〜 午 睡 〜
〜コスタ・デル・ソル in ストライフ一家〜
<48>
 
 ヴィンセント・ヴァレンタイン
 

 

 

 「おいおい、ちょっと待ってくれないか? 君はセフィロスの参戦は認めたわけだろう? 彼にとって、最愛の人物が、囚われているのだからと」

「え……あ、ああ、それはそうだ。止めてもまず聞かないだろうし、私がセフィロスの立場だったら、迷い無く恋人の救出にいくだろうから」

 私は即座にそう認めた。

「だったら、俺だって条件は同じだと思うけどね」

 と、ジェネシス。一瞬言われている意味がわからなくて、クラウド以外の修習生の中に、彼にとって重要な人物がいるのかと思ってしまった。

「どうしたの?不思議そうな顔をして」

「あの……ジェネシス。条件は同じ……とは? 君にとって特別な縁のある者が関わっているのか?」

「何を言っているのだか、女神。君がいるじゃないか」

 少し呆れたように、両手を広げ首をかしげてみせるジェネシス。

「は……?」

「子供たちの救出に赴くと、君が最初に言ったんだよ? 君が行くのなら、当然俺もついていくさ」

「なッ…… き、君は! なにを言っているのだ! そんな冗談を言っている場合ではないだろう!」

 私はほとんど上から目線で叱りとばしていた。思慮の浅い少年を糺すように。

「私がいるからなどという取るに足らない理由で、このような重大なことを決めるべきではない!進退問題に関わるであろうし、なにより無事に帰ってこられるかもわからない、危険な行為なのだぞ!」

「……やれやれ困ったなぁ」

 そんなふうにつぶやきつつ、ジェネシスは形の良い指をあごに添えた。これは何か考えるときの彼のクセなのだろう。

「どうして君はそんなに自己評価が低いのだろうね。おのれの存在を『取るに足らない』だって? ああ、失敬。別にバカにして笑っているのではないのだよ。ただあまりにも頑なだから……」

「だ、だが…… こ、こんな重要なことを……」

「こんな重要なことだからさ、女神。俺は君が思っているほどの正義感でも勇気ある戦士でも何でもないよ。どちらかというと戦闘など大嫌いさ。服も汚れるし、汗もかくし」

 本当にうんざりだといった表情でそういうジェネシス。

「正直、君がこの一件に関わりを持たなければ、俺も何の興味も抱かなかったと思う。……もっともチョコボっ子は知り合いだから、心配くらいはしただろうけどね」

「ジェ……ジェネシス」

「でも、俺の愛する女神は、こんな非道な事件を見逃せる人ではない。本社の総意に背いてでも救い出しに行くというのだから、もちろん、俺も一緒に行くと言っているんだよ。ただそれだけさ」

「……で、でも……」

 何とか反論しようとしたが、

「だいたい、無関係というのなら、つい最近赴任してきた君こそ、そう言えるではないか。セフィロスのようにチョコボっ子と深い関わりがあるわけではないようだし、他の子たちについては名前だって知らなかったくらいなのだろう?」

「そ、それは……そうだが……でも、皆、神羅の修習生だ。このような時にこそ、上官が自らの立場と命をかけるべきなのだ。……神羅の上層部がそれをしないのなら、直属の上司にあたる、軍事部門長補佐の私がする。……理にかなっていると思う」

「……俺は、君が彼らの上官でなくとも、同じようにしたと思うけどね。まぁ、それは議論になってしまいそうだから置いておこう」

 ジェネシスはそう言って優雅な手つきで、新しいワインを注いだ。

 私にも勧めてくれたのだが、酒に弱い私は、グラスの半分ほどで勘弁してもらった。

 

 

 

 

 

 

「ジェネシス…… 本当によいのだろうか? この一件で、前途ある君の将来の保証は、なくなってしまうかもしれないのだぞ……?」

「ふふふ、そうだね。じゃあ、神羅を首になったら何をして食べていこうかな。自意識過剰かもしれないが、ファッション関係には興味もあるし、モデルやデザイナーなんかもいいかなぁ」

 クスクスと笑いながら、冗談でもなさそうにそんなことをいう。

「コンピューターグラフィックは昔からの趣味だから、そっちで仕事をするのもいいね。マスコミには知り合いも多いし」

「そ、それは……君なら何をしても十分成功するだろうが……」

 彼が神羅を解雇されるなどということは、考えたくもないのに、器用で才長けたジェネシスならば、どんな仕事でも如才なくこなしてゆくのだろう。そう思えて、ついつい彼の気軽な物言いに頷いてしまった。

「だ、だが、懲戒免職などは、絶対に避けなければ……! 君は軍人として、非常に優秀なのだから。何も神羅のために言っているわけではない。君のようなソルジャーが居れば、いくらでも力ない人を救うことができようし、それに……」

「ははは、そんなに誉めてもらえるとはね。思いの外、君の中での俺の評価は高いのかな」

「そ、それはもちろん! ソルジャークラス1stとしての活躍は、私だとて十分知っているのだから」

「だが、CGデザイナーでも、ファッション関係などでも食べていけそうだろう?」

「君は才ある人だから。さきほども言ったように何をしても、成功するのだろうが…… でも……私のためになぞ……」

「ふふ、どうもありがとう。そう言ってくれるのなら、今回のことについては、君がそう心配しないでくれたまえ。俺は自分の意志で、君らの救出計画に協力したいと思っているのだから」

「だ、だが……ジェネシス……」

「ただ、その動機が君だというだけのことだよ」

 艶然と微笑まれ、私には二の句が継げなくなった。

「その結果、ソルジャーを続けようと、デザイナーになろうと、マスコミに転身しようと、それならそれで、楽しそうな人生が待っていると思うよ」

 私のこと云々はともかくとして、ジェネシスがここまでハッキリ口にしているとなれば、意志は固いのだろうし、もともと人の意見で動く人物ではない。

 ただ……ただ、どうしても、私には、彼の動機に納得がいかなくて……

 食事の席だったし、その後は出された料理を、十分に楽しんだ。

 

 ……少なくとも、ジェネシスはそのように見えた。