〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<58>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「……ジェネシス……?」

 わずかに身をもたげ、額を押さえるようにしているジェネシス。

「ジェネシス…… どうした…… あの……?」

 心配になって差しのばした手を、彼が掴んだ。

 乱暴な力ではなかったけれど、容易にはふりほどけない程度の力で強く……

「女神……すまない。俺はやはり紳士ではないようだ」

「ジェネシス……?」

「ダメなんだ…… 我慢できそうにない」

 彼が何を言っているのか、すぐには理解できなかった。

「え……あ、あの……」

 私の腕はそのまま寝台に、押さえつけられた。

 彼の大きな身体が、私を組み敷く形で上になる。

 繰り返すが、決して乱暴にではない。そうであったら、恐怖を感じるはずだから。

「となりに……君が居ると……自制が効きそうにないんだ」

「ジェネシス……」

「女神。嫌なら出て行けと命じてくれ。……頼むから、きつい言葉で拒絶してくれ。でないと……俺は……」

 うめき声が泣き声に変わりそうで、私はその方が不安になった。

「……君が俺を見つめてくれるようになるまで待とうと…… 初めて君に逢って恋をしてから、ずっと……ずっと、そう決めていたのに……」

「……ジェネシス……」

「こんなふうに無理矢理ではなく、君が俺を受け入れてくれるようになるまで…… 待って……い……ようと……」

 彼の喉がグッと鳴った。

 頭を落とし、項垂れた様子で懺悔するジェネシス。髪の毛先が下になっている私の頬に触れた。その表情を伺いみることはできない。

 だが途切れがちの物言いと、小刻みに震える身体が、彼の思いを私に伝えてくれた。

「時間がかかっても……俺の気持ちを受け取ってもらうようにと…… だが……」

「ジェネシス……」

「だが、やはりダメみたいだ。こんな形で側に居ると…… もし、今回の件で君を失ったらと……いろいろ考えてしまって……!」

「ジェネシス、大丈夫だ、大丈夫だから」

 私は自由になってるほうの手で、彼の肩のあたりを繰り返し撫でた。

「やさしく……しないでくれ。そんなふうに思いやりを……かけないでくれ。出て行けと……命じてくれなければ…… 俺は……俺は……!」

 ああ、君は真っ直ぐな青年なのだな。

 かつて、君と同じくらいの年頃であった私は、恋する女性に、まともに気持ちを告げることすらできなかったのだ。そして、悪魔の実験を阻止する勇気もなかった。

 

 

 

 

 

 

「……出て行けと言えというのか……? そんなこと……君に言いたくはない」

 私は正直に気持ちを伝えた。

「女神……! 言っているだろう。俺に紳士的な期待をするのは間違っているみたいだ。所詮自制の効かない若造なんだよ……!」

「……いいから」

 ひどくあっけなく、その言葉が出た。

 この世界は私の夢の世界。セフィロスにはちゃんとクラウドという想う存在がいて…… クラウド自身もセフィロスを愛するようになる。

 だから、ジェネシスの想いを受け入れたとしても、クラウドを傷つけることはないと……そう思ったから。

 私を愛してくれているクラウドは、コスタ・デル・ソルでの彼ひとりだから。

 ジェネシスが、私に触れたいと感じるのなら、せめてこの別世界でなら。

 欲してくれるのなら、彼の思うように受け止めてやれると、ごく自然に考えられたから。

 いや……この世界での私が、ジェネシスを想い始めているのかもしれない。

 ……これまで、こんなにも激しく愛を乞われた経験はなかったから……

 

「……君に触れられるのは嫌ではないんだ。今、君を部屋から追い出すよりも、ずっとそのほうがいい」

「……ヴィン……セント……」

 呆然とした表情と、惚けた物言いが、なんだかひどく可愛らしく感じられた。ジェネシスを可愛いなどと……今までそんなふうに思える場面に出会ったことはなかったのに。

 いつも余裕綽々で、人を救う側に回っている彼。

 そんな彼が、こんなにも急き込んで、息を詰まらせて……

「……ジェネシス。君が私を想ってくれているという気持ちがただ嬉しい。ここに来てから、私自身はあまりそういったことを、考える余裕はなかったのだが……」

「…………」

「だが、今こうして私を欲してくれている君を愛おしいと思う。……触れられるのを嫌とは感じないんだ」

 切れ長の双眸が丸く瞠られる。

 私の唇が、拒絶以外のセリフを紡いでいるというのが信じられないように……

「あ、あの……た、ただ、恥ずかしいんだ。ほ、ほら、先だっても言ったが、私は君のような美しい肉体を持っているわけではないし…… むしろコンプレックスのほうが……」

「……好きだ」

 私の必死の弁解など耳にも入っていないのか、彼は重ねるようにそうつぶやいた。

「好きだ……好きなんだよ…… おかしくなるくらい…… 本当に君と出逢ってから…… ずっとずっと…… 君のことだけを想って……」

「ジェ……」

 彼の言葉も私の言葉も途中で途切れた。

 唇をふさがれたからだ。

 ジェネシスの長い指が、私の頬を撫で、こめかみを伝う。

 深い……深い接吻。

 彼の想いが口腔を通って、体内に流れ落ちてくるような、そんな口づけであった……