〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<63>
  
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

「お、ヴィンセント。……どうだった!?」

 談話室に入るなり、セフィロスがすぐさま立ち上がった。

 ……密談の場所を、他の社員に知られるわけにはいかない。本来なら私の執務室やセフィロスたちのMTルームなどが適当なのだが、今回は敢えて普段あまり使われていない、図書センター奧の談話室を利用した。

「……すまない。私の力が足りずに」

 私は力なく首を横に振った。

「チッ……! あのクソデバラ禿オヤジめ!」

「余り強く説得するようなことはしなかったんだ。万一にでも、私の真意に気付かれてしまうと、動きがとりにくくなるだろう。阻止されるのは明白だからな」

「それで正解です。上層部に気付かれてしまっては、元も子もありませんから」

 とツォンが言った。私はそれに頷き返した。

「フン、まぁいい。では早速これからの方策を考えねばな。ただでさえ、あまり時間がないんだ」

 せわしなさげにセフィロスが言う。さもあろう。昨日の今日の話であるが、時間はすでに四十八時間を切ろうとしているのだ。

「おい、ジェネシス。……ジェネシス!!」

 セフィロスが遠慮無く、ドカッとジェネシスの足を蹴り飛ばす。

「え、あ、ああ。そうだな」

「てめェ!なにを幸せそうに惚けてやがる! 時間がねぇって言ってんだろ!」

「ああ、わかっているよ」

「悪巧みはテメェの領分だろうが!さっさと頭使え、頭を!」

 焦りと苛立ちを、一番気心の知れている同僚にぶつけているのだろう。ほとんどセフィロスの八つ当たりだと思うのだが、実際、ジェネシスはずいぶんと静かであった。

 ……心当たりのある者としては、なんとなく気まずくもあるのだが。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、まぁまぁ、セフィロス。事は急を要するが浮き足だっては危険だ……」

 慣れない仲介役を引き受けるのだが、私は言葉巧みな人間ではない。ぼそぼそと覇気のないしゃべり口調が、いっそうセフィロスの苛立ちを煽ってしまいそうで不安だ。

「ああ、クソッ! テロリストの間抜けどもめ!どうせ人質にとるなら、出腹禿げオヤジか、ワガママ息子を引っ捕らえればよかったんだ! そうしたら、喜んでそのまま放置してやるのにッ」

「セ、セフィロス……」

 いわずもがなプレジデント神羅と、ルーファウス神羅副社長のことである。

「神羅のやり方が気に入らないってェのはァ、オレ様だって理解出来る部分はある。……だがな、神羅の社員とはいえ、未成年の修習生を拉致監禁して交渉しようなんざ、まともな人間の考えることじゃねェだろ。絶対に容赦せん。皆殺しにしてやる!」

 叩きつけるように彼は言った。その気持ちが十分理解出来る。

 ……それと同時に、こんな所行すら行われるほど、神羅カンパニーには憎まれているのだということがショックだ。

 テロリストといっても、どの組織が相手なのか、詳細は不明だ。だが、当然神羅に憎しみを抱く者らが此度の一件を引き起こしたと考えるべきだろう。

「だいたいクラウドが何をしたって言うんだ! ただ可愛くしているだけじゃねーか。それなのに、一方的に……」

「ゴホンッ……セフィロス、話が逸れているぞ」

 私が宥める前に、ツォンが話を元に戻した。

 

「……皆、これからの予定はどうなっているのだろうか? ミッションが入っている者は?」

 今日は休みだが、明日は普通に仕事がある。私は皆を見渡してそう訊ねた。

「基本、今日は休日だろ。明日もオレは予定を入れていない」

 とセフィロス。

 ……おそらく、なにか頼まれていたとしても、きっぱり断ってしまったのだろう。

「……私も基本的にはフリーです。デスクワークの雑務はありますが、それはいつまでというものではありません」

 と、ツォン。

「……ジェネシスはどうだろうか?」

「ああ、俺も何もないよ。……今は、つまらない書類とにらめっこする気にもならないしね」

 ほぅ……とため息を吐くジェネシス。

 ……あの……まだ余韻を引きずっているのだろうか、彼は?

「たりめーだろ。机仕事やってる場合じゃねェ! おい、おまえ、さっきからボケッとしやがって!」

「いや……そんなことはないさ」

「なんか悪いモンでも食ったんじゃねーだろうな。それとも二日酔いか?」

「二日酔い…… ああ、酔っているといえば、これもそうなのかな……」

「ジェ、ジェネシス……? あの、具合が悪いわけでは……」

 思わず私は彼らの会話に割り込んだ。

 まさかジェネシスが場違いな受け答えをするとは思わなかったが、どうにも私自身が居たたまれないからだ。

「……まさか。違うよ、女神。ああ、すまない、心配させてしまって」

「い、いや……。ええと、では私を含め、少なくとも予定刻限までは自由に動けると考えてよいのだな」

 確認の意味も込めそう告げた。

「もちろんだぜ」

「はい、ヴィンセント」

「……君の指示に従って動くよ、女神」 

 彼らは三人三様に頷き返した。

「……わかった。では、私はこれから魔晄炉周辺を調べに行く。セフィロスとジェネシスも社の周辺を当たってみてくれ。ただし、ふたりとも別行動で、だ。君たちが一緒にいると目立ってしまうからな。携帯は持って出るが、万一のとき、通信キーは……」

 私は手早く連絡方法を示した。携帯電話の電波が通じない場所でも、位置を知らせるための、特殊な通信があるのだ。

「了解した。ジェネシス、オメーはオレ様と逆方向へ行け」

「わかったよ。……女神、君も十分気を付けて」

 ふたりはすぐに立ち上がった。

「それからツォン。すまないのだが、君には兵器開発部門で、例の機器を担当している部署に探りを入れてもらいたい。全設計図を直接見ている者は非常に限られているだろうから…… 内通者が居る可能性も捨てきれない」

「了解しました。……ただ」

「そう。ただあまりにも時間が無いな。ほとんど希望的観測なのだ。だが、少しでも気になる人物がいればマークしておいて欲しいんだ」

「承知いたしました」

 ツォンはしっかりと頷いてくれた。タークスの主任が兵器開発部門に顔を出すのは、それほどめずらしいことではないゆえ、適任かと考えたのだ。

「よし、では皆、行こうか」

 

 せっかちなセフィロスが、勢いよく扉を開ける。

 バンッ!という、あきらかに弾けるような強烈な音。

 その場所で聞き耳を立てていた人物は、反動で思い切り吹き飛ばされてしまった。

 

「ぐおっ! い、痛ってェ〜……」

 隆とした筋肉のついた腕で、もろにぶつけてしまった頭を撫でている。

「君……ザックス……? ソルジャークラス2ndのザックス・フェアではないか!」

 クラウドと同室のソルジャーを、私は穴が空くほどに見つめた。