倒れてしまうよ」

 ジェネシスは静かな口調でそういうと、いともたやすく巨躯の彼を、私から引きはがしたのだった。

「ザックス……その……」

 私は返答に窮した。

 事情が事情だ。いつものように正直に話す……というのは難しい。

 だが、この状況ではごまかしようがないではないか。ザックスは真剣そのもので訊いてきている。なまじかな返答では、引き下がらないだろう。

 だが、まだ年若い、ソルジャークラス2ndの青年を巻き込むわけには……

 

 

 

 

 

 

「うるせェな、ゴチャゴチャと! テメェにかまっているヒマなんざねぇんだよッ!」

 叩きつけるようにセフィロスが叫んだ。

「セ、セフィロス……よしたまえ……」

「聞いてたんだろ、ザックス!? 絶対に誰にも言うんじゃねーぞ! それからテメェもでしゃばるなよ!」

 いかにもセフィロスらしい物言いだ。

 彼は一刻の猶予もならぬといった風情で、我らを置き去りにさっさと歩み去ってしまった。ドカドカという足音が遠ざかってゆく。

 それを見送る形になる我々…… 私たちもすぐにでも行動を起こしたいところだが、ザックスだとてこのまま引きはしないだろう。

「やれやれ、結局後始末は俺たちに押しつけていくんだからね、彼は」

 ジェネシスは吐息混じりにそういうと、軽く辺りを見回してから、

「お入り」

 と、ザックスを、いったん部屋の中に招き入れた。必然的に私とツォンも、もう一度戻る形になる。

「ザ、ザックス……すまない。わ、私は……」

 青ざめた精悍な横顔が痛々しくて、つい詫びの言葉が口をこぼれる。

「……いいから、女神。俺が説明するよ。話が終わるまで君は座っていてくれたまえ」

 至極穏やかな口調で、ジェネシスが言った。

 そう……こんなときでさえも、彼はひどく冷静で穏やかなのだ。昨夜のせっぱ詰まった様子と別人かと思うほどに……

 彼の側に居ることで、私自身も浮き足立たずに済むのであった。

「ザックス、どこから聞いていたんだい?」

「え……あ…… いや、テロリストが……とか、まだわからないとか……クラウドたちの名前が出て……」

 要領を得ないザックスの返答。気の毒に……きっと頭が真っ白になってしまっているのだろう。

「……まぁいいさ。おまえがとても動揺しているというのはわかったよ。……そう、どうやら、チョコボっ子たちは、実習中に巻き込まれてしまったみたいだね。テロリスト……いや、実際どんな組織なのかもわからないのだが、敵は神羅の修習生である彼らを捕らえ、本社に要求してきたんだ」

「……要求……?」

「そう。人質の身の安全を保証するかわりに、スターレイジの設計書と、十番魔晄炉の停止を要求してきた」

「……スターレイジ? あの、兵器開発部門の……」

「ああ、そうさ。かなりの予算を掛けて開発中の新兵器だよ。……まぁ、そんなことはどうでもいい。問題は、神羅本社が彼らの要求をのむつもりがないということだよ」

 ザックスの青ざめた頬に、カッと血が上った。