〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<50>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 

「え…… あ、ああ、そうだな、好かない。肌は陽に焼けなくて、いつも蒼白いし、私の髪の色は罪の色……」

 ああ、いや、いけない。あまり下手のことを言ってはどこかおかしい人間だと思われてしまう。

「あ、いや…… 髪の色は……別になんとも。ただ、君のような綺麗なブラウンや、セフィロスの美しい銀の髪に比べると……」

「ふふ、やれやれ。では、瞳の色は? 細くて美しい姿態は?」

「め、目は……色が強すぎると思う。肌の色の悪さをすごく強調してしまうから…… か、身体には一番の劣等感がある。食が細いのがよくないのはわかっているが…… 貧弱でみっともない……」

 常日頃から感じていることを率直に伝えた。

「うーん、やれやれ。皆から見て素敵だと思う部分が、すべて君のコンプレックスになっているというのが可笑しいね」

「…………」

「俺には深いワイン色の瞳も、色白で華奢な姿態も十分魅力的に映るよ」

「……でも、私のようになりたいとは思わないだろう……?」

 そうつぶやいてから、なんて子供じみた物言いをしたのかと反省する。しかしジェネシスは、いつものように微笑んで答えてくれた。

「アハハハ、それはもったいないね。だって自分自身が君のような姿をしていたら、誰も愛せずに人生を終えてしまいそうだよ。湖に写る己の姿を見つめ続けたナルシスのようにね」

 ナルシス……ナルキッソスは、若さと美しさを兼ね備えていたギリシア神話に登場する美少年のことだ。

 美の女神アフロディーテさえも彼に想いを寄せたという。

 ナルキッソスは水の中に映ったおのれ自身に恋をし、他人を愛せずにやせ細って死んだのだ。

 

「ジェ、ジェネシス…… は、恥ずかしいことをいわないでくれたまえ」

「ふふ、良い例えだと思うんだけどね。それに誤解しないで欲しいのだが、俺が君を好きになったのは、確かに最初は外見に魅せられた部分は大きいよ。だが、君自身の物の考え方とか、生き様とか…… そうだね、君が他人に接する姿を見ていて、どんどん惹かれていったよ。君は本当に素敵な人だ、ヴィンセント」

「………………」

 いろいろ言い返したいことはあるのだが、口べたな私が物申したところで、きっと十倍になって戻ってくるだろう。

 私は致し方なく、口を噤んだ。すると彼は、

「納得してくれた?」

 と腰をかがめて訊いてきた。

「……いや……諸々の箇所で、議論の余地はありそうだが、特に聞かないことにしておく。君の好みはやはり特異だとは思うが、私のことをからかっているのではないと……それだけはわかったから」

「もちろんさ。まさか本気でからかわれているのだと思っていたの? それこそ心外だよ、女神」

 彼によく似合った、ややオーバーリアクション気味のしぐさでそう言った。

「わかった。君のいうことを信じることにする。……君は私を気に入ってくれているから、共に来てくれると……そういうことなのだな」

「『愛しているから』だよ、女神。言葉は正確に使わないとね」

「あ、愛…… あ、ああ、その…… え、ええと、ジェネシス!」

 復唱するのがあまりに面はゆくて、私は強引に自分の言いたことを口にすることにした。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス。先ほども言ったが……神羅本社に背くだけでなく、無事に帰れる保証もないのだぞ。ミッションのときのように、同僚や部下の手は借りれないし、あの部屋にいたメンバーのみで救出せねばならないのだから」

「もちろん、十分了解しているさ」

「……そうか。わかった。では、私ももはや、くどくどしく訊ね返すのはやめることにする」

 大きく吐息し、私はそう告げた。命のやり取りをするのだということを口にしても、決意は変わらないというのだから。

 もはや彼を口説く言葉を見つけられない。

「……ジェネシス。私が君にしてあげられることは、何かないのだろうか?」

 先ほどからずっと考えていたことを訊ねてみた。

 セフィロスは最愛の少年のために、火中に飛び込む。タークスのツォンは、おのれの信念のために。 

 ……では、ジェネシスは……

 その理由がこの私だと言ってくれる彼に、なにかしてやれることなないかと考えたのだ。

 欲しい物でも、なんでも、私に出来ることならば……

「う〜ん……」

 ジェネシスは形の良い唇に指先をあてがい、思案顔になってしまった。

「あ、いや、無理に考えてもらう必要はないんだ。だが、こんな私のために動いてくれるという君に、何かできることはないかと……そう思っただけだから……」

「『こんな私』だとは思わないけどね。君のためなら、十分身体を張る価値があるよ。でも……」

 困惑したように眉を寄せる彼を見ていたら、頬にカッと血が上ってしまった。