〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<49>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「あ〜あ、もぅ本社が見えてきてしまった」

 公園通りにさしかかると、ジェネシスがため息混じりにつぶやいた。

「あ、ああ。そうだな。歩いてもあまり遠くはないようだ」

 行きはジェネシスが、すぐに車を拾ってくれたのでそれに乗っていったのだが、今は店からゆっくりと歩いて戻ってきた。

 腹ごなしにもなるし、気分転換ができてそのほうが気分がよかった。

「……どうしたの、さっきから元気がないね、女神」

「いや……その……」

「食事は君の口に合ったのだろう?」

「え、あ、ああ、も、もちろん、とても美味しかった。そんなことではないのだ…… ただ……」

 言いよどむ私を急かすことなく、彼は笑みを浮かべつつ待ってくれていた。

 ……この辺はずいぶん、セフィロスと違う。彼はすぐにいらいらとし始め、『男のくせにハッキリ物を言え!』と怒鳴りつけてくるのだ。

「ええと……その…… あの……おかしなことを訊ねてもよいだろうか?」

「ふふ、なんでもどうぞ。ああ、せっかくだからそこのベンチで聞こうか」

 ひどく楽しげにジェネシスが言う。

 噴水公園のベンチにはすでに人気はなかった。

 しかし念のために、私は周囲の様子を伺った。さすがに遅い時間だから、耳を澄ませているのは公園で遊んでいる子猫くらいのものだろう。

 夜風は少し肌寒く感じたが、気になるほどではなかった。

 

 私は呼吸を落ち着かせると、口を開いた。

「あの……あの…… き、君は……その……」

「なんだい?」

 じっと見つめられて、頬が熱くなる。正直、私自身は彼に対し、彼が私に抱くような感情を持つわけではない。だが、やはりこうして顔つき合わせて、聞きにくいことを口にするのは、照れてしまうのだ。

 私はゴホンとひとつ咳払いをし、気持ちを落ち着けた。

「え、ええと……その……」

 尚も言いよどむ私に、いたずらっ子のような興味津々の視線を寄越す。

「あの……以前から機会が在ればと……訊ねてみようと……そう思っていた」

 そう前置きをした。

「き、君は……その……いったい、私のどこを好いているのだろうか?」

 私はかなり思いきって質問した。

 後から思い返してみれば、もうちょっと訊き方というか……なにもここまで直球ではなく、話の促し方があったのかもしれないが、このときは考えつかなかったのだ。

 ジェネシスは、きょとんとした面持ちで…… 

 ああ、こういうのを『鳩が豆鉄砲を……』と小説では表現するのだろう。そんな表情で私を見ている。

 

 

 

 

 

 

「あ、あの、すまない。ぶ、不躾なことを……」

「いや……ちょっと驚いたけど。君は意外性のある人だなァ、女神」

 ジェネシスのように世慣れた人に、そんなふうに言われると、なんだか呆れられているようで恥ずかしくなってくる。

「す、すまない……私は頭が悪くて……直接的な物言いしかできないんだ」

「そんなことはないと思うけど?」

「そ、その、わ、私はつい最近赴任したばかりの人間だし……これまで君と接点がなかったから……なぜ、君が私のことを、そんなふうに言うのか……理解できなくて」

「ふふ、質問は俺が君のどこを好いているか、だよね?」

「あ、ああ」

「……参ったなぁ、本気で話し出すとそれこそ、一晩付き合ってもらわなければならないほど、時間がかかりそうだけど?」

「え……あ、あの……いや……」

 ジェネシスはあっちの世界でもこっちの世界でも『ジェネシス』だ。

 物言いひとつをとっても、まるで私はかなわない。

 セフィロスには時折、年下の青年だと感じることはあっても、ジェネシスに対してはほとんどそういった印象がないのだ。

「端的に答えるならば『すべてが』、になってしまうのだが、それでは答えになっていないというのだろうね」

「え……あ…… い、いや……その……」

「ええと……困ったなぁ。まずどこからいこうか…… ほとんど一目惚れでもあったわけだから、君の容姿の美しさは、正直大きなポイントだったね」

「よ、容姿……? 君はこんな外見が好ましいのか……?」

 私の声音がひどく疑わしく響いたのだろう。彼はまさに『苦笑する』といった風に笑い、言葉を続けた。

「こんな外見って……君は自分の姿形が気に入らないのかい?」

「ああ、もちろん」

 なぜかこのときばかりは、力強く断言している私であった。

「私の見てくれは決してよいものではないはずだ。それは長い付き合いの自分自身が一番よく知っている」

「どうしてそう思うんだい? どこが気に入らないの?」

 子供から話を聞き出すように、やさしく訊ねてくるジェネシス。私はここでもまた愚鈍さを十分に発揮し、ここぞとばかりに言い募った。

「……すべてだ。陰気で……まるで死に神みたいだ」

「ぷっ…… ハハハハハ! あぁ、ゴメン。笑うつもりじゃなくて……でも、おもしろいなぁ、女神。言うに事欠いて『死神』かい?」

「我ながらかなり近しい例えだと思うが?」

 自信たっぷりに言い切る私に、彼は笑い続けた。

「ああ、可笑しい。君を『女神』と呼ぶ俺に向かって、『死神』とはね。もっとも俺の女神は、どこの教会にでも置いてある陳腐な汎用品じゃなくて、漆黒の髪に、蒼ざめた肌をもつ美しい人だけど」

「…………」

「おやおや、呆れた顔をしているね。どこからそんな言葉が次々に出てくるのだろうかって?」

「い、いや、別にそんなことは言っていないが……」

「ヴィンセント、君は自分の肌の色や髪の色は嫌い?」

 ジェネシスは具体的に尋ねて来た。